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 無人の部屋に電話のコール音が鳴り響いた。

「はいはいはいはい、今出ますからー!」

 コール音より騒がしく部屋に飛び込んできた青年が、受話器をひっさらうようにして取り上げた。

「はい、立原技研――あ、社長。ご苦労様です。はい――はい、チーフですね、少しお待ちください!」

 通話を保留にして、立原技研の三人目の社員である蔵石信介くらいし しんすけは、開け放したままのドアから首を出した。

「チーフー! 社長からお電話です!」

 ドアの向こう側の部屋は、蔵石が電話をとった部屋と同じくらいの広さがあるが、面積の大半を机とその上に乗っている機械で占められているため、小さな立体迷路の様相を醸している。

「――あのさ、蔵石くん」

 機械の間から、ややうんざりしたような声が返ってきた。

「今時、電話をつなぐのにいちいち声を張り上げるのはどうかと思うんだ。内線かけて回せばいいだろう?」

「他の人なら僕だって大声で呼んだりしませんよ。そんなに広いわけでもないんですし」

 咎められた蔵石は、わざわざ部屋の入口まで戻って子供のように口を尖らせた。

「でもチーフ、電話の呼び出しに一切出ないじゃないですか」

「そんなことないよー。蔵石くんが知らないところで電話に出てるだけじゃないかな」

 PCディスプレイの向こうからてっぺんだけ覗く頭が揺れる。蔵石は鼻で笑った。

「立原技研の電話番の僕が知らない電話なんて無いと思いますが」

「蔵石くん、その台詞、自分で言ってて悲しくならない?」

「そう思うならチーフもちゃんと電話に出て僕の他に仕事をさせてください! 僕だって峰岸みねぎしさんみたいにバリバリ営業に出て映画見て喫茶店でコーヒー飲んでサボったりしてみたいです!」

「それは蔵石くんと峰岸さんのどっちを怒ればいいのか悩むね」

「いいから早く社長からの電話に出てください! 保留の1番です!」

「はいはい。今出ますよ。――もしもし、暁? ごめん、そんなに怒るなよ」

 受話器を持ち上げて繋ぐと、案の定、白崎暁の不機嫌な第一声が聞こえてきた。

「遅い。座ってるだけなんだから電話くらいさっさと出ろ」

「ひどいな、俺だって好きで座ってるだけじゃないのに」

「うそつけ」

「うん、嘘です。好きで座ってます」

 即座に言い返すと、しばしの間があった。微かなため息が聞こえてきたので、立原技研の共同経営者で技術部主任の立原陽一郎たちはら よういちろうは、にんまりと微笑んだ。

「それで、今度はどうしたんだ?」

「うん、どうかしたかと言えば、どうかしてるのかもしれないな」

 白崎の答えに、立原は少しだけ驚いた。

「そんなことを言いいだす暁の頭の中が心配だね」

「お前に心配されることくらい不安なことはないな。それはともかくだな、今、後輩と一緒に来てるんだが」

「後輩って、さっき言ってた新人候補の子? 待った、なんでそんなところに連れ回してるの。仕事にかこつけて女子大生と遊んでるなんて、上に立つものとしてあるまじき姿だよ」

「お前にそんなこと言う権利はないだろうが。だいたい、一秒でも早く見に行ってこいって言ったのは誰なんだ」

「それは俺だけど。女子大生と一緒に行けとは言って無いじゃないか」

 電話の向こうで、さらにため息が深くなった。

「……お前がそんなに気にしてる女子大生だけどな」

「うん? 実は暁の好みだった?」

「んなわけあるか! そうじゃなくて、あれはちょっと……いや、かなり変わってるぞ」

「へえ」

 立原は受話器を握り直して、にんまりと微笑んだ。

「それは会うのが楽しみだなあ」

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