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「ちなみに――――」
俺はシャノに耳打ちした。
すると彼女は『ひゃんっ』と可愛い声をあげて飛びのく。その声に驚いた他の全員がこっちを注視する。シャノは頬を赤くしながら咳払いして、俺の隣の席へと戻った。
沈黙。
しばらくして注意は霧散する。他の五人は彼ら彼女らでラブコメ的展開を繰り広げ始めていた。ドクがユーリくんに膝枕を所望し、それに突っかかるミカゲちゃんをミミさんが困った顔でなだめながらもチラチラとユーリくんの膝を気にしていたり。そのどさくさに紛れてユーリくんの膝に顔面からつっこんでったダルマさんに、他の三人がツッコミを入れる。終始、ユーリくんはタジタジだった。その所作は男の俺から見てもキュンとくる。
強くて愛嬌のある謙虚なイケメン。なにそれ、最強か?
これはあれだな。
さては滅茶苦茶モテるな。他にもおそらくハーレムメンバーが数人いるとみた。
「何すんのよ」
俺がニヤニヤしていると、隣でシャノが耳を引っ張ってくる。
「痛い痛い」
いってーな、このクソアマ。
「ふん。あたしの耳に不意打ちなんてやってくれるじゃない」
「まあまあ、落ち着けよ。悪気はなかったんだ。ただちょっと気になったことがあって」
「何よ」
「シャノもユーリくんのことが好きなのかなって」
あ、あれ。
なんか判断しづらい微妙な顔をされた。
「だったら、なによ。……あんたには関係ないでしょ」
「いや、そうでもないんだけどな」
「な、なによ。それ。ど、どど、どういう意味よ?」
期待するような眼差しで返答を求められるが、何を言ったら正解なのかわからないので正直に答える。
「いや、もしシャノもユーリくんのことが好きだったとすればだぜ? 完全なユーリくんハーレムパーティの完成じゃんか。そうなってくると俺、あんなラブコメの中に一人だけ組み込まれるわけだろ? それはちょっといくら何でも無理かなって。男として耐えられないかなって」
ハーレム漫画とかでよくある主人公のチャラい男友達の気持ちをできれば味わいたくはない。悲しいので。するとシャノは恐々としている俺を眺めて、飽きれたといったふうなため息を吐いた。
「はあ。小さい男ねぇ。シャノーラちゃん、ちょっとあんたにゲンメツしちゃったわー」
「はん。もともとあんたは俺に良い幻想を抱いてないだろ」
「も、もちろんそうよ。…………それで、あんたはどう思うのよ」
「なにが?」
「あたしがもし、ユーリにベタベタしてたらよ」
「…………そりゃあ、まあ。良い気分は、……しないかも、な」
俺の答えが意外だったのか、目を丸くするシャノ。彼女は俺の顔をじっと眺めると、次第に頬を緩ませてきて、終いにはにんまりとしたとても悪い笑みを浮かべる。




