その9「それから……」&「エピローグ」
その9「それから……」
「これから、ずっと党首として、我々を率いてもらいたい」
通信で話した副党首は俺に頭を下げた。
ナイトホークの拠点である洋館で、俺と白夜、花梨、朱音、クロー、母さん、そしてホワイトオウルの皆は、ナイトホーク全員と対面式を迎えていた。
いや、正直急遽すぎるだろとか突っ込みたいが、みんな大真面目だから、その…。
まぁ、とりあえず、今の現状にだけ。
「え、いや、えっと」
なんだ、コレ?
「お願いします。どうか! どうか!」
敵として見ていた集団の現リーダー(大人)に、これから我々を引っ張ってくれと頼まれる俺(子供)
どういう構図だ。
「とりあえず、じゃあ人間至高主義はやめようぜ」
「はい、もちろんです。我々がどうかしてました!」
「そんで、この戦いで死んだ全ての人間に、敵味方関係なく追悼の意を表すんだ」
「もちろんです! 今日を終戦記念日として、皆でこの日は黙祷を捧げます!」
「……あと、俺達には精霊がいるけど、彼女、彼らは皆大切な仲間で、友人だから、そこはしっかりとな」
「もちろん、それは前々より、皆に言い聞かせています!」
「そっか…」
やはり、親父は異端だったわけだ。
今更の話だから、どうってわけじゃないけれど。
「そうね…じゃああと、他にも色々やってほしいことがあるの。皆の力なら、きっと良いこと沢山できるわ」
母さんが横槍を入れてきたので、そこで俺はなんとか会話から逃げ出す。
今の俺には、もっと大事なものがある。
「……女王、いや、ミヤおねえちゃん」
シートの上に横たわる女性の傍に、俺は座った。
「全部、終った。貴方の言うとおり、平和になったみたいだ」
あの夜、彼女が言ったのは、どういう意味だったのか。
「貴方は、ただ俺が貴方に怒るように仕向けたかっただけだったんだ」
太陽が、親父が言っていた。
自分が勝つために、俺をさらった。
それは平和目的のため、太陽に俺が利用されないようにするためだったかも知れないが、結局は、自分の思想を押し付けていたにすぎないから。
「そしてもう一つは、スグに理屈に偏る俺を潰して、あの土壇場であの言葉を言わせるためだったわけだな」
あくまで、俺の予想だし、正解しているとも言い切れないからアレだけど。
けど、そんな感じじゃないのか?
「……陸」
白夜が、俺の隣にしゃがんで、自分の母親を、女王を眺める。
「ん?」
「お母さんがいなくなって、お姉ちゃんも、いなくなった」
「……ああ」
「私、これで一人になっちゃった」
白夜。
目を横に向けて、彼女の顔を見る。
白夜は瞳を潤ませていた。
「……だから、私…」
白夜が、こちらを向いて、俺に何かを言おうとする。
それを、俺が手で静止する。
「…?」
「…一人なんかじゃない」
「え?」
「……一人じゃ、ないだろ? 花梨も、朱音も、俺の母さんだっているし、ホワイトオウルのみんなだって、ナイトホークの奴らも、みんな仲間になったんだ」
俺は後ろを、みんなが話し合って、意気投合していく姿を、見る。
「それに、俺だっている」
一番最後に、付け加える。
「パートナーだろ?」
「……」
白夜は呆然と、俺を見る。
だが、しばらく間を置いて、それから。
「陸っ!」
「うわッ!?」
俺に飛びついて、ぎゅっと抱きついてきた。
いや、なにしてるんです?
「…なんだよ?」
俺は白夜に尋ねる。
彼女は俺をじっと見て、それから
「…パートナーだけ?」
と、尋ねた。
「え?」
「それだけなの? パートナーだから一緒にいるの?」
「え、ええと…?」
何を?
え、どういうことだよ?
「私は、それだけじゃいや」
「んん?」
「パートナーだから、って、そのそれだけじゃなくて…」
「…じゃ、なくて?」
「も、もっと近い関係に、なりたいなって……」
「……ああ…、あぁ?」
耳元で、そんなことを呟やいた。
「近い関係って、お前」
「えっと、えっとえっと」
顔を赤くして、ぱっと俺から離れると手で顔を覆ってしゃがみこんだ。
何をそんなに恥ずかしがるのか
「…白夜」
「……ん?」
彼女が言いたいのは、多分。
パートナーだからって理由は、嫌だということ。
確かに、無理矢理組まされた関係性。
それを理由にしたら、距離が遠いと。
だから近い関係に。
「…俺も、お前と一緒にいたいんだ」
「……う」
「一人にさせないから。絶対に。パートナーとしてもだけど、もちろん友人としてm!」
白夜の飛びつき二発目。白夜が小さい子でよかった。重みがあったらひっくり返るところだった。
「友人?」
「……え?」
「友人なの?」
「……ええっと、じゃあ親友?」
「……」
「えっと、じゃあ家族」
「……む~」
「な、なんだってんだよ?」
「こ」
「こ?」
「こ、こここうぃび……」
「こ、小指?」
何を言っているんだ?
と、白夜は「ぬがー」と叫んで俺の背中をバシバシ叩く。
何か不満らしいのだが、だったら「何として」と言って欲しいか俺に言えよ。その通りにしてやる。
「もういい!」
「え~?」
白夜はそう言って俺から離れ、そして。
「わざわざ言わせなくても、いつか絶対陸から言わせるから、いい!」
「……えーっと」
何を言わせる気だ。怖いからやめてくれ。
「怖くなんかないよ」
白夜はそう言って、にこっと笑う。
……さっきまでちょっと不機嫌だったくせに、どうしてそんな笑顔が出来るんだか。
「だからね陸」
「ん?」
「覚悟は、しておいてね?」
「……はいよ」
白夜はそう言って、朱音と花梨の元へ走っていってしまった。
俺はもう一度ミヤお姉ちゃんの亡骸を見て。
「…」
小さく礼をしてから、白夜のあとに続いた。
「平和って良いよな~」
「はぁ? なんだ爺さんみたいに」
「いや、ちょっと思っただけさ。気にするな」
「…?」
俺の後ろの席に座る井上は、俺の言葉に疑問符を浮かべた。
最後の六時間目が終って、俺は教科書とノートを鞄にしまいながらそんな何でも無い日常に喜びを感じていた。
帰りのホームルームが始まるまでのしばしの時間。俺を含め生徒達は、帰り支度と雑談を始める。そんなところに、一人少女が俺の元へやってくる。
「りくっ」
「やぁ白夜」
俺の机に両手をついて、イスにもたれかかる俺の方へ身を乗り出しながら、白夜は満面の笑みを俺に向ける。
「ねぇねぇ、今日も図書室によって帰りたいんだけどさ!」
「…構わんが」
「やたっ!」
白夜の本好きは、どうも花梨のせいで加速しているな。
あの日以降、彼女達はお昼休みと帰りの時間を共に図書室で過ごしている。俺はなぜかそこに引っ張られているんだが、どうせ暇だし良いか。
「あ~、菊池さん?」
「あ、井上くんだね。なに?」
俺の前を、二人の言霊が通過して、俺はそれによって精気を奪われる。冗談だけどな。もちろん。
「えっと、その、もし宜しかったら、今度の休日にでもアソビに行きませんか?」
「え? えっと、ありがたい申し出だけど、今度の土日は彼氏と約束が……」
井上が、「彼氏」の辺りで急激に硬直する。無理もない。俺は笑いそうになるのを必死で堪えた。
「そ、そそそそそうですか、あはははは、どうもすみません。ところで、そのかれしっていうのは………」
「そうだ」
俺も聞きたい。
いつの間にお前に相手が出来た? っていうか。
「白夜、今度の休みって家族で出かける予定だぞ? なに約束入れてんだよ」
さすがに、そこをはしごするのはキツイだろ。
「ちゃんと覚えてるよ? 出かけるんだよね。ちゃんと空けて、準備してるじゃん」
「いや、だって彼氏と約束があるんじゃないのか?」
「え? そうだよ?」
「でも、その日は家族で出かけるんだぞ?」
「そうだよ。だから準備は万端だし、他に約束は入れてないよ?」
「………えーっと?」
「ん?」
俺らが、そんなことをしているうち、
「…陸!」
井上が、俺を引っ張って教室のすみの、窓際まで移動した。
「お前、何をとぼけているんだ!?」
「何が?」
いや、マジで何?
「……筋金入りか貴様ッ! そうやってお前は幸運を逃していくんだよ!」
「…はぁ?」
訳が分からん。まぁ、井上は昔からこんな感じだったしな。
と、俺はふと、この状況に既視感を覚えた。
「……旭」
「…あきら?」
俺の呟きに、井上が反応する。
「…陸、お前何言ってんだ?」
「…いや、なんでもないんだ」
「はぁ、まったく。お前は羨ましい奴だな、もう!」
井上は俺の肩をぽんぽん叩いて、去って行った。
旭は、SAで死んで、忘れ去られた。
俺のクラスに在籍していたアイツの名は名簿から消えて、クラスの皆の記憶から消えて、写真からも、いなくなった。
旭の家があったところには、ただ空き地があって、しばらくしたら別の家が建設され始めた。
彼は、完全に消えたんだ。
「…りく?」
「ん?」
「大丈夫?」
白夜が俺のところにきて、心配して声をかけてくれた。
「ぼーっとしてたの?」
「平和ボケが激しくてね」
「へいわぼけ?」
「本を読む割には、言葉を知らないんだな」
俺は白い少女の頭をぽんと撫でる。
「…なによぅ」
「なにがだよぅ」
言葉を返して、窓の桟に手をかける。
空は、青色で、雲は白い。
ここは、確かに現実世界だ。
もちろん、俺の世界は何も変わっていない。ただ、一人クラスメイトが消えただけだ。
そうとらえれば、それきり。
「やれやれ」
けど、感情的になれば、悲しいよな。やっぱり。
「陸?」
「ん?」
変化したのは、俺の方か。
あの数日で、俺はかなり変わったんだろうな。
最近クラスで、雰囲気が変わったって言われるのもそのせいかも。
「陸? ねぇ本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。人間はたまに感傷に浸る時があるんさ」
「…ふうん。悲しいの?」
「……どうかね」
いまいち、分からない。
どうなんだろうな。
「悲しいなら、支えるし、困っているなら、助けるよ?」
「そう?」
「うん、パートナーとして、えっと、あとこ、こここうぃびと、として……」
もごもご言ってて全然聞こえなかったが、まぁいいか。
「…ああ、ありがとな」
「全然! こんなの当然のことだもん!」
白夜は俺にVサインを出した。
「……そうだな」
失ったものもあったけど、沢山手に入れたものもある。
それはそれで、俺にとって+だったのかも。
「ところで、陸。もうすぐ先生くるよ?」
「あ、ああ。そうか」
白夜に引っ張られ俺は窓から離れる。彼女は途中で自分の席に戻るために俺からはなれ、俺は自分の席に、一人座る。
そして、ゆっくりと教卓の方へ目を向ける。
「やっぱり、白夜ちゃんと出来てるの?」
俺の様子を見ていたのか、相原が聞いてくるが。
「……ノーコメント」
とだけ、返しておいた。
そんな関係じゃないけど、
……まぁ、気持ちは少しあるわけだから。
しばらくして、教室のドアが開いて、
「それじゃあ、帰りのホームルーム始めるぞ」
教師の声が、普遍的な日常であることと、今日はこれで家に帰ることはできることを、告げた。
「エピローグ」
そういえば、うちも随分と大所帯になったよな。最初に比べて。
いやまぁ、俺と妹弟、伯父さん伯母さんの五人だって、普遍的な家庭からすれば、最近ではちょっと多いほうだけど。
それでも、それに加えて白夜、朱音に、母さんまで増えたんだ。伯母さん伯父さんの家系は大丈夫だろうかと、かんぐる今日この頃である。
でも実際、母さんはかなりの貯蓄を持っているらしく意外とお金には困らないらしい話も聞く。
ちなみに、大地は俺が白夜、朱音、花梨と一緒に家に帰った瞬間「兄貴はモテキか」とかほざいていたことを付け加える。いや、実際好意を寄せられているのは花梨一人だけなんだけどね。ちょっと悔しいとか思ってない。まぁ、男なら誰しもそういう願望あるし。
お前だってそうだろう? ある程度は、持ってるんじゃないか? 持って無い?そうかそうか、それならそれで良い。お前と俺はタイプが違う。
その大地だが、その後に母さんの姿を認めると、妹の美海ともども目を丸くしたあと、叫びながら抱きついた。
母さんがそれを抱きかかえて、俺に小さくウィンクしたのは、結構印象に残ってる。映画だったら感動もんだね。もちろん贔屓目にみて。
そういえば、覚えているか? 最初に言ったこと。
俺は去年まで、普通の中学生だったんだって話。
ああ、俺はしっかり覚えているよ。何せ。最近の俺の日常はもはや普通じゃ無さ過ぎる。
「陸党首、次はこのような案が挙がっていますが、どうしましょう」
とか、いや、お前ら決めろし。ってなる。
「陸党首、~~~と~~~が新規入隊いたしました」
とか、いや、まて誰やねん。ってなる。
そうだろ? 陸党首とかゴロ悪いと俺は思うわけで。つか中学生をトップに掲げていいのかって話だよな。
ああ、いまので分かったと思うけど、ナイトホークは現在俺を党首として活動している。もちろんホワイトオウルの奴らも混じってな。名前は、前のナイトホーク隊員が多数決で大量に賛成したためにこうなった。
活動内容は、「国内の治安介入」だ。うん、かなりマイルドだよね。前と構成員がほとんど変わらないとは思えない。多分、みんな真面目で、純粋だから、前のキチガイみたいな思想を飲み込んでしまったんだろうな。親父は、かなり腕前のいい詐欺師だったんだろうか? まぁどうでもいいか。
ちなみにどうやったのか知らないが、現在では秘密裏に行動する裏の特殊部隊っていう扱いを国から受けているとんでもない場所になった。国の機関だぞ? まったく信じられん。しかも重役クラスにしか知られていないトップシークレットだっていうから笑っちゃうね。
もちろん、仕事を請けるかは俺が決めてる。党首だし、それくらい許される職権使用さ。理由は、またあの戦いに戻るのはごめんだってこと。下手な仕事請けて、内部から割れたらどうしようもない。
ちなみにあのときの仲間はというと、朱音は現役で戦っているし(もちろんいつも俺につきまとう)、白夜は、俺が戦うときのパートナーとして健在。
花梨はさすがに家で待ってる役だけど、まぁ、そういう立ち居地だし?
え? 俺がなんでそんなことやってるかって? いや、色々あるんだよこれが。
まぁな、詳しく言うと、ちょっと面倒だけどさ。
SAはまだひたすら、発生し続けているし、もちろん巻き込まれる奴もいるんだ。俺達はそれを助けるのも仕事としているんだけど。そこにでむく理由が、二つ。
覚えているか? 定期的にSAに入らないと死ぬっていう話。旭が俺を戦わせるために言った嘘みたいな話だけど、これ本当らしくて、仕方なく俺はそこに出向くはめになった。まぁ、本当は仕方なくでもないんだけどな。
と言うのも、もう一つは俺が上手く戦ってクリーチャーを倒したときにでる灰を集めれば、SA内で死んだ人間を蘇らせられるかもしれないってことだ。
コレは、俺に衝撃を与えた。だって考えても見ろ。死人を生き返らせるんだぞ?
何でこんな事が可能かっていうと、SAが精神世界だからだそうだ。ある程度の物理法則とかなんか分からんが科学的なものを無視できるから、誰かが強く願って、条件を満たせば可能なんだってさ。
旭が、あの時死んだ。あの黒夜の元に走る旭が最後の姿なんて、まったく思ってもみなかった。もっとカッコいい別れだっていいわけじゃんか。じゃあな陸! みたいなことも言ってくれなかったなんて、アイツらしくないだろ?
というわけで、俺は旭を復活させてやると誓った。アイツが蘇れば、多分、俺の人生がもう少し面白くなると思う。たとえアイツが嫌がったとして(天国で、幼女と暮らす邪魔をするなぁ! とか言って。意外とありそうだろ?)も、無理矢理引きずりだしてやるさ。
そんで、アイツが蘇ったら、まずナイトホークを見せ付けてやろうかと思う。
前のダークな雰囲気を抹消して前向きに取り組む、俺の支配する団体を見せ付けて、何か一発決めてやりたい。
おそらく俺がナイトホークの党首であるといえば、旭は俺に何があったか訊ねるだろうな。 そしたら、こう言ってやるか。
「俺の情報収集能力舐めんなよ」って。
まったく関係ないけど、あいつが前も同じような用法してたから問題ないだろう。
そして、アイツの唖然とする顔を拝んでやるのさ。
なんだ?それじゃアイツに対してショックが弱いって?
……弱いか? ああ、まぁ弱いか。そうか…。
まぁいい、旭が帰ってくるまで、ゆっくり考えるとする。まだちょっとかかりそうなんでね。
きっと、あっと言わせるようなもんを考えだすよ。せっかくだしな。
それじゃ、俺はここら辺で。