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軌道エレベーター

作者: 尚文産商堂

「第3宇宙ステーション行き、間もなく発車します」

駅の放送のように、言葉が耳に入りだすと、いよいよかとワクワクし始めた。

宇宙エレベーターができてから半月ほどしかたっていない。

いまだにホットな話題として、ニュースじゃ騒いでいる。

昔も、有名なモニュメントや建造物ができるたびに、似たような騒ぎだったという。

「皆様、シートベルトを着用してください。まもなく、発車いたします」

放送とともに、ドアが閉められる。

機内にいるのは、壁際に作られた椅子に座っている8人ほどだけだ。

機内放送は、別のところにある管制室から行われているらしい。

部屋のどこかにあるはずのスピーカーを通して聞こえている。

「本日は、国立宇宙研究機構所管宇宙エレベーターをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。8時間ほどを予定しております。なお、以後1時間ほどは順次加速を行い、6時間は無重量体験が行うことができます。その際は、放送をいたしますので、それまでのあいだはシートベルトを外さないように、お願いします。お手洗いは、入り口と反対側のドアに、男女兼用としてございます」

案内された先には、天井まで届くような形で柱上に作られた個室だ。

天井側とこちらがわの2か所に、なぜか入口が作られている。

「それでは、快適な旅を、お楽しみください」

放送が終わると、シートベルトがすこしきつめにロックされた。

差し込まれていない所には、個別に警告放送がかかっているようで、俺のところには聞こえない。

座席の後ろ側にある個別スピーカーを使っているのだろうが、俺のところに声がかからないところをみると、別に問題はないようだ。


それから30秒が経つと、飛行機のような急激な下方向への衝撃を感じた。

視えない手に押しつけられているような感じと言えば、よく分かるだろう。

それがしばらく続いた。

どれだけかははっきりとは分からないが、その勢いは徐々に薄れた。

その時、からだがフワと浮かびそうになる。

シートベルトをつけていなければ、飛んで行ってしまいそうな感じだ。

「定常運転に入ります。これよりしばらくの間は無重量状態が続きますので、その間はシートベルトを外していただいて、空中散歩をお楽しみください」

放送が終わると、壁が消えた。

外にある1本の線を除いて、ほとんど止まっているかのように見える。

その線こそが、軌道エレベーターを、地上と第3宇宙ステーションを結んでいるダブルカーボンナノチューブだ。

目に見えるほどの巨大な鉛筆の芯のようなものであるが、中の芯は超硬度ナノチューブを使用しているため、強度もある。

自重に耐えられるように、常に一定の張力が発生するように設計されている。

このために、最適な位置に第3宇宙ステーションは存在する。

その線が、超高速で移動してるような気はするが、どこまでいっても同質な材料で作られているため、滑らかな線として、壁から見えるだけだ。

それ以外は、地球が眼下に見える。

昔の人が、地球は青かったといったが、確かにそうだ。

実に美しい、太陽系唯一の星である地球。

俺は、日夜そんなところで生活をしていたのかと、感慨深くなる。

ほかの人たちも似たような感じで、足元をぼんやりとした顔つきで見続けていた。

涙を自然と流す人もいた。


1時間ほど、空を浮かんでいると、急にトイレに行きたくなった。

無重量状態で壁伝いに移動をして、トイレに向かう。

扉が天井と床の両方にある理由は、どうやらこのためらしい。

俺は近いほうの扉に向かった。

天井のほうだ。

中は、掃除機のようなものが壁から生えていた。

それにしろという説明が、壁に貼られている。

説明通りにすると、バキュームとなっているようだ。

周りに飛び散ることなしに、どんどんと吸い込んでくれた。


トイレから出ると、あいかわらず目の前には地球が、黒い空間に浮かんでいた。

全員がシートベルトを外している今、誰も椅子に座っていない。

この空中散歩を、ゆっくりと楽しんでいる。

まるで鳥になって、宇宙を飛んでいるような気分だ。

地球とは逆の位置には、月と人工的な建造物がはっきりと見える。

この人工物こそが、第3宇宙ステーションだ。

日本皇国が単独で作った第3宇宙ステーションには、ここからラグランジュポイントの宇宙ステーションと月の基地に向かう定期便が毎日3便出航している。

第3宇宙ステーションには、約50人が常駐しており、さらに1日600人程度の旅行客などが一時滞在をしている。

俺も一時滞在の部類で、そこから月にいる親類に会いに行く。

一応、第3宇宙ステーションに来てくれるという約束ではあるが、どれだけ広いのかが分からないから、とりあえず到着ロビーのところで待っているということだった。


「まもなく減速します」

その台詞で俺は椅子に座ることにした。

座る場所は、出発地点とは面対称になるように、さきほどの天井だ。

どうしてかというと、宇宙ステーションに到着する際には、上下がさかさまになるためだ。

シートベルトをしっかりと固定したのを確認していると、さらに放送が続く。

「第3宇宙ステーションは、21時09分。なお、日本皇国中央標準時に、設定されております。現地気温は26.5度、到着地は第5区画です」

まるで飛行機のようなアナウンスが流れると、頭の方向に引っ張られる感覚がはっきりと伝わる。

減速し始めたのだ。


1時間もすると、停止する。

「本日は、第3宇宙ステーション軌道エレベータをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。またのご利用を、お待ちしております……」

そして、ゆっくりとしたスピードで速度が落ちていき、完全に静止した。

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