その8「力をなくした力」
その八「力をなくした力」
「父さん、か。久々にその呼び名を聞いた」
男、安倉太陽は、ただ俺を見ながら言った。その目は、無機質で、俺が小さい頃見た彼の目とは、まったくの別人のようだった。
俺は、太陽の目をジッとみて、言った。
「……なんで、こんな事をするんだ」
「…あァ?」
「どうして、父さんが人を殺すようなことを!」
声を荒げて叫ぶ、太陽は頭をかいて、つまらなそうに
「どうしてだァ? お前はそもそも俺を誤解しているんだよ」
「……何?」
「お前は、お前の小さい頃の俺を見て、それを言っているんだろうが、さっきも言ったとおりアレは演技だ。お前の信頼を勝ち取って、ある程度成長の方向性をコントロールするな」
「……なんで」
「なんで? 決まってるだろ。お前を一人前の戦士にするためだ」
俺を、戦士にする。
「どういう意味だ」
「お前は、生まれながらにして戦う力を持つ優秀な奴だった。いや、俺の子なら間違いなくそうだ。戦闘に関することなら、お前は誰にも負けなかった」
「……」
「覚えてねぇか。まぁ無理もねぇ。まだこんなチビだったからよォ」
右手でゴマレベルの大きさに親指とひとさし指を近づける。
「……どうして、生きてるんだ」
「あぁ?そもそもなんで俺が死んだと思い込んでんだよ?」
それは、あの時、
「……俺が小さいとき、アンタは血まみれで、母さんと一緒に倒れてた。だから俺は死んだと思っていた」
いつも通り、自分の家のドアの開けて、
リビングに入る。
そのとき……。
「……あぁ、あのときか。お前、あそこに居たんだな?」
つまらなそうに言う男に、俺は強く噛み付く。
「あそこは俺の家でもあった。どうして帰っちゃいけない!?」
「そんなこたぁ言ってねぇ、けど、お前気付いてなかったのか?」
「……なに?」
太陽はなるほどな、と呟いてから
「アレがSAの中だったことに」
「…なっ?」
「気付いてなかったんか」
「そう、いえば……」
俺の頭に、あのときの様子が浮かび上がる。
足元には真っ赤な液体。それが俺のズボンをぬらし、黒いシミを作っている。
リビングの窓は割られ、ガラスの破片が散り、テーブルの上におかれた食器類はすべて床に落ちている。家具はボロボロ、カーテンは破れ、窓から入る風に揺らいでいる。
その中に横たわる人間が二人。
僕が一番尊敬していたたくましい男性と、いつもやさしかった小柄な女性。
服は赤く染められ、呼吸はせず、目は永遠に光を通さない。
『何が……あったの?』
俺は泣いている。状況は理解できている。だが、あえて言葉にすると、それが事実になってしまうような気がして、事実であるのに、それを認めてしまうような気がして、俺は涙を流す。
空が紫色に染められていて、暗い。
家の外からは狂気に身を任せる魔物の声が聞こえる。
そんな中で、涙を流し続ける。
「気付いたか?」
「紫色の空、だった。バケモノの声が、聞こえた」
SAの空。クリーチャーの声!
「そうだ陸。お前は完全に勘違いをしていんだよ。俺は死んでねェ、ただSAで負傷しただけだ。あの後スグSAは閉じて、俺達の傷は治り、元の日常に戻った」
「……けど」
俺は、そのとき。
誰かに連れられて、家から離れた。
誰に?
………。
「そうだよ。お前は俺達の元へ戻らなかった。お前だけじゃない。大地も、美海もだ!」
太陽は、ゆっくりとホルスターから銃を抜く。
「…ッ!」
俺もすぐさまP‐90を装備して向ける。
「……なんだ。俺とやろうってのか?」
太陽の目が、一気に鋭くなる。俺は怯むことなく、銃を太陽の頭に向けて、狙いを定める。
「………アンタが強いのは知ってる。けど、アンタは倒さなきゃならない理由がある」
「理由だ?」
「お前が作った組織に、俺の仲間が殺された」
「………」
旭。
「俺は、ソイツの仇を取らなきゃいけない」
「はっ、成る程なぁ」
太陽はゆっくり、銃をしまう。
「?」
なんだ? どういうつもりだ?
「銃を使う訳には行かないんだよ」
太陽の姿が、消えた。
「ッ?!」
慌ててまわりを見、
「オラァッ!」
「がっ…!」
太陽の足が、俺の腹にめり込んだ。
『陸ッ!』
白夜の声が、響く。
くそ、
一体、何をしやがった?
どうして、俺の後ろにッ
「くそっ」
5mほど吹っ飛ばされた位置で、俺は姿勢を正して空中静止する。
「俺を倒す? それでか?」
太陽がなんでもなさそうに笑う。
「仲間の仇か。やれやれ、それで俺に立ち向かうとは。息子としてどうなんだ陸?」
「うる、せぇ」
腹に激痛。吐き出す言葉に、力がこもらない。
「ぜったいに、お前は倒す」
再び銃を構えて向ける。太陽は、やれやれといったように首を回す。
「無駄だ。お前は俺には勝てない。諦めてこちらに下れよ」
「嫌だ」
仇はとる。その為に、俺は此処にいるんだ。
「……はぁ」
太陽は息を吐き、
「お前、利用されていることにいい加減気づけ」
「…?」
「気付いていないのか? お前は、俺達両親から連れ去られて、いいように洗脳されているんだよ。分からないのか?」
「洗脳?」
何を言っている。
俺は、そんなこと。
「洗脳なんてされて無い。俺は!」
「思い出せ、陸」
俺の叫びを、太陽が止める。
「お前は、俺が死んだと思い、そのとき誰に連れられた? 誰に連れられて、今の伯父、伯母のところへ行った?」
誰、に?
誰に?
俺は、誰に連れられて、伯父さんと伯母さんのところに。
一体、誰に?
「分からんか? 思い出せ、そうすれば、全て分かる」
「……誰、に……」
誰だ。
誰かに、連れられて。
そうだ、白い髪で、
優しい、声。
そして、青い瞳。覚えている。
……お姉ちゃん。
ミヤお姉ちゃん?
『ミヤ!?』
白夜が、叫んだ。
「な、白夜!?」
『それ、お母さんの…じゃない女王の名前!』
お母さん?
って、女王?
「そうだッ!」
太陽が叫んだ。
「お前が支持するホワイトオウルの現トップ、奴が俺たちからお前を奪った」
女王が、俺を両親から引き離した?
『嘘だ。陸!そんなわけないッ!』
「………」
「嘘ではない! 白き精霊! 陸の記憶にあるもの、それが全て証拠だ!」
太陽は叫んで、そして右手を銃を、遙か下、洋館の横の森へ、向けた。
「貴様は、予言のことをあらかじめ知り、俺たちから「鍵」を奪った! 陸を、ただ自分の利益のためだけにッ!」
叫びながら、引き金に指をかけ狙いをつける。その位置は…。
そこは、女王が隠れている場所ッ!
「させるかッ!」
俺はP‐90を向けて、引き金を引いた。
銃から放たれた弾丸は、狙い通りに太陽に向かって飛び、
そして、空を切った。
「ッ!?」
太陽は一瞬にしてその場から消える。
「また…!」
俺が一瞬その太陽を見失った、それだけで、
「邪魔をするかッ!」
太陽が、俺の背後にまわるには十分だった。
「ぐぁッ!」
太陽の回し蹴りが、俺の腰に的確に入る。俺は吹っ飛ばされて、すこしはなれた位置で再び体勢を立て直す。
「…クソ」
同じ技を二度。けど、一向にどうやったのか理解できない。
瞬間移動だろうか?
「…なぜ妨害するのだ?」
太陽が俺に言う。なぜって。
「俺達のトップらしいからな。殺されたら困るだろ」
「……さっきの話を、聞いていなかったのか? あの女は、お前を自分の利益のためだけに連れ去ったのだぞ」
女王が、そんなことをね。
なるほど、あのとき、俺を知っているそぶりをしていたのはそのせいか。
「……いや、あんたの言い分は分かるけど、俺にはそう見えないね」
「…何?」
俺は、あの時、絶望していた。
父親が死んだと、母親が死んだと思い込んでいたから。
だからあのとき、彼女が俺を助けてくれなければ、どうなっていたか。
クリーチャーが蔓延っている外にでて、食い殺されていたかも知れない。
なら、命の恩人だ。
「…助けてくれたことに、変わりは無いからな」
例えそこに、別の意味を含んでいたとしても。
「それに、キツイことを言うようだけど、例えSAの中でも、自分の家で血を流して大怪我すんなよ。多少アンタの責任でもあるだろ」
俺が言うと、太陽がきっと俺を睨む。
「………なるほどな。貴様は完全に頭を持ってかれているらしい」
洗脳されている、ってことか。 は、どうだか。
「俺はな、そんな昔のことより、今お前達に旭が殺されたことのほうが腹たってる」
むしろ、俺を守るために死んだって事実に、俺はかなり腹が立ってる。
「だからそんなことはどうでも良いんだよ。俺はアンタを倒さなきゃならない。それだけだ」
「……考え直したほうが、身のためだ。今投降すれば、こちらに引き取ってまた俺と共に暮らせるのだぞ?」
……親父。
父親がいないのは、母親がいないのは辛い生活だった。
伯父さん、伯母さんといても、他人であるからあまり思うことをはっきり言うことはできなかったし、友人が両親といるところを見ると、かなり辛かったけど。
「確かに、アンタが生きてて、俺は嬉しかった。けど」
「む?」
「でも、ナイトホークの党首だとは、夢にも思わなかった。そこまで落ちぶれているとは思ってなかった。」
「落ちぶれてなどいない。私は昔と何も変わらん」
「変わってる」
昔のアンタは、
もっと、目が広かった。
人間が至高だとか、それを通すために人を殺すだとか。
そんなこと、絶対言う人間じゃなかった。
「もし、それが演技だったなら」
全部、俺を騙していたんだとすれば。
「それは、俺。絶対に、許せない」
一応、憧れだったんだぜ?
「……陸」
太陽が、俺を見る。
「許さないし、許せない。一気にアンタのことが嫌いになっちまった」
だから、俺は。
「アンタに勝てないとしても、精一杯抵抗する。俺が死ぬまで、ずっとだ」
俺が言い終わると、太陽はゆっくりとうつむく。
「…なるほどな」
「……」
「……貴様は、一著前に、俺を突き放すわけだ」
太陽は小さく言って、そうしてから。
大きく、笑った。
「ふははははははははははははははははははははっ!!!」
「ッ?」
『何?』
「くだらない、本当に、くだらない! 俺はあの時、大事な大事な「駒」を、「力」を、失ったわけか!」
「何?」
太陽が、邪悪な笑みを浮かべて俺を見た。
その目に、先ほどの「父親」の光は無かった。
「初めからそんなつもりはねぇんだよクソガキが! お前は、ただの薬だ。俺がもっと、もっと上へ上るための!」
「薬、だァ?」
一体、何を言っているんだ?
「予言で、貴様が鍵だと分かった時、俺は思った。俺が持つ力をさらに強くするにはどうすれば良いか。俺が「神」になるために、何が必要か!それは、お前だよ陸」
「俺が、力?」
「そうだ! 教えてやるよ。お前が「鍵」である理由を! それともう一人の「花梨」だかなんだかっていうガキもな!」
俺が鍵である理由だと。
「お前らはな、二人ともハーフなんだよ。精霊と、人間のな」
『え…?』
「…何を言ってる?」
「お前の母親は、精霊だ。思いだしてみろ。貴様の母親の名前がなんだったか」
「……母さんの名前は」
聖夜?
『聖夜?』
まさか。
黒夜、白夜、美夜。
知っている精霊の名前を全て思い浮かべる。
全てに共通しているのは。
「夜、だ」
「そうだ。分かったか? お前は、人間でもなければ、精霊でもない」
俺が、精霊でも人間でもない。
「嘘だ。そんなはず」
「無いと、言い切れるのか? お前は、本当にただの人間か?」
「………」
「お前は何度も生き残った。SAに入ってから、ずっと幸運が続いてきただろう?」
「幸運?」
「敵の銃弾が、偶々当たらなかった。丁度良く物影に隠れて敵に見つからなかった」
「…ッ」
ある。
俺は、何度も幸運に救われている。
「まさか!」
「精霊は、固体ごとに異なった力を持つ。お前にも、それがある」
「俺が、助かったのは」
その、力のせいだって言うのか?
SAに迷い込み、幸運にもライオンから逃げ切り、偶々旭に出会って、助かる。学校帰りにSAに遭遇し、学校に戻って、花梨が撃たれ、旭が撃たれ、けれど俺は撃たれず、鼻先を銃弾が掠めて、朱音のドア越し射撃も幸運なことに回避して………。
「…ッ」
「気付いたな」
太陽はははっと笑う。
「どうだ、お前は普通の人間じゃない。周りの仲間よりも優れた戦士なんだ。元からな」
「………」
なんて、ことだ。
『陸……』
「じゃあ、アンタは!」
「そう、俺はさらに高みへ上る」
俺は銃を太陽に向ける。
『つまり、アイツは……』
「そういうことだ」
白夜の声に、俺は答える。
「俺は精霊を吸収し、強くなる。しかしそれには限界があった」
太陽が手を広げて、大仰に説明を始める。
が、答えは分かった。
「なるほどな。精霊とリンクした、半精霊」
今までに手に入れたことのない力。
「そう、お前を倒し、俺のものとする」
「…それが、予言だって言いたいのか?」
「そうだ。お前は誰のものでもない。それは良い。なら力づくで奪い、自らのものとせよ。予言は、そういうことだ!」
言い終わるかどうか、そのタイミングで、太陽がはじけるように動きだした。
「ッ」
俺も反応し、それに合わせて動く。
「はははははははははっ! 言ったはずだ、貴様は俺には勝てない」
「やってみなきゃ、わかんないだろ!」
太陽に向けて、俺は銃を連射した。が、高速で飛び回る相手に、当たらない。
「空中戦で機銃を当てるのは、至難の技だぞ陸」
刹那、後ろから声がする。
『回り込まれた!』
「おとなしくしておれ!」
回し蹴りが、横から。
幸運、
俺の能力、か。
仮に、そうなら。
本当にそうなら。
見せてみろ。それを。
「ふっ」
息を軽く吐いて、力を込める。
体が強く、上に引っ張られた。俺のつま先ギリギリを、太陽の回し蹴りが通過する。
「ぬッ!?」
太陽が一瞬、俺の動きに思考を鈍らす。
「何度も喰らうほど、馬鹿じゃないッ!」
そして俺は足元の、太陽の顔に向かって、
一発、蹴り上げた。
「うぐっ!」
太陽が頭から吹っ飛ばされて、空中で一回転したあと、止まった。
「……」
俺を睨みつけ、そしてニタリ、笑う。
「なるほど、俺の息子だな。一瞬に判断が早い」
「……精霊のお陰で、体は身軽だ。後は、回転だけさ」
頭の、ね。
「…ますますほしくなった、その力。俺はさらに神に近づく」
「人間ごときが、神? 厚かましいだろ」
太陽が、動いた。
「ふぉらぁ!」
右手のラリアット、俺は体を縮めて、それをやり過ごす。
「はははははっ!」
キチガイ気味に高笑いしながら、俺に向かって殴る蹴るを繰り出す。
反応、できる。
それらを、全て交わす。空中に浮いているので、ステップなんて関係なく移動できる。
「いつまで避け続けるつもりだ?」
近くで太陽が挑発する。もちろん無視。
「しるか」
銃を放り投げて右手でその顎にストレート。
太陽は、面白いくらいに吹っ飛ぶ。
「…くははは、やるじゃねえか」
「アンタ何がしたいんだ?」
俺の聞いた話では、精霊を吸収して、その能力を加算するらしいのに。
「……ふふ」
太陽は、笑いながら下を指差した。
「…え?」
俺が目だけで、地表を確認した。
「…ッ!」
戦いが始まっていた。
ホワイトオウルと、ナイトホーク。
「見つかったのか……」
「俺達が上でこんなことをしていて、ナイトホークの奴らが気付かんはず無いだろう」
太陽がゆっくりと、肩を鳴らす。
そして両の拳を、強くぶつけた。
「さぁ、ここから本気だ。さっさと俺を倒してみろ。じゃなけりゃ、おまえの仲間は全滅するぞ」
「……」
畜生めが。
銃を使うか? いや、けど捕らえられる相手じゃない。
格闘で責めれば、速度があるぶん俺のほうが有利。けど、それじゃ決定打にならない。
「お前から来ないなら、こちらからゆくぞ」
太陽が、右手を横に伸ばした。するとその先に、小さな炎がまとわる。
『精霊の力を使ってる』
「……なるほどな」
「燃え尽きろ!」
太陽が叫んだ。
彼の腕から、炎塊がいくつも周囲に撒き散らされた。そしてそれらが途中で方向を転換し。
「だと思ったッ!」
俺に向かって、飛んで来た。
「避けきれるものか!」
「避けきってやるよ!」
俺は叫んで、高速で飛び出した。
『どうするの?』
「どうしようかね?」
俺は手を前に出す。想像。
落ちてきた武器を構える。
サイガA=Ⅱ。連射式のショットガンだ。引き金を引くと、小さな鉄の弾を大量に噴出する。
「見た感じ、あの炎塊は内部に石の塊みたいなのがあって、それが燃えてる。
『…それで?』
「それを、ぶっちゃかす」
若者言葉でそう言って、俺はくるっと方向転換。
後ろから、いくつも炎塊が迫ってきていた。
「砕けろッ!」
ギリギリまで引き付けて、炎の塊一つに、フルオートで連射した。
びんご。
炎塊は散弾を受けて、砕け散った。弾倉を交換しながら、一つ一つ破壊する。
「何だと…!?」
太陽が驚愕した顔が、残り数個の炎塊のスキマから見えた。
「舐めんなよ」
小声で言って、サイガを左手に持ちかえる。
そして空いた右手に、プラスチックフレームのハンドガン、G18Cを持つ。
「喰らえや!」
しっかり照準が出来なかったが、フルオートで引き金を引き絞った。
激しい発砲音とともに、9mm弾丸がばら撒かれ、俺の右手が跳ね上がった。
残りの炎塊を左手のサイガで打ち壊すと、
「うぐ……貴様」
やはり、油断していたか。
太陽が腹部から、血を流していた。おそらくG18Cの弾丸が一発当たったらしい。
「ふざけおって……貴様ァッ!」
『キレたよ』
「……らしいね」
太陽が、叫ぶ。声にならない咆哮が空に響いた。
「終わりだ」
太陽が呟いた。
「!」
その瞬間に姿を消す。
「またアレかッ!」
後ろを振り向く。
太陽が、拳を振り上げて迫ってくるのが、目に入る。
なんどやれば気が済むんだか。
俺は体を縮めてそれをかわし、
右手で、太陽の頭を貫いた。
……?
貫いた?
「え?」
太陽の姿が、もやのように崩れて、消えた。
「何だと?」
慌てて周囲を見渡す。
『陸ッ』
「!」
白夜の声に、上を見上げる。
太陽が、上から足を、
俺の肩に、振り落とした。
「うぁッ!」
上から受けた強い力に、俺は空中から地面へ物凄い勢いで吹っ飛んでいく。
『陸、持ち直して!』
「分かってる!」
肩を押さえながら、俺は地面に激突する寸前で体勢を立てなおし、
「!」
右から、顔を殴られた。
『りくっ!』
白夜が叫ぶ。
「……なに」
地面に倒れて、ゆっくりと顔を上げると、太陽が立っていた。
「……終わりだといったぞ。陸」
その横から、ゆっくりと、もう一人の太陽が……?????
「そんな」
太陽が、分身していた。
森の木の陰から、次から次に同じ容姿の男が現れる。
「言っただろ。勝てないと」
太陽が俺を取り囲んだ。
「俺の精霊、お前の母である聖夜の能力は、自らの体を増やす、いわば『分身』の力だ」
「……なんだと?」
けど、お前は他の精霊の力を奪えるって……。
「その通り、それを応用すれば、可能なんだよ」
太陽は俺の首根っこを掴んで、持ち上げた。
「ぐっぁ…」
『陸! 逃げて! 陸!』
「……お前も、俺も、俺達の家系は特殊でな、弱った精霊であれば、誰だってパートナーに出来る」
「……な、に?」
息が詰まる。
ひゅーひゅーいいながら、何とか息を吸って、俺は言った。
「俺は自らを分身させて、それら一体一体に別の精霊をリンクさせたんだ。普通なら出来ないが、俺だから出来たことだ」
なるほどな。
……これが、本来の親父の力。
奴は沢山の自分を出したり、消したりすることで、大量の能力を持っているように見せかけた。
もちろん、本体は常にどこか別の場所にいるから、傷も付かない。
それが、真実か。
道理で、さっきまでそれほど強く感じなかったわけだ。
彼の強さは、一騎当千である個人の強さではなく、
ひとりで、そのまま千人になれることだったわけだ。
もちろん、全員死んでしまうから、気付くものも誰一人いない。
まったく、ふざけているのはどっちだか。
「お前は、もうすぐ俺の一人と融合し、その力は俺のものとなる」
そういうと、親父が飛び上がり、空中でナイトホーク隊員、また、それと戦うホワイトオウルの奴に見える位置に移動し、動きを止めた。
一度息を吸って、親父が叫ぶ。
「諸君、鍵は我々のものになった。ホワイトオウルのクソ野朗ども、とくと見ておくがいい、貴様らの希望が、打ち砕かれる様をな!」
俺はちらと、さきほど俺が叩きつけられた森を見た。あそこに沢山親父がいるんだが、なるほど誰も気付かんわけだ。ナイトホークの本拠地が森の中に、しかもSAの中に隠してある理由が、やっと分かった。
親父は俺を空中に放り投げる。
俺の体は支えを失って、自由落下、そして途中で止まった。精霊の力だろうか。
親父が俺を見て、そして言う。
「最後に何か言いたいことはあるか息子よ」
「………」
このままだと、おそらく俺は終わりだ。
ちくしょう、あの殴りは強力だったな。全身が麻痺してるとかどういうことだよ。
『陸、ねぇ陸』
悪いね白夜。
ちょっと、しくじった。
『……諦めないで』
え?
『ここで逃げるのは許さないよ。また同じことを繰り返すの?』
おなじ、こと?
『旭と、陸が、お互いを……』
旭と銃を向け合って、引き金を引いたことを思い出す。
あの時、俺は諦めた。
そうだ、戦うのを放棄して、旭の案に乗っかって。
そして、旭は死んだ。
『あんなの、私二度と許さない。最後まであがいて、それでダメならダメでいいじゃん。そのときは、もう死ぬしかないかも知れないけど、でも最後まで生きて』
「…白夜?」
『私、陸が死ぬのだけは、絶対、いや』
頭に、小さな少女が泣きじゃくる声が聞こえた。
『だから、最後まであがいて。陸なら、きっと最後に勝てる』
……最後に、か。
できればずっと勝っていたいところだが、どうもそうはいかないらしい。
けど、最後に勝つということは、負けても死なないってことだよな。
まったくさ、きついこと言ってくれるよな。
体が麻痺してて、頭もそれほど回ってない。
今の俺にできるのは、時間稼ぎくらいだぜ?
「どうした? もうだんまりか」
太陽の目が、俺を見る。
勝ち誇った。そんな目。いやはや。
…白夜。
『…ん?』
俺は助けられてばっかりだな。
旭に、二度助けられて、そして今も、白夜の言葉が無ければ諦めてた。
本当に、努力の足らない。ダメな男だよ。俺は。
『そんなこと、絶対にない』
ほう?
『陸は、私の自慢のパートナーだよ。最後まで、ずっと一緒にいる』
……やれやれ。
心中相手が、旭から白夜になったか。
『心中って……』
一緒に死ぬんだろ?
だとしたら、それで間違ってないんじゃないか?
『…諦めちゃうの?』
誰がそんなこと言った?
俺だっていつかは死ぬことになる。
30年後か50年後か80年後か…。正確な時間は分からないけれど、そのときの心中相手だ。
死ぬのは、今じゃない。
俺は、太陽の目を睨んで、言った。
「どうして、アンタは人間が至高だなんて…言いだした? さっき答えを貰ってねえぞ」
何の、意味も持ちはしない。
ただの時間稼ぎ。
もし相手が、死ぬ奴に聞かせる意味などないだろう。で片付ければそれで終ってしまう。
しかし、俺はどうやら、
やはり、幸運の持ち主らしい。
「……知りたいか」
俺の親父は、食いついた。
なんとか、なったか?
延命成功。次の手を、考える時間をなんとか得た。
俺がそんなことを思っていることなど知らず、親父は俺にゆっくりと近づく。
「……なぜ俺らは生まれてきたと思う」
「…何を言い出す?」
「答えろガキ」
親父は銃を俺に向けた。
「……さぁな」
「考えたことはないのか?」
「無い。毎日生きていく、ただそれしか考えてない」
親父はそれを聞いて、笑った。
「……何がおかしい」
「いい答えだ坊主。考えているだけ、マシだ」
男は体を捻って、空を見た。
「教えてやるよ。人類は、この世の上に立つものとして生まれてきた。つまり俺らは、この地上の支配者であり、守護者であり、利用者である」
親父は紫色に染まった、自分の名が関する太陽に手を被せる。
「…なら、なぜ俺達に害する生物が存在する? 俺達は支配者だ。支配が気にいらねぇなら、文句垂れるのも分かる。守護が足りねえなら、その分強くしよう。が、あいつ等は、単純に俺らがトップであるのが気に喰わないだけだ。縄張りがどうだ、巣がどうだとわめき、人をむやみに襲う」
「……」
「あいつ等には、知性が無い。言語が無い。俺達人間から見て、非常に低レベルな生命体だ。無知は罪だという言葉がある。それは人間だけに当てはまるのか? そんなわけないだろ。俺達人間だって、知性がなかった。そこから少しづつ賢くなって。やっとの思いで知を身につけた。その苦労の産物である知を利用して、地球を支配して何が悪い?」
「……本気で言ってるのか?」
「もちろん、大真面目だ。人間はトップになるために戦い、そして自然界でトップに立ったんだよ。それが栄えて、栄えたもの順応できない種が滅ぶ。これは自然の流れだ。どうして俺達が、クソみてぇな下等種族を守ってやったりしなきゃならねぇ。努力しない奴に、面倒見てもらう価値なんざねぇんだよ。無駄なもんは滅ぼす。邪魔なものは潰す。
自然はそうやって出来てる。違うか?」
太陽は、俺に問いかける。
俺は、何も答えない。
「ただ、それだけを思っただけだ。そのために、邪魔する奴は潰すんだよ。圧倒的な力でな。人を更なる高みへ上げ、邪魔な生物を全て潰す。それが、俺達「ナイトホーク」の思想だ。どうだ? 素晴らしいとはおもわねぇか?」
親父が、語り終わった。
延命目的で、俺はえらいことを聞いちまったらしい。
アンタは、そんなことを……。
「………生物の中で、もっとも優れて進化した生物である俺達人間を、神と同一視でもしてるのか?」
俺は太陽に言った。
あァ?と太陽が怪訝な顔をする。
「アンタは、俺達が最も賢いと信じているらしい。自然界で最もトップの生命体だと、そう信じているらしい」
「…その通りだろうが、何を言っていやがる」
「いいや、違う。まったくその逆だ」
俺は親父の目を、睨みつける。
「……なにィ?」
「人は馬鹿だよ。こんな思想ごときで、仲間の命を奪い合ってるんだ。頭の中で考えた論理で、頭では作り出せない生命を殺す。しかも仲間をだ。こんな事をする生物がほかにいるか?」
「闘争をする生物はいるだろうが」
「けど、それは思想でも何でも無い。「種の中で、優れた生命」が生き残って繁栄するための、大切な一つの過程だ。人間の争いとは違う」
太陽が黙る、俺はまだ続ける。
「人間の闘争は、ただ個人の利益だけを求めて行ってる。そしてその戦いの中で死ぬのは、善良で、正直な戦士だけだ。いつも上で適当な御託を並べるカスだけが生き残る。そして国を荒らして、ダメにする」
俺は、ナイトホークの居城である洋館を指差す。
「お前達がいい例だ。人間が至高って言ったって、賛同して無い奴らだらけじゃないか。お前らは人間のためを思った考えだと信じているかもしれないけど、圧倒的にそうじゃないと思っている奴のほうが多いだろ?」
体の痺れが、少しづつ解けてきた。手足が、自由を取り戻す。
「……賛同しない奴は、自らの種のことを考えず、他種の心配をする愚か者どもだ」
「いいや違う。みな思想が違って当たり前だ。俺は今、「ナイトホーク」のことだけじゃない。「ミニコト」にも、「ホワイトオウル」にも言っているんだ!」
「…何?」
「考えることが出来るのは素晴らしいことだといったのはアンタだ。なら、その考える頭で自分の思う通り考えて、それを押すことに何の罪がある? アンタは、アンタが今言ったように考えた。ミニコトは、自然を守ることが大事だと考えた。そしてホワイトオウルは、今のまま、バランスが大事だと考えた。なら、それで何が悪い? 誰が悪い?」
「……」
太陽が、俺の見たまま眉根を寄せた。下で続いていた。ナイトホークの歓声。ホワイトオウルの叫びが、消えた。
「自分で何を考えようと自由だろ? 問題は、それを他人に押し付けようとするから発生するんだ。アンタは自分の力にものを言わせて、自分の意志を押し通して、周りが言っていた大切な意見をぶっ飛ばした。ミニコトだってそうだ。反対するナイトホークに襲い掛かって、それを潰そうと考えた。 どちらも間違っているって言い出したホワイトオウルの奴らだって、結局力で押すことしか考えてないんだろ?」
そこまで言って、俺は一度言葉を切る。
親父が、俺を見て、複雑な表情を浮かべている。
「間違ってるんだよ。根本から皆」
俺は言って、ゆっくりと口を閉じる。
『陸……』
「ん?」
白夜が、俺に声をかけた。
『見て』
「……え?」
白夜が、下を指差す。
洋館の屋上に、人が居た。
それも、沢山の。
……一体?
『ナイトホークの人たち。陸の演説を聞いて上がってきたの』
「え、演説?!」
いや、待て、いつ俺がそんなことをした?
今のは、ただの時間稼ぎだし……
『今の話だよ。皆、聞いてた』
はい?
『陸のお父さん、貴方を吸収して勝ち誇るところを皆に見せびらかすために、拡声器をつけてたから。それを通して、皆に陸の言葉が聞こえたんだよ』
あそこ、と白夜が言う。俺は父親の体を見た。
シャツの襟に、小さなマイクがついていた。
……そんな馬鹿な。
「……いや、ただ俺はがむしゃらに言っただけだぞ?」
どうして、そんなに聞き入れられたんだ?
『戦いに疲れていたから、かな? もう戦う理由が分からなくなってたんだと思う』
白夜が、ふふふっと笑った。
『疲れた心に、狡猾に取り入る言葉だったんだよ』
「…その言い方、俺が悪役みてぇじゃねえか」
やれやれ。
『…通信だ』
「え?」
『ナイトホークの、副党首?』
「はい!?」
白夜が、面白そうだから繋げるね、と言って黙る。
しばらくして、男の声が聞こえた。
『……安倉陸、と言ったな』
「……ああ」
『貴様が、予言の「鍵」だな?』
「そうらしい。俺も、言われただけだ」
そうか、と間を置いてから、副党首が言う。
『貴様の声が、隊員達に広く届き、皆が武器を捨てた。敵も、味方も、みな』
「…は?」
『予言では、お前に全てを捧げることが、闘争を勝利に導くための「鍵」だといわれていた。しかし、それは我々の読み違いだったかも知れん』
「どういうことだ」
『予言は、「鍵」に、全てを捧げなければ、魂を抜かれてしまうと書いてあった。我々はそれを死と捕らえ、逆に全てを捧げれば、勝利へと繋がると考えた。しかし、よくよく考えれば、この予言は全てのものに当てられたものであり、「鍵」に全てを捧げることが、勝利のためになるとは一言も書いて無いのだ』
「………つまり?」
『つまり、争いは神に対する反逆だから、今すぐ止めろ。しかしそうは言っても簡単には止まらないだろう。ならば、お前らを纏めるための「鍵」をわたすからそいつにしっかりついていけ、と言うことではないかと…』
「……はぁ」
『よって我々は、これよりそなたに全てを捧げる、つまり、従事すべきと判断した……』
「ちょっとまて!」
『これは決定事項だ。以上!』
「ちょっ……」
『切れた』
「……えぇ?」
『纏め上げるの?』
「いや……」
俺は、なんとも言えない感覚に陥り、一気に脱力した。
たしかに、思いをそのまま、全力で口にしたが……、
「それで、敵が味方につくなんて、まったく思いもしなかった」
『やっぱり、予言って凄いんだね』
「………旭の仇はどうするんだよ?」
『旭のことだから、あの世で笑ってるんじゃない? 「まさかこんなんなるとはね。いや、やっぱお前おもしれぇ!」みたいな』
「……予想できるのが怖い」
俺は、親父の、太陽を見る。
「………ナイトホーク」
親父は、洋館を見ていた。
「…………なるほどな。今のガキの戯言に寝返るか」
紫色の空をバックに、太陽は、一人立ち尽くす。
仲間が、全て消えたことによる絶望だろうか。
「親父、もう止めろ」
「…あ?」
「お前の手下は、全部戦いをやめたらしい、予言は、当たった」
「なるほどな。お前を吸収することが、勝利に繋がる鍵と言うわけではなく、単純に、全てのグループを統括できるカリスマを持った男、だったわけか」
「…それは、どうだかわからんけど」
「……はは、はははははっ!」
……なんだ?
『陸?』
様子が、おかしい。
親父が、洋館を見たまま、小さく震えている。
まるで、力を込めるように。
「……親父?」
「…めぇか」
「え?」
親父が、こちらを睨んだ。
相貌が、光った。
「てめぇを殺せば、今度こそ俺が正しいわけだ!」
ッ!?
『陸危ないッ』
親父の右手の銃から、光るオーラの包まれた銃弾が飛び出た。
それは、一瞬で、俺の方へと飛ぶ。
『陸ッ!』
くそ、からだが、うごかないッ!?
銃弾を喰らう!
俺は咄嗟に、目を閉じた。
どっ。
鈍い音が、響いた。
弾丸が、生身の体に当たり、砕ける音。
俺が、被弾したのか。
くそ、また、死ぬのか?
………いや、待て。
痛みはない?
喰らったのは、俺じゃない?
なら……。
「……ふふ、目的は果たされたわ、ね」
白い髪、が、宙に舞った。
「……あ」
右手の光に、俺は見覚えがある。
「どう、して…」
その体が、ゆっくりとしたに落下する……。
『お母さんッ!!』
白夜の叫びが、耳に響いた。
その声に弾かれたように、俺の体が、無意識に彼女を、精霊女王を支えた。
「貴様、ッなぜ!?」
親父が吼える。
「邪魔をするなッ!」
親父が、次の弾丸を放った。
次は反応、俺は右に移動し、それを避けた。そしてすぐさま、腰から手榴弾を取り出す。
「スタングレネード!」
投げられたそれは、銃を連射している親父の目の前まで飛んでいき、
「何ッ!?」
驚き、目を見開く親父の前で、盛大に爆発した。
「今のうちだ!」
俺はすぐさま森の中に逃げ込み、女王を仰向けに寝かせ、傷口を見る。
腹部に、赤い血が、流れ出ていた。
「……精霊と、コンタクトした魔法弾か……プロテクトできるかと思ったのに。残念だわ」
女王は呟くように言う。
「ひさびさにテレポートが成功したのに、プロテクトが上手くいかないなんてね。私もダメだわ……まったく」
「…どうして俺を庇ったんですか……」
俺は女王に訊ねる。
「…ふふ、旭と、同じ」
「…え?」
「折角予言が果たされて、これから戦いが終ろうというときに、それを纏め上げる人が死んでしまっては台無しだものね」
女王はそう言って、俺の頬に手を添えた。
「……思いだしたかしら?」
「……思い出したよ。ミヤおねえちゃん。まさか女王さんが……」
親が死んだとおもっていたとき、俺の傍に現れて助けてくれた人が居た。
今一緒にくらしている伯父さん、伯母さんに会わせてくれた人だ。
「そう…、ふふふ。最初会ったときに、「久しぶり」って言った意味、コレで分かったわよね」
「…そういうことだったんですか。どうして黙ってたんです?」
言えば、すぐにでも思いだしたかも知れない。
「さぁ、なぜかしら……言う気になれなかったの。気付かなければ、それはそれでいいかなって、思ったりもしたから」
「………」
女王はふふ、っと言って、今度は白夜に呼びかけた。
『お母さんッ!』
「ふふふ、久々に呼んでくれたわね」
母親だったのか、知り合いだとはおもっていたけれど、そんな仲だったとは。
「貴方をずっと精霊界に閉じ込めてごめんなさいね」
『分かってたけど……けど、私はお姉ちゃんとお父さんが違うって聞いたから、それでかと思ってた。ずっと……』
「…違うの。貴方は姉妹で一番能力が優れていたから、単純に陸くんに、予言者の陸くんにマッチングさせたかった。貴方はぜったいに強くしなければ、とずっと思っていたの。予言が出た時から、ずっと。その為に苦労かけたかも知れない。全部、私のせい」
『いいから、そんなこと言わなくていいから、だから、死んだらダメ!』
白夜が叫ぶ。
「無駄、かしら、あと数分も持たないと思う」
『そんな……』
白夜が、その場で黙り込む。時折、啜り泣く声も聞こえる。
「ミヤおねえちゃん」
「……陸、何かしら」
俺は女王に話しかけた。
「……予言は、これで良かったんですか?勝利を掴むことは目的では無かったんですか?」
女王は力なく、首を横に振る。
「いいえ。……貴方と党首である貴方の父親を出会わせれば、きっとこうなるとおもっていました。理由は特になく、ただの勘で、ですけど」
「…じゃあ、作戦はずっと、俺と親父を合わせるために」
「そう、勝算はあるって、言ったでしょう?」
アレは、しっかりと計算して、分かった上で言っていたことだったのか。作戦の全ては、殺し合いによるナイトホークの殲滅ではなく、平和的な戦いの収束だったわけだ。
なんてこった。お粗末な作戦といい、用軍といい、
全部、俺をアイツに引き合わせるための動きだったのか……。
「すみません、俺、内心馬鹿にしてました」
「……いいえ、別に良いんです。私は、平和に戻せればそれで」
女王が、ふふっと笑う。
「精霊は、最初人が平和を守るために力を貸したんです。でも、結局悪用されて今の状態になった。だから私は、女王としてみなをまとめられれば……ごほッ! げほッ!」
口から、血反吐を吐いた。
「大丈夫ですか!? しっかり……」
『お母さん……』
「行ってください。陸さん、白夜。私はもう、助かりません」
「そ、そんな……何とか耐えてください! SAを閉じれば、傷は治ります。そうすれば……」
「いいえ、貴方はまだ、巨大な敵が一人残っています。間に合うことは、おそらく無いでしょう」
「……親父か…ッ」
俺は空を見上げる、木の影に隠れて見えないが、おそらく俺達を捜しているだろう。
「ふふふ、コレがおそらく、最後の戦いです。貴方が、父親に向けて銃を撃てるなら、ですが…」
女王が、挑むような目を俺に向ける。
『陸?』
「もちろん、できるよ」
言うまでも無い。
「ミヤおねえちゃん、アンタに連れられてから一度もあって無い相手だ。もはや父親である記憶も、ほとんどない」
「……ええ、」
「そして、アイツの思想が、旭を殺した。旭の親父を殺した。なら、考えは一つだ」
俺は女王をみて、うなずく。
『陸、行こう』
「ああ、行くぞ、白夜」
俺は女王に軽く礼をして。
「必ず、助けます。スグに」
「……じゃあ、待つとしましょうか」
女王の言葉を受け取って、俺は空に上がった。
「………きっと、平和に、なりますよね」
女王は言った。その声は、すでに俺には届かない。
「…陸、さん。白夜を、どうか……」
女王は、静かに、目を閉じた。
「ッ居たかァ!」
すぐさま、親父は見つかった。
洋館の周りを回りながら、俺達を捜していたらしい。
「死ねッ!」
低俗な言葉を吐いて、俺に銃を放つ。
が、もちろん飛行中の俺にそれが当たるはずがない。
『それほど強いとは思えないんだけどな』
「……いや」
白夜の感想を、俺は批判した。
親父はまだ全然本気じゃない。
……多分
「フハハハハハハッ!」
「ッ?」
突然、親父が高笑いを始める。
「お前も、ほかのホワイトオウルのように、殺してやる」
なんだ?
「ウラァッ!!」
親父が腕を振り上げて、唸り始めた。
「ああああああああああああアアアあぁァあああっ!!」
右手が、変化していく。紫色の刃が、腕を突き破って現れる。
『な、何あれ……』
「化けもんだな」
俺は銃を親父に向けて、
撃った。
ばらららららららららららっ。
P‐90が火を吹いて、親父の体をうがつ……。
いや、違う。
「無駄だクソ坊主!」
確かに、弾丸は命中した。しかし、体に当たった瞬間ひしゃげて、地面に落ちていった。
親父が、襲い掛かってきた。右手の刃を振り回し、俺を追いかける。
「くそっ、銃が効かないなんて!」
刃をかわしながら、俺は愚痴る。
「フハハハハッ、雑魚が、死ねェッ!」
親父が左手を振るう。
すると、そこに透明の紐が現れる。
「キャプチャー!」
「白夜! 火炎放射ッ!」
『了解!』
すぐさま、上から降ってくるそれを俺は糸に向け。
「燃えろッ!!」
吐き出した。炎は糸を焼き、
「むぅうっ!!」
親父の髪を、少し焦がした。
「次ッ!」
『あいよ!』
火炎放射機を返し、すぐさまグレネードランチャーを手に取る。
「ッらぁ!」
引き金を絞る。
ばしゅっ、という音と共に、榴弾が飛び出し親父を襲う。
「甘いッ!」
だが、親父は右手の振りでそれの軌道をずらした。
「ッ!」
「ハハッ!」
親父が、俺に向かって口を開いた。
そこから、電撃が吐き出される。
「なッ!?」
そんなんアリかよ!?
俺は体を捻って、無理矢理避ける。
『次が来るッ』
「ッ!」
俺が目を向けると、親父は両手を合わせてこちらに向けた。
「死ねぇエエエええ!」
手を開くと、巨大なレーザーが放たれた。
「あぶねぇな!」
高速で飛行し、それを回避する。
が、そこに親父が先回りしてきた。
「ッ!?」
「逃がさん」
父親が左手を後ろに引く。
『また別の攻撃!』
「くそっ」
俺は親父の近くから全速力で離れる。
そして体を捻って、親父に向き直った時だった。
「でぃやぁッ!!」
紫色の、弾丸。
それが、親父の腕から放たれた。
「しまった!」
距離をとったのが、失敗だったか!
『うぅぅぅううぅうぅ!』
白夜が唸るが、今更体勢を変えられない。
弾丸が、迫る。
その情景が、ゆっくりスローになる。
人間が死ぬ間際に、見る情景って奴か?
ってことは、今度こそ、万事休すか。
と、
ばしんと、銃弾が何かにぶつかって、ひしゃげた。
「え?」
それは力を失って、下へと落ちていく。
「……なんだ?」
俺は手をのばし、それに触れた。
「……壁?」
透明の1メートル平方の壁が、俺の親父の間に出来上がっていた。それが親父の放った銃弾を止め、俺達を守った。
『プロテクト、だ……』
「何?」
『敵の攻撃を、防御する、能力。私のお母さんの』
「なんだって?」
そういえば、さっきプロテクトがどうって…。
まさか、女王さんが?
俺は女王さんが隠れている場所を見る。
いや、しかし、今の彼女のそんな力があるとは…。
『お母さんだ』
白夜が、言う。
……なんだって?
『お母さんが、入ってきた。今、私に』
「はい?」
入ってきたって?
『分からないけど、そんな気が、したの』
「……それ、一体どういう?」
「ガキががぁぁあぁ!」
親父が、俺達に向けて刃のついて腕を振り下ろす。
それが、俺の頭を捕らえる寸前。
光景が、変わった。
「ッ!?」
『テレポートッ!』
「はぁ?」
前を見ると、親父の背中。
「……テレポート?」
『テレポート!』
どうして……。
『さっき言ったでしょ?』
「お母さんが、入ってきた?」
『うん、そうだよ。ぜったいそう!』
「貴様ッ舐めるのもいい加減にせいやッ!」
親父が、殴りかかる。
「テレポート!」
俺は、その親父の後ろに、回りこんだ。
そして、
「お返しだっ!」
その背中を、思い切り蹴りつけた。
「ふごォッ!」
親父は声を上げて、吹っ飛ぶ。
そして地表に、思い切り激突した。
「……やったのか?」
『まさかね……』
俺達は、空に浮いたまま、その様子を伺う。
砂煙がゆっくりと晴れて、
親父、安倉太陽の姿が見えた。
「……やはり、俺の子供だけあるなぁ、二人とも」
「……何?」
二人とも?
『どういう意味だろう? ていうか、誰に言っているの?』
「さぁな」
親父は両腕を鳴らして、それから俺達を見る。
「……貴様らは、必ず殺す」
「……やってみろよ」
「みせてやるさ。遊びは、ここまでだ」
太陽はお決まりのセリフをあたかも当然のように言い放って、
「終わりの時だ。陸」
そう、告げた。
『なんだろ?』
「……」
嫌な予感が、ビシビシと俺の体を痺れさせる。
「……なんだ?」
地面が、揺れ始める。
『地震?』
「いや、違う」
周りを警戒していた俺の目が、何かを捕らえた。
「アレは……?」
『え?』
森の影から、何かが大量に飛び出す。
アレは。
「嘘だろオイ」
『……ひ、えぇぇぇぇぇ』
何百人いるのか、人間が木陰から大量に走りでた。
「……さっきの分身」
俺を取り囲んだ数を遙かに越えている。どんだけいるんだよ。
「くははははっ! 仲間に見せるのも、コレが初めてだな! いや、今は敵か。くはははははははは」
「お前、まさか」
俺は、大量の親父の分身を、目で追う。
「っ…」
『そんな、酷い……』
洋館に、それらが突撃し、屋上の隊員を襲っていた。
「仲間に攻撃をするのか!?」
俺が太陽に向き直って、叫んだ。
太陽は、俺を見て、首を傾げる。
「仲間?」
「……う」
「仲間なんかじゃねえ。俺についてこない奴なんて、必要ない。あいつらは廃棄する」
「廃棄…って」
人を、物みたいに。
「役立たずは捨てるんだ。社会の成り立ちと同じだろ」
「お前ッ」
俺は、再び宙に飛び上がる。
「…もう、予言は果たされたな」
俺は、親父に向かって、飛び掛る。
拳を握って、その顔に
「再び、俺がナイトホークの党首になる! その為に、お前の命を頂く」
寸前で、何かが横から突撃した。
「うっ!?」
親父の分身?
「邪魔するなっ!」
握り拳をソイツに向けてぶつけて、殴り飛ばす。
空中で、静止して、目を向ける。
「…そんな」
『陸……』
そんな不安そうな声を出すなよ。
俺が、不安になる。
「まさか、全部倒さなきゃいけないのか……?」
俺はP‐90を空から出して構えた。。
目の前に、大量の分身がいた。全員俺を見て、目を光らせる。
「くそったれ!」
その群れの中に、俺は狙わず撃った。
数体の頭が消し飛び、そのまま地面向かって崩れ落ちる。が、その程度だけでは話にならない。
「何匹いるんだ!?」
『わかんないきゃぁあああああ!!』
「落ち着け白夜!」
ちらと横目でみると、ナイトホーク隊員とホワイトオウル隊員が共同戦線を張っていた。
さっきの俺のセリフで、本当に改心したのか?
まさかそんな……。
びしっ。
「うッ?」
俺の肩に、何かがぶつかった。
『銃弾!?』
「なんだと?」
顔を元にもどすと、後列の分身は銃を持って俺に向けている。
「そんなの、無しだろ!」
だが、叫びは意味を成さなかった。
銃弾の嵐が、俺におそいかかった。
「うぐっ!……」
プロテクトも間に合わない。俺は弾丸を全身に受けた。
『陸ッ!』
一瞬の油断で、死ぬ。
戦場で敵から目を離すのは、タブーだった。
……ああ、くそ、ここまでか。
体がバランスを失い、そのまま落ちていく感覚、
これは、もう………。
「もう、何?」
え?
突然の声に、俺の意識は呼び戻された。
空間がスローモーションで、いや、もっと遅く流れる。現実の時間を、超スローカメラで取り、それを最低速で再生したような、そんな情景。
「……一体どうなってる?」
「どうなってるでしょう?」
女の声?
「……あんたは、誰だ?」
「あら、二回目なのに忘れちゃったの?」
忘れたの? というわりには、楽しそうな声だ。
「……二回目?」
俺の意識の中に、一つの映像が、浮かび上がる。
「…赤い目の、女」
「そうよ」
「………白夜に乗り移った、あいつかッ!」
「正解。こんどは、ちゃんと自分の声で来たのよ。偉いでしょ」
声だけってところにセンスを感じるね。嫌味だもちろんな
「…体ごともってこいよ」
「あら……それはちょっと無理なのね?」
「なんで?」
「理由があるから」
そりゃそうだろ。
理由が無くて体がない奴が存在してたまるか。
女はふふふっと楽しそうに笑う。
「ねぇ陸、一つバッドニュース」
「……聞きたくない」
バッドといわれて飛びつく奴がいるわけないだろ。
「大事なことよ?」
「………なんだよ」
仕方なく、俺は尋ねる。
「……美夜は、死んでしまったわ」
「え?」
女王が?
「ええ、私がでてくると、大抵貴方に死の情報を教えている気がするけど、勘弁してね? 大事な情報を教えてくれるだけ、優しいと思いなさい?」
情報を伝えるのはいいけど、それをどこで手に入れてるんだ?
「……お前、何者だよ」
「そうね、今回が教える感じかも知れないわね」
「はぁ?」
「ふふふ、あなたも良く知ってる人のはずなんだけどね」
「……俺がよく知ってる?」
「そう、ちなみに、あなたのファーストキスは私が頂いたのよ?」
「ぶーっ! な、なんだそりゃ!?」
突然すぎて驚く、俺は花梨だとばっかり、いや、その…。
「心当たりないかなぁ? ちなみに愛してるって言い合う関係だったのよ」
はぁ?
「……嘘もいい加減にしろ! そんな相手、どうして俺が知らないんだよ」
「本当よ? もう、なんで信じてくれないかな?」
「話し方に信憑性がないからだろ! それより、なんなんだこの空間は!」
「あなたとコミュニケーションがとりたかったから、そのためにつくった空間、もちろん、ちょっとした助言だけで良いんだけどね」
「…助言って……」
「たいしたことじゃないの。単純にパートナーについて、ちょっとだけね」
「白夜について?」
「そう…。あなたは、白夜ちゃんのことを、ちゃんとまもってあげられる?」
本当に一つ一つ唐突だな。
「…なんのことだよ」
「いいから答えて、彼女が暴走したり、異常をきたしたら、優しく抱き締めて、おちつくまでそばにいてあげられるかしら?」
「……意味が分からん」
「仮によ仮に、で、どうなの?」
「仮にだな? 聞くまでもない。白夜だって、大事な仲間だ。アイツを救うためにそれが必要なら、なんだってやってやる」
「そう、なら安心ね」
「……なにがいいたんだよホント」
「だから、今あなたは銃弾ではちの巣にされたでしょ?」
「え、ああ、そうだったな」
「たすけてあげる。そして、ここらでエンディングといきましょう♪」
「……エンディングって、俺は死ぬのか?
「違うわよ。チャントハッピーなエンディング」
「…どういうこっちゃ」
「だから、仮に、をしっかり覚えておいてね」
「…ああ、わかったよ」
「それじゃ、あと30秒後くらいに、会いましょう」
「え?」
「ッ!?」
『陸ッ、大丈夫!? 早く体を持ち直して』
意識が戻ると、俺の体は自由落下に任せて空中を急降下していた。
「うおっ!」
すぐさま飛行を開始し、体を持ち直す。
『陸、怪我は大丈夫? って、怪我が無い?』
「……え?」
俺は自分の体に触れる。
しかし、確かに傷も血もついていない。
「なんで…?さっき確かに撃たれて…」
いたはずだ、という言葉が途切れた。
木の陰から、太陽が飛び出して俺に殴りかかってきたのだ。
咄嗟に、俺はそのパンチを止める。
「ッ、速い反応だ。こちらとしては、ムカつくだけだがぁな!」
手に持っているのは、ナイフ。俺はそれを自分の手で掴んでとめた。
「くそったれ離れろ!」
俺は親父の頭を蹴りつける。
「はッ!? 今すぐ貴様を殺せるのに、なぜ手を離す?」
言うと、上空から、分身が大量に迫ってきた。
「畜生!」
空いている左手にP‐90を構え、数体打ち落とすが間に合わない。
そいつらが、俺に連続で拳を振り落とす。
「ッ!」
視界が、眩む。
衝撃が連続で脳に伝わり、思考が鈍る。
腕を掴まれて、体を持ち上げられて、本体の太陽の元へ、引っ張りあげられた。
「頂いた、お前の力、すべて俺のものだ!」
太陽が、俺の頭を掴む。
物凄い圧力が頭にかかり、俺の意識が飛びかけた。
『陸、しっかりして!』
吸い込まれる?
…くそったれ。
「抵抗は無駄だ、貴様は俺のものになる!」
「…がぁぁぁぁぁあぁぁあ!」
俺は、太陽の腕を、掴む。
「はなせぇッ!」
「むぅ!」
俺の腕が、爪が、今出し得る最大の力で、太陽の腕に食いこんだ。
時だった。
ばちっ!
「ッ!?」
電撃が走るような音がして、突然、親父の力が弱まった。
「な、なんだと!?」
俺が力を込めると、簡単に押し込める。
……なんだか知らんが。
「いただきッ!」
「うぐぉっ!?」
親父の腕を捻って、頭から手を離す。
そしてそのまま体を捻って、親父を蹴り飛ばした。
「うぐぁッ!」
いとも簡単に、親父の体は吹き飛んだ。
「…どうなってる?」
急に、太陽の力が弱体化した。
一体、なぜ?
『り、く……』
!?
「白夜! どうした?」
『うぅぅ、わかんない、頭に何か入ってくる』
「え?」
白夜が、唸る。
「一体どういう……?」
考えている暇はなかった。
俺の真横から、分身が突っ込んでくる。
「…くそったれ!」
左手で、それを殴る。
と、
「ぎゃぁああああ!!」
「え?」
分身が叫び、その場で崩れる。
そして、俺の腕の中に、吸収される…?
「な、なにが起きてる!!?」
『りく……陸』
白夜が、息も絶え絶えに、俺に呼びかける。
『倒した、分身に乗っ取られていた精霊、が、私の頭に呼びかけるの』
「精霊が?」
『あの男を倒して、って』
白夜が言い終わった瞬間、周囲が光に包まれた。
「なんだ!?」
強い光に、思わず目を隠す、そしてその影から、見た。
分身から、その一体一体から、小さな光がゆっくりと現れていた。
空にいて、俺を襲った奴だけじゃない。銃を持つ奴、ナイトホークとホワイトオウルの連中と戦った奴も一体残さず光を放つ。
そしてそれらは、一斉に俺に向かって飛び、
粒子のように、俺の体にまとわりつく。
「リンク?」
大量の精霊が、俺の体の周りを回り、そして、くっ付いて消える。
すぐに、世界は元通りになった。
が、一つ変化。
「がああああああああああああああ!!!!」
太陽の分身が、異質な、醜悪な叫び声を上げた。
一体残らず、全員。大声で叫んで、
そして、足元から、崩れていく。
「精霊が、消えて、力を失ったのか?」
けど、分身自体は親父の精霊の力のハズだ。
一体、どうして。
「……俺が、手に入れた、力を…」
はっと、俺は振り返る。
太陽が、たっていた。空中に、俺と同じ高さで。
「…奪ったのか? 陸、お前は一体?」
「奪った?」
俺が尋ねる
すると、
「奪ったんだ! 俺の苦労を! 努力の結晶を!」
「……俺に入った、光、アレは……」
太陽が、殺して奪った精霊たちか。
「俺のものだ! 俺が殺した奴から手に入れた。俺の力だ!」
「お前の、力?」
精霊を、力?
「……お前のじゃない」
「…何ッ?」
「お前のものでも、ましてや力でもない!」
精霊は力じゃない。
「精霊は、生きてる。パートナーと一緒に戦う仲間だ。確かに力を授けてくれるけど、決してそのためだけに存在しているんじゃない!」
ちょっとした冗談に笑ったり、俺の役に立てなかったって悩んだり、死んでほしくないって泣いたりするんだ。
力がほしいからって、殺した相手から取りあげて。それを努力の結晶だって?
「…俺は、神になるんだ」
太陽は言う。
「そして、全てを俺のものにする! その邪魔をするなっ!」
太陽が叫んで、俺に向かって突進してくる。
右手を振り上げて、ナイフを構えて。
「アンタは、間違ってるよ」
何から何まで、見事に。
「そんな奴に、精霊が力を貸すわけないだろ」
俺は拳を引いた。そこに、光が集まった。
この精霊全員に、パートナーが居たんだ。
それを殺されて、その相手に使われる。一体どんな気分だったろうか。
「そんな奴には、俺は負けたくないね」
仲間を仲間としてみない。精霊をただの力、道具のような扱いとしかしてない。
そんな奴には。
「うらぁああああああ!!」
親父が、俺に向かって殴りかかる。
体を後ろに捻って、それをかわし、
「!?」
「眠れ!」
がら空きのその頭に、右拳をめり込ませた。
ばちっ。
再び、電撃が走った。
「が……」
親父は首からバランスを崩し、物凄い勢いで下へ落下する。
そして砂煙を盛大に巻き上げて、地面へ衝突した。
「………」
俺はただ、それを見る。
すると、いきなりだった。
ばちっ
「!?」
首元に、電撃が走る。
『……』
「…白夜?」
頭に、呼吸音が響く。
『りく?』
「白夜……?」
精霊の声が、俺の耳に入る。
けど、コレは白夜じゃない?
「お前は?」
『ふふふ、こんにちは』
その声に、俺は驚愕した。
さっきの、赤い目の女!
『あら、そんなに驚かないで』
「何でお前が、俺と。リンクしてるんだ?」
白夜はどうした!? といおうとして。
「まて!? また白夜に乗り移ったのか?」
俺は慌てて尋ねる。何度も俺は許さないぞ?
「違うわよ。このままだと、貴方、下に落ちちゃうから。
「…え?」
ばちばちばち!
音に驚き、俺は横を見る。
空中に、火花が散っていた。中央に、白く光る球体。
「…何?」
それは火花を散らしながら、だんだんひろがり、人の形になった。
そこから光が消えると、それは。
「白夜!?」
宙に浮いた、見慣れた白い少女になった。
目は閉じて、ただ無表情だ。
「なんで、一体何が起きてるんだ?」
『説明は、あと。 さっき私が言ったこと、覚えてる?』
「え? え~と?」
白夜が何かあったとき…。
俺が反復を始めたときだった。
「うあ」
「?」
白夜が、声をあげた。
「うぅううぅうう」
「びゃ、白夜?」
なにが……?
「うぁああああああああああ!!!」
「うわっ!?」
大声で、叫びだした。
目は閉じたまま、口を限界まで空けて。
『始まった』
女が、静かに告げる。白夜の体には白いオーラが発せられているが、その周りに、様々な色がついた小さな球体が、いくつもまとわりついて、それらが押し合っていた。
「ど、どうすれば良いんだ?」
『あの色のついた小さな玉から、彼女を守るの』
はぁ?
「どうやってだよ」
『だから、さっき言ったでしょ?』
ッ…。
俺はその場から飛び出し、白夜の傍による。
その瞬間、耳に叫び声が飛び込んできた。
「な、なんだよッ!」
白夜の声じゃない。これは……!
『私が、いきる、私がいきる!』『まだ、しにたくない!』『明け渡せ!』
『はやく、はやく!』『じゃま!出て行って!!』
女の叫び声、いや、男の声も混じってる?
『皆、白夜の体を奪おうとしてるの』
「……なんだって?」
『彼女達には、もう体が無いからね。この世に残るためには、そうしないといけないの』
そんなこと、
「させるかッ!」
俺は白夜の体を、しっかりと抱き締める。
「白夜、目を覚ませ!」
目を開いたまま、けれど光のない彼女に呼びかける。
俺の体にも、光る玉が激突してくる。それらが当たるたび、皮膚に猛烈な熱さが襲った。
「……お前ら」
俺はゆっくりと振り向く。
「白夜は、俺の大切なパートナーだ! お前らなんかに、明け渡してたまるかッ!」
そして光に向かって、叫んだ。
光はまったく動じず、ひたすら突撃を繰り返す。
『白夜に、もう一度生命力を吹き込む必要があるわね』
女が、言った。
「そうすれば助かるのか!?」
『ええ、誓うわ』
「どうすりゃいい!?」
女はうーん、と考えるように唸って。
『そうね、貴方と彼女の、粘膜同士の接触があれば、きっと目覚めるわね』
「そ、それって?」
どういうことだ? もっと具体的に言え!
『まぁ、手っ取り早くいえば、キスかしら? もちろん、触れるだけじゃダメよ?』
「……へ?」
『口の中は脳に近いし、皮膚も薄いから精神力が伝わりやすいの。だから、それがいいわね』
「…いや、ちょっと」
『じゃないと、彼女は』
………。
俺は、白夜に目を落す。
彼女は静かに目を閉じて、口まで閉じてぐったりとしていた。
……急を要するんだ。
「や、やればいいんだろやれば!」
俺は自分を奮い立たせる。
「……ごめんな」
本人の了承無く、そういうことをするのは気が引けるんだけど、
俺はゆっくり、その小さな唇に。
キスをした。
『わーお』
女の声が五月蝿く響く。畜生お前は黙って…!?
いきなり、白夜の腕が、俺の首を捉えた。
な、なんだと!?
そのまま、ぎゅうと引っ張られる。自分の唇を押し付けるように力が入れられて離せない。
口に、何か進入してくる? これ、いやちょっと待ておい!
『あら……。これはどういうことかしら?』
説明してくれ!? 何が起きてる。
『うーん…白夜ちゃん、もしかして?』
え?
『起きて、た?』
その声が俺の耳に届いた後、
白夜が、ぷは、っと口を離した。
そして、呆然とする俺のすぐ目の前で、まぶたがゆっくりと開き、青い瞳が姿を現す。
「…えへ」
「おま………」
「陸から、してもらえた。これは、花梨に勝ったよね?」
白夜はそう言って、俺に抱きつく。
「え?」
一体、それはどういうことでしょうか?
俺達を取り囲んでいた様々な色の精霊が、一瞬ではじけて消えた。
『あら、どうも私の思い違いだったのかしら』
女が、言った。
「ど、どういうことなんだ!? 訳がわからん!」
俺は尋ねる。
『さっき、太陽につかまっていた精霊たちがみな解放されて、貴方に力を貸した。それらは全て貴方の体にリンクして、力を増幅させたの』
太陽に喰らわせた、最後の一撃を思い出す。あの破壊力は、そのせいだったのか。
『けど、リンクは、一人の人間に一人の精霊だけしか出来ないものなの』
「………」
『太陽が分身を使っていたように、複数の体に複数体なら可能だけど、一人の人間にあの数が入るのは、かなり異常』
「けど、俺はなんとも無いぞ?」
『そうね。貴方は、ね』
……まさか。
俺は白夜に視線を向ける。
彼女は、俺の視線に、ブイサインを出した。
『そう、あなたの負担は、全て彼女が肩代わりしたの。彼女は自分の体に、あの大量の精霊を受け入れた』
普通、一人の一体の精霊を大量に……。
『しかも精霊なのに、ね。彼女はそのダメージを負わされて、きっと気を失うと思ったの。そしてそこを他の精霊が狙うだろうから、それを陸に守らせようとしたのに………』
女は、口ごもる。
「私がその程度で弱るわけないでしょ。これでも精霊女王の娘だよ」
えっへんと、こぶしで無い胸を叩く白夜。
『……そうね、見くびっていたわ』
女は、ため息混じりに言った。
………つまりは、俺はまんまと騙されたと。
『そういうことね』
……。
「うふふ、うふふふふ」
何をそんなに喜んでるんだ。
つか、なんでお前はそんなことを?
「…? わからない?」
白夜が、疑いの目を、俺に向ける。
「だって、俺とお前は、パートナーで、それ以上のことは、何にも無いはずだろ…?」
『貴方。それ本気で言ってるの?』
「本気も何も、リンクしているお前なら心の中読めるだろ!?」
『頭で文章になっていれば、読めるわ。でももやもやしたイメージは読めない』
女は言った。
『だから、貴方が本気なのか、分かってるけど分からないフリしているのか、私には分からない』
「…分かりません。本当に」
何が、したいんだよ。
「う…なんでさぁ?」
肩を、ばしんと叩かれた。痛い。
「逆に、何でだよ?」
「えー? えー? うー……知らないッ!」
「えぇ?」
何が言いたいんだよ?
『ははは……陸、恐ろしい子』
アンタまで、なんだってんだ。
って、そうだ。
「結局、アンタは何者なんだ?」
『ふふふ、何者かしらね』
「もったいぶらずに教えろって」
『そうね……』
しゅん、と音がして、リンクが解かれ…って落ちる!?
「危ない!」
代わりに、白夜が俺にリンクする。俺は体勢を直して、女のほうを見る。
「本当に、久々なのよ。まぁ、覚えていなくても無理はない、か」
白い粒子が固まって、少しづつ人の形をとっていく。
「……アンタは…」
そしてそれが終ったとき、
そこには一人の女性がいた。
白夜、女王と同じ白い髪と、青い瞳を持って、中々に大きな身長のスラリとした…。
俺は、彼女に、近づく。
『陸?』
「まさか…、そういう、ことか」
なんとなく、飲み込めた。
「久々ね。陸。本当に」
確かに、ファーストキスはこの人だ。
愛してるだとか、言ってたし、ずっと一緒に住んでいた。
ああもう、何でもっと早く言ってくれなかったんだ?
「楽しみは最後にとっておかなきゃダメだと思ったから、かな?」
「……なに、言ってんだよ」
『ねぇ、陸? 誰なの?』
白夜の声に、俺は小さくこたえた。
「俺の、母さんだ」
『え? ええ?!』
「ふふ、覚えていたのね」
母さん、聖夜は笑った。昔と何一つ変わらない笑顔で。
「…忘れていたら、どうしようかと思っていたわよ。陸」
「忘れるもんか。親父を覚えていて、どうして母さんのことを忘れられるんだ?」
「そう、そうね」
母さんはゆっくりとうなずく。
『白い髪、私とそっくり』
「そうね、だから貴方に乗り移れたのかもね」
にこりと、笑って、白夜に言う。
『……陸』
「ん?」
『私は、あなたのお母さんにそっくりだよ』
「ん、うん」
『………』
「え? 何?」
どういうこと?
「ふふふっ、白夜ちゃんって、結構おませなのね」
『ロマンチックと言って!』
「うふふふ。さて」
母さんが、声を真面目に戻す。
「?」
「最後の仕上げね。陸」
何?
『どうしたの?』
俺の白夜に、母さんは言う。
「ほら、大変なことになってるわよ」
「え?」
母さんが指差すほうを、俺は見た。
森の中、少し木がはげたところに、太陽がたっていた。
「アイツ、まだッ!」
銃を向けようとして、気付いた。
その腕につかまっているのは……。
「花梨ッ!?」
そんなッ!
「ハハハハハッ油断したな馬鹿め!」
太陽が腰からベレッタを抜き、花梨の頭に当てる。
「……りく…」
花梨の泣きそうな声が、聞こえた。
「くそ、っ花梨!」
俺が飛び出そうとしたところを、母さんが止めた。
「止めな。冷静になれ」
「…んなこと言ったって」
『そうだよ。花梨ちゃんが殺されちゃう!』
「下手に動いて近づいても殺されるんじゃないの?」
母さんの言葉に俺はぐっと口をつぐんだ。
「…そ、それはそうだけど…」
「まずは落ち着きなさい。奴は馬鹿だから、簡単に欺ける」
久々に、母親の叱りを聞いたな……。
なんて、俺は悠長なことを思った。
母さんが、ゆっくりとこちらを見て、
「白夜ちゃんといったね」
『………は、はい!』
「ちょっと、お邪魔するわね」
『え?』
俺達が見る前で、母さんが光の粒子になって、俺の体を取り囲む。
『そんな、どうしてリンクできるの!?』
「どういうことだ?」
『普通、一人の人間には一人の精霊しかリンクできないんだよ!それ以上は、絶対にありえないもん!』
そういや、さっきもそんなこと言っていたな。
どういうこと、なんだろうか?
『あら、なにそんなこと?』
そんなことって。
『私は陸の母親よ? リンクの制限なんて、吹っ飛ぶわよ』
「……ははは」
とんでもない人だ。相変わらず。
「貴様らァッ!」
太陽が、叫んだ。
「コイツがどうなってもいいのかァ?」
「困るな」
どうなっても良いわけがあるか。将来の俺のお嫁候補だ。まぁこれはちょっと盛りだけど。
「ならおりて来い、そして変わりにお前が死ぬんだ安倉陸ッ!」
親父は早口にまくし立てる。余裕はもはやなくなっていた。
『父親のくせに、子供に手をだすなんて、あの人も落ちぶれたわね』
『昔は、もっとかっこよかったんですか?』
『…そうねぇ、そうでもなかったわね』
耳に母親とパートナーの話し声が聞こえる、無視する。
「変わりに死ぬのも嫌だ」
冷静に、考える。母親は俺にリンクして、何かやるつもりらしい。
「ふざけるな、ならコイツには死んでもらうしかないッ!」
けど、今のところ自分で動く気はないらしい。てことは、俺が何か行動を起すのか?
「それも勘弁してもらいたいな。大切な人なんだ」
今この状況で、行動できて、尚且つ、まだあの親父にばれていない仲間……。
……いる。頼れる奴がいる。
「だったらお前がおりてくるんだな。二つに一つだ、選べッ!」
太陽が吼えるのを、俺は聞きながら、腰の通信機に手をかける。
『何かするのね。わくわく』
『?』
「どっちも、選びたいところだ」
そしてそのスイッチを押した。
「どっちも、ふん、ふざけるものいい加減に…」
ドスッ!
「あ?」
太陽の持つ銃が、消し飛んだ。
いや、正確には銃ではなく、それを持つ手が落とされたのだが。
そして間断なく。つぎつぎに太陽の体から血が吹き出た。
「……流石すぎる…」
俺は空を見上げる。紫色の空に、小さな点が飛んでいて、そこから弾丸は振り注いでいる。
『今ね』
母さんの声が耳に響いた。
すると、俺の背中辺りから白いチューブが太陽のもとに飛び、その体を縛り上げる。
「うぐっ、こ、コレは!?聖夜の!?」
とかなんとか言っている男の後ろから、何かが接近。
「りくをいじめるやつそくだんざいやほー!」
クローの足が、男をがっしりとつかみ、そして宙へと舞いあがらせる。
「うぐっ……貴様、どこに……」
「ふむ、さすがにくものうえまではみえなかったか。せいれいなしではたいしたことのないおとこであった」
朱音が得意げにむふーとはなを鳴らした。
「粋がりおって、赤子めが!」
太陽が左手で、もう一丁のベレッタを持ち、それを朱音に向けようと、
その銃が光に弾かれて飛ばされた。
「な?!」
花梨が、両手を太陽に向けていた。
その手には、光り輝く魔法のあと。
「貴様ッ!」
「精霊なしで無理するからだ」
俺は上空から急降下して、空中に投げ出された太陽を見る。
「ぐ、陸ッ!」
「余裕も無いくせに、あるフリするな!」
ただ舐められるだけだぜ、それ。
俺は両足で、太陽を蹴りつけた。
精霊を失って、飛行能力を失った男は、哀れにも元いた位置に戻され。
「くーぉ!」
そこにいた大梟に、取り押さえられた。
「ありがとうな、朱音」
俺は近くまで近づいて、地面に降り立った。
「いや、れいをいわれるひつようはない、まいどのごとく。わたしはりくがぶじならば、それでいい」
「そうか、わかった」
俺は朱音の頭を撫でてから、クローの足に捕らえられた男に近づく。
「陸くんっ!」
花梨が、そばに駆け寄ってきた。
「……大丈夫だ。もう逃げられはしないよ」
俺は太陽から、目を離さずに言う。
「……ははははははは、なるほどな。精霊が逃げだしてしまったのか、俺の中から」
親父は、そう言って笑う。俺はその様子をただ、真顔で睨みつける。
「母さんの体を自分の中に閉じ込めていたんだな。あんた」
「ふふふ、良く分かったな。ガキのくせして……」
「ガキを舐めんなよ、頭が固くなった中年よりよっぽど脳の性能は上だ」
俺はそう言って、太陽を立ち上がらせた。
腰のホルスターから、旭の形見のMK23を抜いて、太陽に向ける。
「母さんの意識だけを冥界の一歩手前まで追い立てて、それから体だけを自分にリンクさせることで、アンタはずっと力を使い続けてきた。けど、今日、俺の体に触れることで、俺の精霊、白夜に乗り移って隠れていた母さんの意識がアンタの中の体に入り、そして逃げ出した。そしたらアンタは弱体化して、卑怯な人質をとるような作戦をとるしかなくなった………」
俺はゆっくりと、太陽の傍による。
「…俺を撃つか? 殺すか?」
太陽は笑いながら、俺に問いかける。
『ぜったい撃ち殺す』
『……ノーコメント、で』
「……」
「ぶっころ!」
四者四様の反応示す一同。
俺はその中で、ただ黙っていた。
「母さん」
『はい?』
「こいつの縄を解いてくれ」
『はいな…』
しょうが無いわね、見たいな言い方で、言った。
とたんに親父の手足は自由になり、それに応じてクローも離した。
「今更放っておいても問題ない。精霊もいないあんたには、もうナイトホークのトップにも戻れないだろうし。今更殺すまでもないよ」
俺はそう言って、太陽に背を向ける。
「行こうみんな。全部、終った」
みんな少し戸惑ったようだが、しばらくすると付いてきてくれた。
「……ふふ」
太陽が、笑う。
「甘い、甘かったなヒーロー」
朱音に打ち落とされた自らの腕から、ベレッタを抜き、俺に、向けた。
「その油断が命とりなんだよ!」
引き金を引いた。
放たれた弾丸は、真っ直ぐ俺の後頭部に向かい、
そこにあったプロテクトに、全弾阻まれた。
「う…?」
太陽が、間抜けな声を上げる。
俺はゆっくりと振り駆りながら、右手のMK23の安全装置を外した。
「……そうだと思ったよ。お前が卑怯者で、クソ野朗だって」
「な」
「優しさなんてあるわけないだろ。お前が居たせいで旭が死んだ。そしてお前はさっき花梨にまで手を上げた。俺は結構、静かに怒るタイプなんだよ」
プロテクトを解除する。
太陽は自分の手にある銃の引き金を引く、しかし、弾は既に空だった。
「アンタが俺に向かって撃ってくれたお陰で、すっきりした。心置きなく仇が討てる。旭が憎んだナイトホークは、アンタが死んで全滅だ」
俺はMK23の引き金を引いた。
銃から弾丸がはじき出されて、その後、反動で俺の右手が跳ね上がる。
銃弾は太陽の目に直撃した。
目玉を突き抜け、脳に進入、それをぐちゃぐちゃに破壊した。
「うが……」
被弾の瞬間びくりと震え、そしてすぐに固まる。
ゆっくりと倒れる死体に向かって、
静かに、俺は言った。
「さよなら、父さん」