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ダンジョンガイドさんの仮想現実生活ログ  作者: まいなす
『第1話 ダンジョンガイドさんは迷った』
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28


「わかった。わかった、もういい。聞いた俺が悪かった。だからシャノ、少し落ち着け」


 肩で息をしていたシャノは、渋々といった感じで俺の胸倉を放す。シャノのおかげで、彼女以外のパーティーメンバーとの絆とか信頼とかっていうのものの構築はもう簡単には不可能のように思えた。


「おーけー。俺もクエスト受けたからにはちゃっちゃと穏便にクリアしちゃって報酬をもらいたい。だから、あんたらに俺が必要だってことを見せてやるよ」


 なので、打算的に俺を信用してくれるように俺は両手を挙げて提案。それにユーリくんが代表して応えた。


「見せてほしいな。僕もよくわからない人間を入れて、大切な仲間を危険にするわけにはいかないから」


 彼のその言葉に、ハーレムメンバーたちが頬を染める。や、やりにくいな。これからユーリくんの行動に反応する彼女らはあんまり見ないようにしよう。そう思いながら俺は荒廃した石柱の林の中心にある白いモノリスを指差す。


「あんたたち、ここで野営してるってことはもうアレを見たのか?」


 俺の質問にユーリくんは頷く。


「あれってなによ」


 何も知らないシャノが話に入ってきた。おそらく事前にダンジョン情報を収集するなんてことは一切やっていないのだろう。その時点でテンでお話にならないわけであるが、その話はまた今度だ。


「見たほうが早い。シャノ、遠くにあの白いモノリス見えるだろ。こっからだと五百メートルくらいあるかな。お願いだ。あれにタッチしてきてくれ」


「はあ? なんで、このあたしがあんたのお願いを聞かなきゃいけないのよ。タッチするだけでいいわけ?」


「うん、レッツゴー。できればダッシュでな」


「……仕方ないわね。行けばいいんでしょ。行けば」


 俺は白いモノリスに向かって走っていくシャノの背中に手を振って見送る。しかし、彼女の軽やかな走りは、石柱が乱立する林の中に入ったとたんに阻まれた。地面を揺るがす轟音によって。そして白いモノリスの周辺の石畳が隆起していく。シャノは飛び上がって、慌てて駆け戻ってきた。


「なっ、ななな、ななっ! 何かした、あたしっ!」


 口をわなわな震わせて泣きそうな顔になるシャノを見て俺は笑う。


「あっはっはっ。起動しただけだぜ。【デブリス遺跡大迷宮】に入る人間を『選別』するための仕掛けがな。ほら。あっち向いて、ほい」


「え? なっ、なによあれっ!?」


 シャノは驚愕した。それもそのはず、さっきまで白いモノリスがあった場所付近には、仰ぎ見るほどの高さのある巨大な立方体の構造物がデデーンと鎮座していたからだ。


 その構造物は無数のこれまた立方体の巨石キューブによって構成されている。キューブは人間大ほどはあり、たえず動いていた。右へ、左へ、手前へ、奥へ、上へ、下へ。


 一つマスが空くとそこに隣接するキューブのどれからがそこに当てはまる。その動作を無限に繰り返している。まるで立体パズルのように。今でこそ、キューブの移動速度は五秒に一マス程度であるが、向こうに近づいていくにつれてその速度は増していき、最終的にはコンマ数秒以下の速度で組み変わるキューブの動きを見定めなければならないことを俺は知っている。


「俺の予想が正しければ、あんたたちは足止めくらってんじゃない?」


「……まあね。正直に言うけど、お手上げだよ」


 ユーリくんはニヤニヤする俺に少し笑って肩をすくめた。


「君たちが来るまでに偵察くらいはしておこうと思ったんだけど、あれをどうしていいのかわからなくて困ってるっていうのが本音なんだ。おそらくキューブの動きを遅くする仕掛けか何かがあると思ったから昨日、いろいろと周りを探してみたんだけれど、何も見つけられなくて。それにキューブの組み替わりに法則性があるかどうかも少し調べてみたんだけど、昨日今日とおよそ半日みた限りでは全然わからなかった。恥ずかしい話、僕らはあの【デブリス遺跡大迷宮】に入るところでつまづいている状況だよ」


「まあ、だろうな。入り口を開くまでが、このダンジョンの最初の大きな難関だからな」


「え? あれが【デブリス遺跡大迷宮】じゃないの?」


 呆けていたシャノが巨大なルービックキューブを指差していう。


「いやいや。あれは門を開くための鍵さ。このくらいはクリアできるプレイヤーが一緒にいなきゃ、このダンジョンには入らない方がいいですよー、ていうシステムの救済措置だな。まあ、そもそも【デブリス遺跡大迷宮】は地下ダンジョンだからな。つまり、お前の質問は大まぬけで的外れも大概にせーよ、という批判につながるわけだ」


「うっ、うっさいバカ。シャノーラちゃんはそんなみみっちいこと調べる必要はないの。どーせ、ユーリとかがやってくれることだし。ねえ?」


「え? うん、まあね。一応」


 ユーリくんは諦めたような笑みで頭をかく。それを見てシャノは鼻を鳴らした。


「ほら、ごらんなさい」


「てい」


 シャノのおでこにデコピンする。


「あぅっ」


 涙目で額を押さえて、こっちを睨むシャノ。


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