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「おい。トーノ、てんだっけ? さっきから偉そうにしてっけど、アンタはここに挑戦したことあんのかよ」
ユーリくんの前に自己紹介してた背の小さいハーフニンフの女の子――――ミカゲちゃんが俺に食ってかかる。彼女が一番、俺に対しての敵対心とか猜疑心が強い。彼女は盗賊系ジョブの上級職である【忍者】。おそらく、さっき俺が面倒なので自分のジョブを騙って、同じ盗賊系ジョブ上級職である【略奪者】を名乗ったせいで、ヘンに対抗心を燃やしているのだろう。
まあ、【忍者】は盗賊系ジョブの中ではわりと戦闘向きのステータスなので、俺とは違ってモンスターともちゃんと渡り合えるから、モンスターバトルが始まってすぐスタコラる俺を見たら彼女も自尊心も取り戻すだろう。
あと、彼女はユーリくんのことをどうやら好いているようだった。彼女がユーリくんと話しているときはいつも顔が赤くなるからバレバレである。俺に対抗心を燃やしたのも、ユーリくんが自分を頼ってくれなくなるのが嫌だと思ったからではないだろうか。
可愛いじゃないか。
ほのぼのとした俺は、ミカゲちゃんの質問に正直に答えた。
「挑戦したこともあるし、クリアしたこともあるぜ」
『おー』という声がミカゲちゃんとシャノ以外から上がる。前者は舌打ちをして俺から顔を背け、後者は『ちょっとトーノっ! なにそれ自慢? このあたしに自慢するなんて百億光年早くない?』とか言って肩をビシビシ叩いてくる。指摘はしないけど光年は距離の単位だと知っているのか、このバカタレちゃんは。
「それはとても頼もしいじゃないの。シャノがキミを推薦したときは話半分だったけど、聞いた通り頼りになる人間らしいね。私はミミ。ジョブは【吟遊詩人】で武器は御覧のようにこのコンジットボウと、あとはこの『声』ね」
ミミさんはエルフらしく尖った耳を金色の髪からのぞかせながら、簡単な唄を披露してくれた。歌について素人である俺でも、彼女がドリアードに匹敵するくらい良い歌い手であるということがわかる。
なので自然と、歌い終わった彼女に拍手がでてくる俺である。恥ずかしそうに照れたミミさんが手を差し出してくる。
「ありがと。よろしくね、トーノ」
「ああ、よろしく。ミミさん」
「ミミでいいわよ」
「ああ、うん。じゃあよろしく、ミミ」
俺が彼女とガイド業時の営業スマイルで握手していると、隣で座っていたシャノの肘が脇腹に入った。どういうわけか彼女は不機嫌そうだ。
「あらかじめ言っとくけど、ミミはユーリにゾッコンなんだからね? あんたなんかアウトオブ眼中なんだから」
シャノが耳元でこそこそと暴露してくる。うん、知ってる。なぜなら、ミミがユーリと話をするときは決まって耳がピクピクと嬉しそうに動いているのだ。




