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「なにしてくれてるんでしょーか」
「トーゼン。あたしにぬか喜びさせた罰よ」
何をぬか喜んだというのか。やっぱりムカついたので俺もシャノに習って彼女の頬をつねった。シャノは顔を赤くすると、ムッとした表情で俺のもう片方の頬をつねる。なので、俺も彼女の反対側の頬もつねった。
「はっ、放しなさいよっ!」
「そっちこそっ!」
ひそひそ話の根底をかなぐり捨ててでも叫び始める俺とシャノ。
「んにゃろーっ! はーなーせーっ!」
「それはこっちの台詞だ馬鹿めーっ!」
こうなってくると憎しみの連鎖は止まらない。お互いにどんどん指の筋力をボルテージしていく。しかしながら、俺の筋力値はすぐさま上限いっぱいになるので、結果は目に見えていた。けれども、男には負けられない戦いがあるのだ。俺の意地は痛覚を超越する。
そんなわけで、醜い争いはユーリくんの笑い声が耳に入ってくるまで続いた。
「あははっ、シャノとトーノはとても仲が良いんだね」
彼の無邪気な声に、俺とシャノは顔を見合わせ、お互い顔を赤くして怒る。
「だれがっ!」
「こんなやつとっ!」
そんな様子を見て、ユーリくんはさらにお腹を抱えて笑い始めた。彼の周りにいるハーレム要員たちも頬を緩ませてこっちを見ている。恥ずかしー。
「あんたのせいよ、もぉーっ!」
シャノが羞恥で真っ赤になった顔をギルメンの視線から両手で隠しながら、ジト目で俺にかみつく。お互いに何をそんなに恥ずかしがってるのか俺もわからないが、恥ずかしいもんは恥ずかしいのだ。
「俺のせい、なのか?」
「あんた以外に誰のせいよっ!」
「……なんか、ごめん」
「……な、なによ。……あたしのほうこそ、……ごめんなさい」
そっぽを向いて不機嫌そうに腕組みしながらシャノは言った。
気まずい雰囲気になる。
その様子を眺めていたユーリくんがポツリと呟いた。
「本当に、シャノと仲が良いんだね」
そして彼は俺の方を見て、意味深な表情で続けた。
「トーノが羨ましいよ」
笑い声が、死んだ。
あ、え? も、もしかして?
俺の直感というか、なんというか。
ユーリくんの台詞と、そんな彼の台詞にぴくりと反応したミカゲちゃん、ミミ、ダルマさん、そしてドクの四人の女の子たち。場の空気がぴしりと音を立てた気配から察するにこれは。
「ん? どうしたのよ。急にみんな黙っちゃって。あ、もしかしてー、あたしの可愛さに見惚れてた?」
KY発言をするシャノは気づいていないらしい。
どうやら、ユーリくんはシャノのことを好いているようだった。




