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「シャノの姉御はなんでこんなヤツ連れてきたんだ? つーかモンスターとの戦闘の役に立たないくせにアンタ何しに来たんだよ。ホントにこのダンジョンクリアしてんのか?」
「してるしてる。実績見る?」
「へっ、どっかの強いパーティに金魚のふんみたいに紛れてクリアしただけなんじゃねーの?」
「こ、こらミカゲ。トーノに失礼だろ」
「う、ご、ごめんなさい」
ユーリくんに窘められたミカゲちゃんが一気にしょぼくれる。そして、彼女は俺を親の仇みたいに睨むのだ。テメェのせいで好きな人に怒られた、そんな台詞が聴こえてくる。怖い怖い。
すると、俺とミカゲちゃんの間にスッと入ってくる影が一人。
「トーノを馬鹿にしたらあたしが許さないわよ。あんたたちには先に言っとくけどね。トーノはすごいんだからっ!」
シャノである。彼女はまるで自分のことのように胸を張って言い切る。何だかとてもありがたいことを宣言してくれた気もする。しかしながら、今のところ俺を一番貶しているのはシャノだと思うんだけどね。
「どうすごいんだ?」
「へ?」
俺の問いかけにシャノは振り返って首を傾げる。
「だから、俺のどこがすごいんだ?」
俺はシャノに凄いところなんて一度も見せてなかったと思うので聞いてみたのである。やって見せたことと言えば、ダンジョン攻略のいろはのイの部分くらいを教えたくらい。まあ、それもシャノに身についているとは到底思えないけど。
「え? あ、えっ、えー、えっと」
案の定、彼女は必死に何かを探すように視線を宙にさまよわせた。
「え、えっちなところ……とか?」
やっと出てきた答えがそれっすか。シャノ以外の女性陣が半歩引いたのを感じた。おそらく心の中では四千キロメートルくらいドン引きされたことだろう。あと、ユーリくんの温和な目が若干険しくなったような。ご、誤解だー。
「あのねえ。あんた俺を社会的に殺す気か?」
「しっ、仕方ないでしょーっ。あんたのすごいところなんて恥ずかしいから正直に人前で言えるわけないじゃないっ。それにえっちなことしたのも事実でしょっ。あんなことやこんなこと、あんたやったじゃないっ。それにっ、あたしがっ、してるとこ見たしっ。思い出させないでよ、もぉーっ」
顔を赤くして怒るシャノは俺の胸倉を掴んで前後に揺らした。女性陣の瞳が俺に焦点を合わせていない。おそらくもう視界には俺の姿を納めたくないのだろう。あと、ユーリくんは妙に笑顔だが、彼の左手が腰につっている長剣の柄を撫でている。ご、誤解だー。誤解だよー。




