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作者: 帚木

 ゆめゆめ忘れてはならないことといったら、門の前には石が置いてあるということだった。据え置きという恐ろしさは、いっそう僕の身に染みた。

 門番は居ない。たまに居たりしてみるのだが、すぐ消えてしまう。常日頃何をしているのかも定かではない。もっとも知る必要もなく、番人の必要性もそれだった。


 扉は厚く重い。

 何でも鋼作りだということだ。容相は単素なのだが、なぜだかそれは吐き気に直接繋がっていた。

 立派な扉だ。横には小さめのくぐり戸がついているが、向こう側からなにやらが打ち付けられているらしく、今は使われていない。

 言うまでもないが、掛けてある金属の輪っかをガチャガチャやっても、何の反応も無い。たとえ扉に何の支障もなく、向こうに人がいたとしても同様だろう。何故か、と問われても返す答えは無い。そういうものだからだ。それになにより石がある。それが一番だ。


 ともかく禍々しい形をしている石だ。見ていて気分が悪くなることこの上ない。そして、何かの様に見えるのだが何にも見えない。確かに在るのだが、無い様にも在る。人の夢の様だ。

 それに何より、本当に恐ろしいことに、その石は据え置かれている。


 僕はそれを見て、いつも体を震わせる。石に見て取れる一本一本の線、凹凸の皮、煤けたような色彩――それら全てが据え置きの中だ。全くもってふざけている。この上なく不浄で不条理で不健康、それ以上に不愉快だ。

 僕は石を見る度蹴飛ばしたくなる。そして、時たまそうしてみる。だが石は砕ける訳も無くそこに在るし、痛くなるのは僕の足でしかない。何とも嫌な気分だ。


 最も扉なんてもんを無くしてしまえば、その石もただの石になる。そして自然に削れていくだろう。が、そういう訳にいかないのは、本当にどうしたことか。


 そもそも、実際扉なんてものは必要ないのだ。その周りには何も無く、広がっているのは地面だけ。そこにただぽつねんと、あるのは扉だけだった。

 しかしあればあるで、僕はそれに目を向けてしまう。そして時たま、そいつをくぐらなければ向こうに行けないように思ってしまう。



 だからこそ、据え置かれている石が恐ろしくて仕方がないのだ。

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