その3「嘘吐きの目的」
「放課後図書室って言うのはもうお決まりパターンなんだよな」
「そうね」
俺としては、退屈だからさっさと帰りたいんだけどね?
俺と白夜は、放課後の図書室に居た。
だんだんと分かってきた事だが、この少女、どうやら本が好きらしい。
最近子供の活字離れとかそういう話がかなり聞かれるなか、とても良いことだとは思うが、しかしそれでも俺が巻き込まれるのは勘弁して欲しいというのが俺の素直な感想だ。
だが、そう言ってみても、パトーナーというものはあまり離れていると危険だとか何とか言って帰らせてくれない。
しかも、この少女、毎日本を借りてはその日の内に読み、そして次の日には返し、また新しく借りるという、信じられないほどのハイスピードで本を読んでいくため、この退屈な時間が毎日続くのだ。
俺は痺れを切らし、
「なー、部活行っていいか?」
と訊く。
が…。
「……」
白夜は黙り込んだまま、俺を無視しおった。
いや、正確には本に熱中しすぎて聞こえていないのだろう。
「……白夜?」
俺は手を伸ばし、本棚の前で手に持った本を凝視する少女の肩を軽くたたいた。
と、その瞬間。
「ひぎゃあああ!敵!?敵なのか!?」
「へ?」
突然騒ぎ出した白夜は俺の手をがしりとつかみそのまま背負い投げの動きで俺を投げ飛ばした。
俺はしばらく空中を飛び、ようやく事態が飲み込めたタイミングで後頭部に激痛が走った。どごんという音が耳に飛び込んでくる。
「ごはぁっ!」
目から星がとんだように思えた。
いや、マジでマジで。
「……陸?」
「……酷くない?」
俺は若干涙目で、そこからゆっくり立ち上がる。
「あ、あああ!ご、ごごごごごめん!つい、つい反射的に!!」
白夜があわてて駆け寄ってきて、俺を抱き起こす。
「……あ、ああ」
さすがに気にして無いとは言えない。
現に頭はジンジン痛むし、背中もなんか押し付けられるような痛みがある。
「というか、いきなり投げられるとはね……」
反射的に投げ飛ばすって、君はどこの柔術家ですか? やはり精霊というものは結構ぶっ飛んだ存在だなぁ。としみじみ。
「ご、ごめんなさい」
白夜は泣きそうな顔になっている。どうやら本当に無意識での行動だったようだ。
「わ、わかったわかった。だからさ……」
さっきから俺の背中に回っている手をどかして欲しいんだけど…。
「……なんで?」
なんでときましたか。
「いや、これは世間一般では第三者に誤解されかねない状態な訳でだな……」
倒れた俺の上に白夜がのしかかっている。しかも白夜の顔はかなり近く、そして手は背中にまわり……。
さらに彼女の表情は多少涙目っていう。
「……いろいろ危険なんだよ」
「敵?」
「じゃなくて……」
俺は痛む体を動かし、無理にでも持ち上げようとした時、
「図書委員はいるk…」
誰か入ってきた。
しかも……。
「あ……?」
「……」
「………?」
俺達がそういう状況になっているその目の前で。
「………何をしている?」
「えっと、えっとですね………」
上履きの色から、一年上の三年生であることは読めた。だが、他には全く情報のない、つまり初対面。
その初対面がこれである。
「…こんにちは」
「こんにちは、ではないだろう?」
喋り方が完全に偉い人っぽい。
生徒会か何かなのか?
「白夜、降りろ」
「……うん」
「…もう一度訊く。ここで何をしてるんだ」
凄い睨みを効かせてくる。
「えっと……」
こういうとき、何を言えばいいんだ?
「白夜……?」
なんとなく隣の少女に声を掛ける。
「……………」
完全に沈黙。目の前の先輩の威圧感に押されている感じだ。
駄目だこりゃ。
「………言わぬか、言えぬことなのか?」
「いえ、決して……」
「なら何故言わない」
「それは……」
言っても多分信じてもらえないだろうし、益々怪しまれる可能性があるため、今起きた状況を話す訳にはいかない。
だが、それでも空気が悪くなる。
くそ……どうすれば。
こんな時に旭がいれば……。
ああ……。
旭……助けてくれ……。
「呼んだか?」
!?
「!?」
俺は後ろを振り返った。
なぜか、本棚の影から旭が顔を覗かせていた。
「旭!?いつの間にそこに!?」
「ああ、お前は二番隊員、そして俺は二番隊長。隊員がピンチの時には、いつでも俺が助けに入る」
「……はは……」
頼もしいねぇ。今日ばかりはストーカー扱いは止めなければならない。
「……なんだお前は」
「どうもどうも、風紀委員長、高倉海太殿。島田旭というものでごぜーやす」
旭がそういうと、高倉というらしい先輩はムッとした。
おそらく、旭の喋り方が気に食わなかったものと思われる。
「こんなところに何の用事ですかね?」
「……図書委員の一年、水月に用があったから尋ねてきたのだ。今日当番らしいからな」
「おや、そうですか。ですが水月さんは今此処に居ないんですよね」
「………何?」
旭は何故そんな事を知っているんだ?
俺は白夜に目くばせをする。白夜も首を横にふる。
「ええ、今日は体調が悪いらしく、当番を俺に任せて下校しました」
旭って図書委員なのか……?
俺の疑問符とそっくりそのまま同じ意味の言葉を高倉先輩は言う。
「……お前は図書委員なのか?」
「いえ、違います」
違うのかよ。
俺の心を読むことができるらしい旭は俺を見てにやりと笑うと、再び先輩に向き直る。
「ならお前が代理をやるのは筋違いだ。今すぐ別の図書委員を立てるんだな。なんなら、俺が担当教員に告げ口してやってもいいぞ?」
嫌味たっぷりにいう先輩。多分性格悪いんだろうな。
「残念ですが」
しかし旭はまったくひるむことなく、むしろ不敵な笑みをさらに強めて言葉を続ける。
「その担当教員が公認して俺がやっています。告げ口してもいいですが、その場合貴方が勝手に人を陥れるような最低な性格の人間であると教員たちに知られることになるでしょうね。そしたら風紀委員長としての立場も危ういかもしれませんねぇ?」
高倉が眉を顰めた。
「……」
「……」
「まだ、何か?」
旭が言うと、高倉は
「ふん、ならいい明日また来るとしよう」
乱暴に扉を閉めて、出て行ってしまった。
「…助かった……」
「感謝しろよ?」
旭は俺をみて、にこやかに笑った。
「ああ、感謝するよ。マジでありがとう」
「おう、じゃあ続きを楽しめよ」
続き?
「あれ?白夜ちゃんが陸を押し倒したんじゃないのか?」
どうしてそうなった。
「現状みたらそうとしか」
やっぱりか……。
白夜が顔を真っ赤にして首を横にふる。
本気でさっきどうなってたか分かってなかったんだな……。
「……?違うのか?じゃあ、何があったんだ?」
今回は旭がお得意の変態性で勝手な解釈をしたわけじゃないらしい。
あいつ自身も、説明するとちょっと反省というか、うわーミスったー、みたいな顔してたしな。
「悪かったな陸」
「いや、いいよ」
「ごめんなさい陸」
「白夜はちょっとだけ許さない」
「えー……」
白夜が口を尖らせる。
「えーじゃねえよお前のせいだろ馬鹿野郎。ちょっとだけだから、今日ベッドは俺が寝るからな」
白夜がムッとした顔で俺を見てくるが、あそこは元々俺の寝床だ。
「ベッド?」
旭が口を挟んできた。
「あぁ、こいつに俺の寝床とられてる。低反発がどうとか…」
ビシッと指差して、言う。 床で寝る寒さを考えろ。
「れでぃーふぁーすとだよー!!」
なんて白夜が反論するが、こっちも引き下がるものか。
「どこに淑女がいるんだ?」
「りくがいじめるーぅ!」
旭に助けを求めるな。こら。おい。
旭は俺達をまじまじと見ていたが、白夜と俺にこういった。
「二人で寝ればいいじゃん」
真顔で、言いやがった。
その直後、俺と白夜のダブルパンチが旭にめり込んだ。
「お、俺はアイディアを出しただけなのに……」
そのアイディアとやらが本当に名案かどうかよく審議してから言うことだ。
「えっち! えっち! えっち!」
白夜がひたすら非難を続ける。その度に大ダメージを食らったかのような表情になる旭。
このロリコンが爆発しやがれ。
そんな旭が突然、そうだ、と切り出した。
「お前達が丁度ここにいて良かった。呼ぶ手間が省けたな」
旭は本棚の横から貸し出しカウンターのほうへ歩きつつ言う。
「あん? なんか用か?」
「おう、それなりにな」
なら余計な時間を食っているぞ? 大丈夫か?
問題ない、急ぎじゃないし、と言って、カウンターの脇にある書道室に続くドアを開ける。中から一人の生徒が出てきた。
「紹介する。さっきも出た名前だけど………」
そこに居たのは
「水月花梨さんだ」
眼鏡を掛けた、小柄な少女だった。
「……誰?」
白夜の辛辣な一言。
心なしか目が冷たい。
「……白夜?」
俺の呼びかけにも応じない。今日はこればっかだ……ってその人!
「さっき帰ったって言ったよな!?アレは嘘か?」
「おう」
なんで!
「いや、ちょっと野暮用でな」
「まさか、この紹介の為か?先生にバレたらどうするんだよ?」
俺の問いかけに、旭は何の事だか分からないという様な顔をし、白夜を顎でさした。
「え?」
「?」
白夜は俺の視線に気付くも、何?と首を傾げる。
……ああ、そういうことか。精霊、ね。
俺の伯父伯母さんを無理矢理説得した魔法ってやつ。
おそらく黒夜がかけたんだろう。
………それにしても、強引な手を使うもんだな。
旭はくすくすと笑って、
「目的のためなら手段を選ぶ暇はない」
なんてカッコつけっぽいセリフを吐いた。お前の目的は、俺にはまだ分かりかねるがな。
「ねぇって。その人だれなのさー?」
白夜が痺れを切らしていった。さっきからずっと質問してたっけ、そういや。
「ああ、誰って言うのももっともだな。いきなり名前だけ出されても分かるほうが恐ろしい。そんな人間ばかりなら言語なんて必要ないもんな」
旭、お前は俺が口を開く前に俺の心を読むだろうが。
「聞こえてるぞ」
ほらな。
旭はわざとらしく咳払いをして、紹介的なことをし始めた。
「えーっとこいつは、このまえSAに巻き込まれ、自力で生還したこの地域でたった一人の人間だ」
「SAから?」
少女、花梨は小さく頷く。
「どうやってよ?やっぱりナイトホークの隊員と接触が……あ」
白夜は気付いたらしい。
俺の件から考えるに、ナイトホークって団体は関与した人員をすべて味方に引き入れているように思える。
それはおそらく、情報の流れ、存在が明るみに出ると面倒なことになるからに違いない。
そりゃあ、全世界を滅ぼす奴らと戦っている団体だから、当然だよな。
まあ、おそらくナイトホークのメンバーがミニコトとの戦闘を差し置いて人を助けるなんて稀な気がするけど……。
俺はSAでの旭を思い出した。
酷く凶暴な目をしていた。だって俺の第一印象「怖い奴」だったし、いつも命を奪われる危険性がある以上、考え無しに人に近づくわけにはいかないんだろうな。
「まあ、とりあえず」
旭が声を発して、俺は脳内処理を終えた。
「二人が察したとおり、花梨さんはSAに入り、解除されるまでクリーチャーから逃げ切った人なんだ」
俺は花梨さんをよく見た。
白夜に比べればアレだが、身長も低く、そして体もとても細い。どう見たって体力があるとは思えない。
同じように体力があるとは言えないが、男の俺でも旭が居なければ殺されていただろう。一体どうやって……。
「俺らナイトホークとは直接関わり無いが、彼女の経験は周りに流れてしまうととても痛い。だから、話を聞き、俺達2番隊が保護、管理することになった」
「は?」
「なんかおかしいこと言ったか?」
保護、管理だって?
「そうだよ」
「どういうことだよ。口止めくらいでいいんじゃないか?別にSAに入ったことのある人間が彼女以外全員ナイトホークって訳でも……」
俺はそこまで言って、前の旭との電話の内容を思い出した。
『俺達の存在を知っている無関係者となれば、抹殺指令も出ると思うがな……』
「居ないな。いままで俺達の存在を知り、尚且つナイトホーク隊員で無い奴は」
旭は不敵な笑みを浮かながら言った。
「………」
そうか、俺の入っている団体は……。
民間人も殺すんだよな……。
パラサイドに取り付かれた人間。彼はおそらく旭によって射殺されたのだろう。ちょっとブラックな気分になっていただけでクリーチャーに取り込まれた。ただそれだけの人だったのに。
それ考えれば、ナイトホークが行うのは口止めではなく口封じが多いだろう。死人に口なし、だ。
「だから、今回は例外なんだよ。この花梨さんは、SAから出てきてから、ちょっと変わったことが起こり始めた」
「……何?」
白夜の質問を聞いて、旭は花梨さんにどうぞと促した。
「これ」
前に突き出した手の平が、光りだした。
「……え?」
俺よりも、むしろ白夜が驚愕していた。
………?
皆が静まりかえる。光はしばらくするとやみ、花梨さんは手を下ろした。
「………分かってないのは多分陸だけだよな」
「悪かったな……」
「いや、いい。新参だから仕方ない。今のは、精霊だけが仕えるはずの所謂『魔法』といわれる代物だ」
魔法、か。
つまり、白夜が銃を作り出したり、手から光線が出たりした、アレのことか。
「そう。アレのことさ。この人はSAに入ってから、精霊の力であるはずの魔法が使用可能になってる。これは我々としても、研究素材としてとても興味深いらしいよ」
「研究って……」
「別に解体されたりは、しなかった」
花梨さんが口を開いた。
「皆、良い人だったから」
「そ、そうなのか」
雰囲気はとても静かで、悪く言えば存在感がないと言った感じだ。
ただし、自分がこの訳のわからない世界に巻き込まれているというのに、全く驚きというか、恐怖というか。そういうものが感じられなかった。
「そういうことさ。ナイトホークはミニコトとは違う。奴らは研究素材が人間なら、解剖どころか殺しだってする」
「研究できるのか、それ?」
「場合によるらしいがな。さて」
旭は貸出カウンターに手をついて、
「陸よ、今日からこの人を防衛することを命ずる」
「はぁ……」
……。
「はっ!!?」
俺は飛び上った。
「な、なんだってぇ?」
「守れっていったんだよ」
「さっき二番隊で守るっていったじゃないか!二番隊って、俺とお前のことだろ?」
「ああ、まあそうだな」
「じゃあお前がやれよ!隊長なんだろ」
俺は旭に指を突き付けて言った。
すると旭はにやりと笑い、
「愚か者め」
俺の指を変な方向に曲げようとした。
「いてててって!!!!」
「文句無いな?」
旭はさらに力を強める。
「ないっ!!ないないないないないない!!!」
激しい痛みのせいで、そう言うしかなかった。
「よろしい」
旭は今度は二コリと笑い、俺の指をパッと離すと、
「じゃあ、そういうことで」
と言い残して図書室から出ていった。
「り、陸大丈夫?」
「く、くっそぉ………」
あの野郎。絶対妹の婿にはしてやらんからな。そんな権限俺には無いけど。
「あの~……」
俺がそんな決意を胸に秘めていると……。
「私、どうすれば……?」
水月花梨さんが、俺の横にしゃがんで訪ねてきた。
「あ…。ああ、ごめん」
俺は痛む指を我慢しつつ立ち上がった。
「えっと…。水月花梨さんだっけ?」
「はい。そうです」
「すまん、悪いが俺もこの話を最近聞いたばかりなんだ」
「そう、陸はそうなのよ。ちょっと前までクリーチャ―から逃げ惑っていた輩なんだから」
白夜が横から言葉をはさむ。輩て。
「ええ、旭さんから聞いています。私も似たようなものですよ。全然、まったくと言っていいほど知識もなくて……」
「……どこまで知ってるんだ?」
俺は尋ねた。
「えっと、そうですね……」
花梨さんは言葉を発しだした。
「ほとんど同じかな」
「そうですね……」
お互いの知識、この事に関しての知識をお互いに教えあうと、二人とも完全に同じ知識しか持ってなく、そして同じ知識を持っていた。
「じゃあ、君も旭から……」
「ええ、そうです。彼から聞きました」
丁寧な言葉を並べる花梨さん。
「そうか……」
何か情報が得られるかと思ったが、駄目だった。
俺達が今一番必要としているのは情報。
旭から教えられることしかない今、SAで戦うというのは不安の塊なのだ。
「もちろん、何か知ったら教えます。将来的に」
「ああ、分かった」
俺はそう言って、白夜を呼んだ。
「何、終わった?」
白夜は本棚の影からひょっこりと顔を出した。
「……また借りるのか?」
「うん」
手にはハードカバーの本が2冊乗っていた。
「本が好きなの?」
花梨さんが白夜に尋ねる。
「ええ、大好きよ。貴方も?」
「ええ、それなりに」
花梨さんは微笑んだ。
たしかに、図書委員らしいし、物静かなイメージはある。
「家にもたくさん本はあるわよ」
「ほんと!?」
白夜の目が輝いた。
「ええ、ほんと」
「じゃあ、さじゃあさ!今日行っていい!?いい?」
「お、おい白夜」
「いいでしょ!花梨さんがいいならいいでしょ?伯父さん伯母さんは私が(魔法で)説得しとくから!」
で、でもなぁ……。いや、魔法でって大丈夫か? あんまやりすぎて健忘症とかになられても困るんだけど。
「……まぁ、いいわよ?」
いいんかい。
「やった!」
白夜の喜びようと言ったら、それはもう……。
いや、今はそれより……。
「だ、大丈夫なの?」
「うん、だい……丈夫です」
無理やり敬語に直した花梨さん。
同級生に対して、何を敬う必要があるのか。 護衛だとかそんなことになってるから、ちょっと責任というか、そういうものを感じているのか?
個人的に距離を置かれているような感覚になるので、敬語は嫌だ。
なので、此処は親密に行こう。
「敬語はやめてくれないか?同級生だろ?」
俺は軽く言った。別に、敬われるほど出来た人間でもないし。それにこっちが普通にしゃべっているのに、相手が敬語だと話しにくいし。
「え……ああ、うん……」
そんな俺の言葉に、花梨さん改め、花梨。はゆっくりと頷いた。
「家まではどれくらいあるの?」
「そんなに遠く無いよ。すぐそこだから」
花梨と白夜が話している。俺は実質蚊帳の外。
帰り道はそんな感じだった。
俺としては、色々思考をめぐらす余裕が出来るから嬉しいがね。普段から一人で帰ることが多いし……。今ぼっち言った奴表出やがれ。撃ち殺す。
まぁいい。とにかく俺はちょっと考えてみたかった。これからのことを、もっとしっかり。今の俺が置かれている状況は、どう考えても尋常じゃないし……。
俺はなんとなく空を見てみた。
夕方に傾いた日は赤く光り、西から東に行くにつれて赤から蒼へのグラデーションになっている。あんまりお目にかかれない綺麗な夕日。
それはもちろん、あの紫色の空ではない。絶対に、違う。
そんな世界の中で、今普通に過ごしている俺。アレが夢だったと言うこと、思うことはとても簡単だ。あのときの俺の頭が、ただどうにかなってただけだと考えるのは容易く、そうすれば悩みは減る。もちろん、精神科だかなんかの医者にかかる必要性が出現するが、少なくとも命の危険性は減るはずだ。そもそも誰も信じるはずもない話だし、現実では認識されない出来事なんだから、そっちのほうが断然現実味がある。
だが……、と。
俺が頭を少し回して目線を前に戻せば、そこに二人の少女が仲良く歩いているのだ。
一人はその世界で出会った少女で、ちょっと普通とはちがう神経と、普通じゃない色の綺麗な長い髪を持つ魔法使い兼、精神居候能力者。あの出来事が夢だったならここに存在するはずのない存在だ。
そしてもう一人は、俺と同じくあの世界に入ったことがあるというこれまた魔法少女。
この二人は俺の記憶が見たとおりの現実であったということの証明であり、彼女達が居る限り、俺があの世界に入ったというその事実は変えられない。
ちょっと気取って言えば、俺の平凡な生活は終わってしまったのだ。
何故そうなったんだよ!どうしてだよ!と言い出せばキリが無いけれども……。
もしかすると、これが俺の人生の価値なのか?
なんとなく、そんな気になった。
これを機に、俺の何かが変えられるかも知れない。
そんな事を言い訳のように思いつく。
自分のこのいい加減で滅茶苦茶な運命を嘆かず、出来るだけポジティブに生きるために。
そして、それと同時だった。
「……魔法…」
ふと思った。
この現実。手から光が出たり、銃器が想像で作れたり、俺と精霊がリンクしたりする現実。これは俺が今まで見てきた全ての常識を覆す出来事。
そこに、一筋の希望が見えた。
もしかしたら……。
もしかしたら………精霊の力を使えば……。
この嫌になる運命で、過去の嫌になる運命を変える方法を思いついた。
「なぁ、白夜」
俺は前を歩く二人組に声を掛けた。その声が自分でも分かるくらい、希望という二文字に踊る言葉だった。
「なに、陸?」
白夜が振り返り、訊ねてきた。
その表情はにこやかで、とても可愛く見え……いや、なんでもない。
「あの、訊きたいことがあるんだけど……」
「なに?」
俺はゆっくりと、はっきりと言った。
「お前達の使う魔法ってやつで、人を生き返らせることができるか?」
今の俺が一番望むこと。それを実行できるのか?
それは俺にとってとても深い意味を持つ質問。それの答え次第で、これからの俺の言動を全て変えてしまうほどに。
俺は強い期待を込めて聞いた。
だが、その言葉を聞いた瞬間、白夜の表情が固まった。
「………びゃ、白夜?」
背筋に悪寒が走る。出会ってからずっと笑顔だったその少女の凍りつく顔は、俺の心臓を凍らせて止めてしまったような錯覚を覚えさせた。
横を歩いていた花梨も異変に気付き、立ち止まる。
「白夜ちゃん、どうしたの?」
花梨は俺と白夜の顔を交互に見て、そのまま黙る。
しばらく、俺と白夜が見合う状態が続く。
時間にすれば僅か二秒ほどの時間だったようだが、俺にはその数倍長く感じた。
まさか、白夜がそんな表情をするとは予想もしていなかった。俺は彼女がそれほど驚愕する質問をしたのか? 俺にとってはただの希望だったのに。
俺がそれを訊いたのは、他でもない。
すなわち、死んだ親を蘇らせることが出来るのかということ。
俺には、白夜の表情の意味が分からない。分からないが、どうやら何か越えてはいけない一線の様な物を越してしまったような気分になった。
そろそろ謝るべきだろうか。
俺がそんなことを思い出したとき、白夜はゆっくりと、笑顔に戻った。
だがその顔に多少影がかかっているのに俺は気付いた。
「……出来たらいいよね」
「え?」
「なんでもない。でも、今は無理」
白夜は言う。
どうして、と俺が口を開きかえると、遮るように白夜が続けた。
「陸の親を蘇らせたいのでしょう?」
俺が説明するまでもなく、白夜はあっさりと俺の心中を察した。少し俺は驚いた。
「……ああ、分かってたのか?」
白夜は頷く。少し悲しげな顔で、
「分からないわけないじゃない。陸はあの二人を伯父さんと伯母さんって呼んでるもの。実のお母さんを伯母さんなんて呼ぶわけが無い」
白夜は俺に一歩近づき、俺の顔と自分の顔を近づけた。
「……だから、きっと何か不幸があるって分かった。初めて家に行ったときから、それは分かってたのよ」
「………そうか」
「私だって人並みの観察眼は持ってるわ。他人の行動から、少しは推理できるもの」
その言葉を聞いて、俺は思った。
たしかに文学小説をひょうひょうと読む小娘だ。
不可能ではないかもしれない
もしかすると、俺より頭が良いかもしれない。なんて思ったりもした。
だが、まだ引っ掛る。
先ほどの、あの驚愕の表情は一体なんだったのか。
そこまで分かっているなら、さっきの質問は俺が死んだ両親を蘇らせたいという希望を乗せて放ったものだと分かったはずだ。
どうして、そこまで驚く必要があったのだろうか。
白夜は俺からすっとはなれると、にこっと笑っていった。
「でも忘れないで。あくまでも「今」は無理なだけ」
「え?」
「ふふっ、陸がナイトホークに協力してくれれば、もっと高度な魔法が発明されて、いつかは可能になるかも知れないわ」
白夜はそういって、また花梨に話しかけ、歩き出した。
花梨は呆然としていたが、話しかけられると、戸惑いながらも返事を返し始めた。
「陸!行くよ!」
俺は棒立ちでそこに突っ立っていたが、呼ばれた声で我に返り二人を見た。
少しモヤモヤする事はあったが、またひとつ新たな情報を得た。
もし、死んだ両親を取り戻せるなら。
昔見た親の顔が浮かぶ。
父さんと母さん。
あの二人が帰ってきたら、大地も美海もきっと喜んでくれるはず。
これなら、命を掛ける意味もあるかもしれない。
「待てよ、白夜!その、高度な魔法って具体的に――ぐえっ!!」
走り出した俺の横から突然何かが飛び出し、
俺の横っ腹に突撃した。
「ああ!陸!」
白夜が走り戻ってくるのが見えた。
「いてぇ……」
俺は痛む腹を押さえながら、自分にぶつかってきたものの方に目をやった。
「うーいてー………」
小さな子供だった。
小学校一年生がいいとこの身長。頭にはキャップを被り、深々としりもちをついていた。
「危ないじゃんか……大丈夫か?」
俺はゆっくりと手を差し伸べた。
「だ、大丈夫だよ……くそ、ついてないな、今日は!」
少年は俺の手を取って立ち上がりながら悪態をついた。
「何だ、随分と機嫌が悪そうだな」
俺は少年に向かっていった。
小学校一年生でここまで口が悪いものなんて初めて見た。最近のガキは皆こうなのか? 自分のことを棚にあげたことを素直に謝るごめんなさい。
「悪いなんてもんじゃないよ。かあちゃんには怒られるし、宿題はやって家に忘れちゃうし、兄ちゃんとぶつかるし……」
「はは、それだけだろ、深く考えるなよ」
「そうだよ。貴方はまだ元気がいっぱい有り余ってるでしょ?」
白夜が少年に言った。
少年は白夜を見ると目をぱちくりさせ、
「お前だってまだ僕と同じくらいじゃんか」
「私は中学生よ!」
やっぱりそのくらいに見えるのか。というか、制服で気付いてやれそこのボーイ。
俺は花梨に肩をすくめて見せた。
花梨は笑って、頷いた。
その時だった。
「ククク……」
「!?」
後ろに誰かの気配を感じ、俺は振り返った。
だが、そこには誰も居ない。
「……安倉くん?」
花梨が歩みよって、不安そうに声を掛けてきた。
「今、何か変な感じが……」
気のせいか? しかし、それにしちゃ……。
「陸? 一体どうし……うわぁ!!」
白夜の声に俺達は再度振り返る。
すると、
「なっ……!」
少年が黒いオーラに包まれていた。
いや、黒というより……。
「紫色、これは……」
「SAよ!」
白夜が叫んだ。
その瞬間、少年の周りからオーラが一気に拡大した。
「わわっ!」
「きゃあ!」
「くっ!」
俺達は抵抗するまでもなく、一瞬にしてSAに取り込まれた。
俺は後ろを見た。
SAの壁から、いつも見慣れた、けれど違う風景が次々生まれていく。
「くそ……」
前を見ると、少年は体から紫色の羽毛を大量に生やし始めた。
鳥にでも変化するのだろうか。
「また……この世界に…」
花梨が不安げに呟くのが聞こえた。
と同時に俺の体を白い粒子が包み込む。
白夜が俺にリンクしたのだ。
「……入隊二回目の戦闘よ! あと、さっきの質問だけど…」
「なんだ?」
結局、さっきは途中までしか言えなかったけど。
「私達の魔法力の源は、倒されたクリーチャーが変化した紫色の粉。もし貴方の両親を復活させたいなら」
白夜の声が途中で切れる。
「なら……何!?」
「なら、沢山クリーチャーを殺せっておねえちゃんが言ってた」
「………骨が折れるな、ほんっとうに」
俺は手を前に出し、落ちてきたP‐90を掴んだ。
腰には、勝手に予備弾倉が納められたマグポーチが装着された。
「頑張って、陸。それと花梨さんもね」
白夜が言った。俺は後ろに居る花梨を見た。
不安で表情が引きつっている。
俺は花梨の手を引き、言った。
「何とか守ってみせるよ。花梨の魔法ってやつ、実戦で詳しく見せてくれるか?」
花梨は目を丸くしたが、その後小さく、力無くだが、
確かに頷いた。
『ごぎゃぁぁああああああ!』
大きな叫び声に、花梨と俺が空を見上げた。
予想どうり、そこには大きな鳥、途方もなく巨大な翼を持つカラスが居た。
体は黒ではなく紫色で、翼が四本あること以外は普通の姿。
……よく考えると全然普通の姿じゃないけどな。
そのカラスは上側に生えた大きな翼一対を羽ばたき、空中に浮いていた。
「ど、どうするの?」
花梨が俺に訊ねる。
俺は旭に教えられたことを思い出しながら言った。
「発生源は間違いなくさっきの子だ。今はあのカラスになってるみたいだから、アイツを倒せばいいと思う」
実際、俺はあの時発生源を叩いていない。
最後に発生源を倒したのは旭だ。アイツはあの触手を「倒し方が分からない。だから人間ごと殺す」と言っていた。
今回はどうなんだろうか……。
「白夜、アイツは……」
『大丈夫、倒せるタイプ』
リンクしている間は心を読める白夜は、俺の質問がすべて終わる前に答えをくれた。
「そうか、ありがと」
『ただし!」
白夜がまた口を開いた。
「…何?」
『貫通性のある弾丸を使うのはお勧めできないよ。アイツの体は薄くて、簡単に内部のあの子に届いてしまうかも知れないから!」
「ってことは」
俺は持っている銃を見た。P-90。コイツは確か…。
「その銃はライフル弾を短くした弾丸を使用している。命中精度はいいから今すぐにでも落としてSAを閉じることも出来なくはないだろうけれど、下手に撃てば全部中の子供に当たっちゃうわ」
そうか……。
俺は空中のカラスを見た。
かなり高くまで上昇してやがる。
手元の銃では当てることさえ困難。狙撃銃を使えば貫通性のおかげで取り込まれた少年にも当たってしまう。
残された手は貫通性のない拳銃弾を使うサブマシンガンを使うことだが………。
「お前の力で空に上がる事は出来ないのか?」
俺は聞いた。
『無理。それが出来るのはおねえちゃんよ。あの人は私に出来ないうことばっかり出来るから』
白夜は若干悔しそうに言う。
ということは、SMGで戦うのも不可能だ。
圧倒的に命中精度、有効射程に欠けるからな。
「手詰まりだ……」
多分。、旭なら殺すんだろうな。
中の子供ごと。
『陸、どうする?』
「今考えてる」
俺は何か方法を探した。
いい攻撃法、いい攻撃法……。
俺がそれを考えている時、俺の肩に手が置かれた。
「え?」
俺は首だけで振り返る。
「私にやらせて」
花梨だった。
「私の魔法を見せてあげる」
俺は花梨の目を見て、頷いた。
「……どうするんです?あの人間……ああ、ナイトホークじゃないほうの……」
「持ち帰るんだよ」
「あのKS‐Dを使ってですか? 出来ますかね、あんな実験体に……」
「出来る。奴らに自然の力を思い知らせてやる。
人間こそが地球上の頂点などという愚か者にな……」
ぱらららららららら!
俺の両手に握られたP‐90が火を噴いた。
前から次々と小型の狼が襲いかかってくるのを、俺は弾幕で防いでいた。
『陸!頑張って!』
「言われなくても!」
空になった弾倉を手早くはずし、次の弾倉を叩きいれる。
装填作業を行うと、一番近くにいる狼を狙って引き金を引いた。
弾丸を喰らった狼は一瞬で紫色の灰と化し、空に向かって吸い込まれていく。
「あと3つ!」
残った三匹のうち二匹を撃ち抜き、最後に飛び掛ってきた一匹をストックで殴って倒した。ぐぎゃあ、という断末魔を残し、分散して空に吸い込まれていく。
「……クリア。いいよ花梨」
「ありがとう」
俺は塀の影に隠れていた花梨を呼ぶ。
場所は学校前の歩道。学校の校門前に居た狼達を全滅させたところだ。
「学校の屋上まで、あと何匹いるかな?」
『多分数十匹はいるわね。出来るだけ壁を背に戦ったほうがいいわ陸』
「了解」
先ほど、俺と花梨で立てた作戦はこうだ。
「……有効射程は、正確には分からないけれど300mくらいよ」
「300m?」
『なるほど……』
あのカラスだけを倒すために、俺達は花梨の魔法でトドメをさすことに決めた。
その射程を稼ぐためには……。
「……学校の屋上だな」
見える範囲で今回のSAに含まれているのは、おそらく発生源から周囲300mほど。その中で一番高い建物が学校だった。
そこからカラスに向かって攻撃を行い、それで落とせなかったら狙撃するしかない。これが俺達の結論だった。
「耳を塞げ」
俺は職員玄関のドアに向かってグレネードランチャーを撃った。
激しい爆発音と濃い砂煙がたち、それが晴れると見事に大穴が開いていた。
「行くぞ」
グレネードランチャーを白夜に返し、再びP‐90を手に持つと俺と花梨は学校内に入った。
「………いない」
「はい」
角から俺が頭をだし、周りを確認。安全であるなら先に進むという行動を繰り返す。
どうやら一階に敵は居ないようだ。って、
「……変じゃない?」
「……確かに思う」
奴らのことだから、ドアを吹っ飛ばした瞬間にでも飛び出してくるかと思ったのに。
『どこかで待ち構えているかもしれないわ』
白夜の注意を受けて、さらに警戒を強める。だが、あの狼どもにそんな脳があるのだろうか?
「上がってみよう」
「ええ」
考えていても仕方ない。俺たちは、階段をゆっくりと上がる。
踊り場まで来て、上の階の様子を伺うが、居ない。
そこには放課後の生徒や教師が帰ってしまったあとの教室と相違ない、静けさしか存在していない。
『やっぱりこの階にも気配がないよ』
白夜の声が耳に入る。そうか。
「だとすると、これ以上上の階にとどまっているか……」
「そうとも言い切れないかも知れないわ」
え?
俺は花梨の指差す先を見る。
「…あぁ」
「ね」
「そうだな」
爪痕。おそらくあの狼達のものだろう。
それが、壁や床などにうっすらと、しかし大量に残っている。おそらく、少し前まではいたのだ。この階に。
「……、何処へ消えたんだ?」
「さぁ、そこまでは分からないわ」
花梨が言う。爪痕は足跡ではない。それを根拠に何処へ向かったかまでは分からない。
それに、居ないならそれはそれで好都合だ。捜してまで倒す必要性はない。
それに、まだ上の階に行った可能性は捨てきれない。
『警戒しながら進んで』
「了解」
俺はP‐90を握りなおした。
「ここも、クリアか」
三階職員室。
屋上へ入るための鍵を手に入れるべく、俺らは職員室に来た。屋上への扉だけ、なぜか妙に頑丈な金属製。グレネードごときでは破壊できないだろう、そのため、どうしても鍵が必要だった。もちろん、ここにもバケモノの姿はなかった。やっぱり爪痕が残っているのだが。
『屋上に行くのがバレていて、そこに集結してるんじゃない?』
白夜が言った。その可能性は、かなり捨てきれないと思う。
しかし、一つ疑問がある。先ほどから俺がずっと考えていた。
「けど、誰がそんな指揮を執るんだ? 奴らの動きに統率性など皆無じゃないか」
屋上へ続くドアの鍵を手に取りながら俺が言う。
そうだ、前回俺が遭遇したときの経験から考えて、やつらにそれほど知能があるようには見えない。
ただ、獲物を追い掛け回すことしか考えてないようだったのだが…?
と、次の瞬間ハッと気がついた。
「……そういうことか」
『居るわ。統率を取る奴が』
俺と白夜の声がハモる。
その言葉を聞いて、花梨も納得したようだ。
「『ミニコト』」
『ゆっくりよ…?』
白夜の声を聞きながら、俺と花梨は屋上への階段を登っていた。
屋上のドアはもう見えている。ただし、前も行ったとおり、奴らには鼻と耳がある。慎重に進んで、先手を取られないようにしなくてはと、俺と花梨はしゃがみ、ゆっくりと登っていた。
『もう少し』
あと少しで手が最上段に届く。
よし。
心の中でそう呟く。
「バレていないと思ってんのか?それ」
「!?」
俺はとっさに後ろにいる花梨を抱きかかえ、踊り場に向かってとんだ。
「ひゃっ!?」
花梨が驚きの声を上げると同時に、俺達が居た辺りに紫色のレーザーが当たって、階段の一部が溶けた。
花梨も状況が分かったらしい。やっぱり居やがったか。
目の前にある、屋上への扉が消し飛んでいる。
そして、そこから人影がスッと現れた。
「その女を渡せ。ナイトホーク」
俺はその人影を睨んだ。
「……どうも、風紀委員長さん」
そこに居たのは、図書室で見たあの男。
「なるほど、君達があそこに居たのは偶然ではなかったのか」
風紀委員長、高倉海太がそこにいた。
「た、たかくら……!」
その姿を認識すると、花梨は急に俺に抱きついてきた。
「ど、どうした!?」
俺は花梨と高倉の間に庇うように立ち、P‐90を構えた。
「やぁ、花梨。久しぶり」
「……馴れ馴れしくしないで!」
花梨が叫ぶ。
「お、おい。どうしたんだよ?」
目線は高倉から外さないまま、俺は花梨に問いかける。
「貴様は知らなくていい」
高倉は嘲るような笑みを浮かべ、
「もう一度言う、その女を渡せ」
言った。
俺はちらりと背後の花梨を見た。
「……陸くん…」
俺を見上げる花梨。
その表情は彼女がどれだけ恐怖を感じているかを物語っている。
答えは、ひとつだ。
高倉に向き直る。
「嫌だな。どうやらアンタはミニコトって奴で、俺はその敵対勢力ナイトホークらしいし」
「ふ、貴様も愚かな奴だ。あんな人類至高主義者の何処が良いのだ?」
俺は疑問に思った。
「人類至高主義?」
「……知らないのか……やはりナイトホークは愚かだ。おそらくミニコトの強行性だけを説明して、あたかもこちらだけが悪役だと思わせているのだろう」
高倉は呆れるように首を振った。
「……どういうことだ」
「お前が所属しているナイトホークというのは、我々と反対の至高を持つ、同じ強行勢力だということだ」
高倉は続ける。
「ミニコトは自然のために人間を滅ぼす。が、ナイトホークも同じだ。ただ、人間のために自然を滅ぼすという、対象が違うだけだ」
『違うわ!滅ぼすわけがない!人間も自然の一部なのよ!それを壊したら人も滅んで、地球すらも滅んでしまう!』
白夜の声が響いた。高倉はそれを鼻で笑った。
「当たり前だ。だからお前達は人に役に立つ生物だけを選りすぐり、そいつらだけを残して他を抹消する気で居る」
「な……何?」
俺は耳を疑った。
ナイトホークが人をトップとして見ているというのは白夜から聞いた。
だが、人類に得のない生物をすべて滅ぼす?
「嘘だとは言わせないぞ白き精霊よ!お前達は同胞にすら自らの姿を明かさない愚か者たちの集まりだ!そんな愚者が選んだ生物のみしか居ない世界など要らん!そもそも人類などという無駄に進化した生物が生まれてしまったことがすべての元凶!動物達に罪はない。罪を持つのは人間だ。愚かにも自らを地球の頂点に立つ生物であると勘違いし、この地球を好きに改造する! この奇跡の星を、ただ一種だけの生物が支配していいはずがない!」
高倉は叫んだ。
「だから我々は人間を滅ぼす」
右手が俺に向けられた。
手に平に紫色の光が集まった。
「ッ!」
俺はP‐90を高倉に向け、狙いを定めた。
だが……。
引き金に力が入らない。
「サイコへリオスタット!」
『陸!』
俺はP‐90を放り出して、花梨を抱えた。
そして、高倉の手から光が放たれるタイミングを見計らい、
「おらあ!」
高倉の足の下をくぐって、屋上へ飛び出した。
「逃がさん!」
高倉はすぐさま反応し、俺達の方へ腕を向ける。
「サイコへリオ…!」
高倉が俺達に向けて再び言葉を唱えようとした時、
「レクセルメリン!」
花梨が指をふって言葉を発した。
彼女の指先から黄色い光が飛び出し、高倉の体を吹っ飛ばした。
「ぬおっ!」
ガンッという大きな音がして、高倉は屋上脇のフェンスへ叩きつけられた。
「助かったよ花梨」
「……お互い様。まだ全然借りは返してないから…」
少し怯えるような、それでいてきりっとした表情で高倉のほうだけを睨む花梨。
「おのれ……」
高倉がゆっくりと立ち上がった。
「…安倉くん、撃てる?」
「………やるしかないんだろ?」
俺は手を前に出す。現れたのはサブマシンガン、MP5。
アメリカ警察のSWATも使用した。信頼性の高いサブマシンガンだ。
……ってそんな事はどうでもいいんだ。今は、アイツを倒すことだけを考える。
……人を狙って撃つということ、それはつまり人を殺すということ…。
だが、やらなければ、俺がやられるんだ。
「喰らえ!」
俺は高倉に狙いを定め、
―やるしかない―
自分に言い聞かせて引き金を引き絞った。
ぱぱぱぱぱぱぱぱっという乾いた発砲音が連続で鳴り、放たれた9mm弾丸が高倉へと音速で飛んでいく。
「ふん、ミニコトの力を忘れたか?」
高倉がにやりと笑った。それは旭の専売特許だ。お前がつかうな。
すると、高倉が黒い影で見えなくなった。
「!」
目の前に居たのは、巨大な……。
「サイ!?」
『SI‐X!』
俺と白夜が叫んだ。
花梨は生唾を飲み込む。
放たれた9mm弾丸はサイの体に当たって……。
カラン、カラン……。
その場で下に落ちた。
サイの体には、傷ひとつ無い。
「ば、馬鹿な……」
いくら威力の低い9mmと言っても、傷が出来ないなんて……。
普通に考えると、普通の鉄板よりも圧倒的に硬い甲殻ってことだ。
……銃が通じるのか?
俺はライオンの姿を頭に浮かべた。やつも、銃弾が効かないようなもんだったな。
「ボケッとしている暇は無いぞ?」
「!?」
右に高倉が現れた。ワープでもしたかのようにふわりと、突然。
そしてその手には、紫色の光。
「花梨!危ない!」
俺は叫びながら身を翻す。
だが、花梨は精霊とリンクしていない。
魔法は使えるが、それ以外は一般人だ。
当然反応できるはずもなく、
右腕に、レーザーを受けた。
「うあああっ!」
「花梨!」
花梨が地面に倒れた。
俺は立ち上がって花梨の元に向かう。
「……やはりただの人間か」
高倉が嘲る。
「人間は弱い。弱いな」
「……何がだよ」
俺は高倉を睨みながら言った。
花梨を抱き起こし、右腕を見る。
肩から二の腕辺りがひどい火傷のように、赤くなっていた。コレが魔法のダメージ…。
「そのままの意味だよ。人は知能がなければ、あらかじめ考えておいた策が失敗に終わってしまえば、何も出来ない愚か者ということだ」
高倉が両手を広げて空をさした。
「だが、それに比べてみたまえ、あの空に飛ぶ大カラス。そしてこのサイ。どれも人の『科学力』に対抗するために動物がもともと持つ能力を強化したものだ」
俺は空を見上げる。
カラスが旋回飛行をしていた。それほど遠くない高さだ。
「……人類はこの星に生きる生物の為、身を引くべきなのだ」
高倉がゆっくりと俺に近づいてくる。
そして、
「君もこちらに来ないか?」
挑戦的な目で、俺に手を差し伸べた。
俺はその目を睨み返す。
「……何のつもりだ」
高倉は、くくくと笑った。
「そのままの意味だ。君は良い同志になれる。戦闘力も素晴らしい。はっきり言って、良い意味で期待を裏切ってくれたよ」
高倉は続ける
「どうかね?悪い提案じゃないと思うんだが。人類至高主義の奴らなぞに属す理由が君にあるのか?」
俺は押し黙り、相手の言葉を聞く。
「我々と共に来い。そして、この地球を動物達の楽園としよう。我々は地球を救った者として、小さな島で生きるのだ。君が望むのなら、また別の人間を迎え入れてもいい」
高倉は俺にそう告げる。
「どうだ?悪くない提案だと思うのだが?」
「そうかもしれないな。だったら俺は全人類を別の人間として受け入れてもらうが?」
俺は花梨を抱きかかえて立ち上がりながら言った。
高倉が眉間にしわを寄せる。
「それでは解決にならんだろう」
「解決する必要があるのか?」
「何?」
俺は睨みを外さぬまま言う。
「さっきの話が本当なら、俺にナイトホークに居る意味は無い。だが、ミニコトに入る理由もない」
俺ははっきりと言った。
「両方とも的を得ていないと思う」
「……ほう?」
馬鹿にしたように賛同の言葉を発する高倉。
「ならばどうする? ナイトホークを抜け、普通の人として過ごし、知らぬ間に世界が変わるのを待つか?」
高倉が嫌味たっぷりに言う。
俺は首を横に振った。
そして、言う。
「もうひとつ別のグループを作ってみるかな? 賛同してくる人は、きっといるだろうしな」
一発の銃声が響いた。
「!?」
高倉が身を翻す。だが、銃声は彼を狙ったものではなかった。
一呼吸、置いて。
彼の真横に立っていたサイの頭が消しとんだ。頭部に装着されていた装甲とも言える表皮と表皮の隙間。つまりは間接の部分への、遠距離からの狙撃。
そんなことが出来るやつが近場にいるとすれば、あいつしかいない。
………やっぱり居たか。少し遅いぞ。
だがまぁ、ピンチには駆けつける我らが隊長っていうのは口だけじゃないらしい。
「………入隊二回目にしてはなかなかの戦果だな」
俺は屋上から校庭の方を見た。
「どうも、隊長殿」
島田旭が、SVDを構えて立っていた。
「貴様…いつからそこに居た…」
高倉は旭に向かっていった。
「つい、さっき」
旭はゆっくりと構えを解き、ベルトでSVDを背負った。
そして左右の足に装着されているホルスターからMK23を抜くと、にやりと笑った。
「お前が余計なことをしてくれたおかげで、俺まで戦う羽目になっちまったぜ高倉」
「……」
お互いに睨み付け合う二人。
「……完全に蚊帳の外か…」
俺は花梨の様子をみた。目を閉じたまま、ピクリとも動く気配は無いが、呼吸だけはしている。
「…陸!」
校庭からの声。
「……防衛目標は無事だろうな?」
「え、あ、ああ」
慌ててそう返す。旭の声は、初めて会った時の怖い奴に戻っていた。
だが、ぶっちゃけ、無事とはいいがたい状況だ。
「……何がああ、だよ」
「!」
だから次の瞬間、旭が横に居た時は驚いたものだ。
「完全に伸びてるだろ、これ」
「これって……」
「情けねぇな、陸」
旭は彼女の額に手をあて、それからゆっくりと立ち上がった。
「高倉、お前がやったのか?」
「……敵を撃つのは当然では無いだろうか?」
高倉は再びニヤリと笑った。
「ふん、元カノにも容赦なし、か。相変わらずミニコトは酷い奴らの集まりだ」
も、元カノ?
花梨を見る。
「ああ、陸。そうだ。目の前のクズは、自分の目的のためだけにその女を弄んだ最低野郎だ。まったく下衆にもほどがあるぜ。女性って言うのは優しく丁寧に愛でるべき存在なのにな。男として、人間として終ってやがる」
高倉は黙って、旭を睨み続ける。俺は旭のその意見に、半分だけ賛同した。
「前々から殺してやろうと思ってたんだ。高倉海太。貴様だけはどうも許せないからな」
旭が銃を高倉に向けた。自動小銃などの白兵戦武器に対応するために特別な改造を施されたMK23。ただの2発程度で人間一人を殺せる威力。そんなものを躊躇いも無く人間に向ける。同じ学校の生徒に、向ける。
やはり、場慣れしているんだな。何人殺してきたんだろうか。
「……愚かしい」
高倉はふんと、鼻で笑った。
「貴様らはわかって無いな? ミニコトがやろうとしていることの偉大さが。自分達ナイトホークだけが正しいと勘違いしているんだ」
旭が眉を顰めたのが見えた。
「そんな奴には俺は倒せない」
高倉の右手に紫色のオーラが表れる。
「……陸」
旭がこっちを向いていった。
「…何」
俺は右手を前に出し、上から落ちてきたハンドガンを握った。
グロック18という銃だ。ハンドガンといえど、全自動射撃が出来る。花梨を庇いながらなら、動きやすい拳銃のほうがいい。
「さっきの話だが」
「さっき……?」
旭が俺の目を見る。
「もうひとつ別のグループを作る」
「……」
「人類至高主義と、自然急進保護。この二つの合間に現れる新たな団体としたら、それは何を意味するんだ?」
「……なんだよそれ」
「…お前が言ったんだろ? お前が作るといったグループ。最終目的はなんだ?」
旭はじっと俺を見たままいう。
俺は少し考え、言った。
「現状維持主義」
「面白いな」
旭は前を向いてしまった。
「え、それだけ?」
「今は奴を倒すのが鮮血」
先決だろ?
「後でゆっくり話そうぜ」
「サイコへリオスタット!」
高倉の声が響き、目の前から紫色のレーザーが迫ってきた。
「散れ!」
「了解!」
俺と旭は逆の方向へ飛んだ。
「ええい、ちょこまかと!」
高倉は俺の方を向いた。
「サイコヘリオスタット!」
紫色のレーザーが俺の脚を掠める。
レーザーがとおりすぎたのを確認してから、俺は高倉にグロックを向ける。
「ふ、」
高倉は小さく笑い手を上に振り上げた。
俺は引き金を引ききる。
手の中で小さな反動が生まれ、弾丸が連続射出される。
しかし、高倉の目の前で盛り上がった地面に弾丸はぶつかり、小さなヒビを作っただけだった。
「ち!」
「甘い、甘いな!」
自分が出した壁を蹴りで破壊し、高倉は俺に向かって飛び掛ってきた。
弾倉を交換し、再び銃を向けるが、間に合わない。
「喰らえ、サイコへリオs……」
その瞬間高倉の体が横に吹っ飛んだ。
旭が、真横から飛び膝蹴りを喰らわせたらしい。バキっという音と共に高倉はフェンスに叩きつけられ、力なく地面に倒れた。
「動きが未熟。装弾の少ない武器で調子に乗ってフルオートで撃つな。3、2くらいで切るのがセオリーだろうが」
「……すまん」
こっちを見て、旭が言う。
その顔は、何時だか見た怖い旭そのものだった。
「くっ」
高倉がゆっくりと立ち上がり、こちらへ歩いてくる。
「そろそろ終わりたいんじゃないか? こっちとしてはお前はもう用無しなんだよな」
旭は冷静にそういうと、高倉のほうへ銃を向ける。
「動くな止まれ」
ぱぱぱぱん
ハンドガンとは思えないほどリズミカルに、そして尚且つ高速な連射音が聞こえた。
高倉の体の四箇所から、赤い血が飛び出した。
「ぐっ…」
高倉がその場にへたり込む。
「し、島田……」
「悪いが、あそこの新入りに対して有利に戦えたからと調子に乗らないことだ。俺がナイトホークの普遍的な戦闘員なんだ」
「粋がるなぁッ!!」
高倉がしゃがみから半ばはじけ飛ぶように旭に襲いかかった。
だが、もはやそれは攻撃の体すら為していない。
「…弱い」
旭が右手を振るようにして高倉を突き飛ばす、その手にはいつの間にかナイフが握られていた。
「かはッ…」
地面に仰向けに落ちて、口から血反吐をはく高倉。切られたのは、首。血の出方が尋常じゃない。
「死ね。前々からずっとおめーに対して思ってた言葉だ。受けとんな」
「……私が死んでも貴様に未来はない」
高倉の顔は白かったが、もはや恐怖の色ではなかった。 勝ち誇ったような、俺達を小馬鹿にするような目で、旭と俺を、そして花梨を睨んでいる。
「人は滅びるべきなのだ。自然に生きることを止めた生命体に生きるという言葉を当てはめてはいけないッ!!」
「黙れ。この世に生を受けたなら自らの種のことを考えて生きればいいんだよ。……大自然におせっかい焼いてんじゃねぇぞ。何様だ貴様は」
「俺は、いや、俺達は自然をあるべき姿に戻す! それがミニコ…」
ぱん。
軽い発砲音が一発、空に響いた。
旭の左手に握られた拳銃から打ち出された45口径の弾丸は狙いたがわず高倉の口から上あごを突き破り、脳幹まで達する。その間に、一人の人間の命を奪い、生命体を死体に変えた。
「……旭」
「あいつに余計なことを告げられたな」
「……」
旭は俺を見て言う。
余計なこと、だと?
「何を言われた?」
俺は、銃の弾倉を交換してホルスターに戻していた旭に声をかける。
「全部、聞いたぞ」
「……そんなこったろーと思った」
旭は俺の横にずかりと座った。
「…文句でも垂れる気か? だが、聴く耳は持たないぞ。俺は俺に利益のあることしか話さないし、利益のあることしか聞きたくないんだ」
「じゃあ俺はお前の横で勝手にしゃべる」
俺は旭の顔から目線を逸らさずに言う。
「単刀直入に行くぞ? お前、俺を騙しやがったな」
花梨を地面に寝かせ(ちょっと可哀相だけど)旭の前に立つ。
「いいや」
「騙した」
「騙してない」
「騙しただろうが!」
俺は旭の前髪を片手で掴んだ。そのままぐいと押し、顔を上に、俺に向かせる。
「……離せよ」
「どういうつもりだよ。俺は人以外の生命を滅亡させる気なんてない。いつの間にそんな宗教染みた団体に入れられていたんだ俺は!」
キレたとか、そういうんじゃない。別に俺は自分が生きられればそれでいいし、こっちに属していれば、いずれは両親を復活できるかも知れないという可能性も手に入れた。そういう面では感謝することもある。
が。
俺は、なんだかんだコイツを信用していたのに。
騙した。それだけで、何か腹の中の黒いものが煮え返って仕方なかった。
「いい表現だな。宗教か。ふん、間違っちゃいないよ」
旭が余裕で返す。俺に喧嘩腰に怒鳴られても、別段、驚くこともひるむことも無い。
まるで、そうなることを予想していたように。
それが、無性に俺のイラつきを強化する。
「なぁ、お前の怒りは大体わかる。まぁ、おそらくは騙された、っていうことだけに対してキレてるんだろうなってことも」
ほう。
「そこまで分かってて、随分と平然としてんじゃんか」
『陸、やめてっ!』
「お前は黙ってろ!」
白夜に対しても強くあたってしまった。だが、下手をすればこのチビもグルなのか?
「何がしたかったんだお前は」
旭は、その言葉に反応した。目線が一気に鋭く変わる。
そして、呟くように話した。
「まだ話すべきときじゃないと思っていたんだが、どうやら失敗だったか」
「あ?」
「知らないほうが良かったのにな。そうすりゃ仲良しこよしだったのに」
「………」
「誤解するなよ陸。俺はお前を騙し続ける気は無かった。全ての種は明かすつもりだったし、これからも状況をみて少しづつ話していくつもりでもある」
これから?
「まだ何か隠していることがあるって言うのか?」
だとするなら、それは俺を馬鹿にしてやがる。
嘘をつかれるのは嫌いなんだ。
「隠しているというのは正しい表現じゃないな。正確にはまだわからないことだ」
「何?」
手にこもった力が緩む。
「これからのお前次第とだけ言っておく。ナイトホークの実態について隠していたのは、お前をだますつもりだったわけじゃない。お前はさっき宗教じみた団体って言ったな」
強引に、頭を掴んでいた腕を離させられた。旭の腕力はとんでもない。
俺は目線を外さないように旭を睨み続ける。
「言ったが?」
「それは、お前がナイトホークの本性について思った感情で間違いあるまい?」
「…あぁ」
自然を守るために人を滅するのは間違いだ。だからといって、人のために自然を滅するのも間違いにきまってる。
「イカレてるよ。どっちも」
そう、普通に思った。誰だってそうだろう? なんでどっちにも味方する人間がいるんだよ。
「俺も、同じ」
「は?」
「俺も、そう思っている」
旭が、そう呟いた。
「何、言ってやがる」
お前はナイトホークの全てを知っていて、それに対して反抗的だと?
じゃあ何故、何故味方するんだ。
「確かに一度入ったら抜けられない法則は分かるが、お前は総司令の命令を伝えるための人の家に不法侵入したり、新入りの俺に色々と語ったりしてる。それに実態を話さなかったのは俺がナイトホークから抜けるのを抑えるためだろうが! 違うか!?」
俺は叫んだ。俺の怒りとか、憤りを消すためにまた嘘をつくのか。
「嘘じゃねえよ。俺もイカレだと思ってる、本当にそうなのさ」
「じゃあ何故!」
叫んだ、さっぱり訳がわからんぞ。
旭は、ニヤリと、笑って。
「簡潔に言ってやろう。お前を手に入れるためだ」
そう一言、呟いた。