永遠の別離という結末 五話
「何かに使え。」親父が通帳を差し出した。
「え・・・?」俺の名前の通帳だった。
「これからいるだろ?」
「そうだけど…でもこれから大変なのに……いいのか?」
「おまえのためにっていうか
自分自身の後悔っていうか…少しづつためていたんだ。
何もしてやらんかったのに金だけためてな。
どんだけできの悪い父親なんだか…
言葉をかけるより金を出す方が楽だったんだな。」
「だって…かなり入ってるよ…」
「俺からの懺悔だと思って…受け取ってくれ。
家も保険もみんなおまえのもんだ。」
「あれ静江さんは・・・・?」
「おまえのかあちゃんと同じで出て行ったわ……」
「マジに?」
親父が悲しそうに見えた。
「女もさ…もっと言葉がほしいもんなんだな。
俺はそういうこといわねータイプだからさ…
まぁ・・・身から出た錆ってやつだ。
これからは いいおじいちゃんになって…孫が
全てになるから…楽しみだな……」
午前中から飲んでた親父は昼すぎに
「少しねてくる…」そう言って部屋を出て行った。
携帯が鳴った。
「あれ…?」職場からの電話だった。
俺は休みだったけれど どうしても人がいなくて
早朝ニ時間だけ出てほしいと店長から 頼まれた。
店の近くに越した俺は けっこうこうやって緊急に出されるけど
これから俺は 家族を持って 仕事をしていくうえで
ここんとこはちゃんとやっておきたいそう思っていた。
ニ時間か……
スーパーは二十四時間だから……
こういうことはよく起きるんだ。
明日は 日曜日で…俺と千夏は四時に待ち合わせをしていた。
その時間なら親もまだ寝ているということだったから。
仕事は七時には終わるから…それから汽車に乗って…
八時……八時なら…なんとか……
しかし連絡することができない。
恵美の幼稚園がこの近くだと言っていた。
俺は雪の中をメモを持って走り出した。
恵美に託すしかない・・・・・。
実家から15分走ったところの教会の敷地に園があった。
「どうか…まだいますように…」
教会に近づくと子供の声が大きくなった。
俺はそのかたまりの中で恵美を見つけた。
ちょうど園バスが敷地に入ってきて団体が園から出てきた。
恵美はその団体から 吸い寄せられるように飛び出してきた・
「おにーちゃ~~~ん!!」
恵美がはしりだして俺の目のまえでニッコリ笑った。
「これを・・・おねえちゃんに渡してくれる?
絶対に渡してね。」俺は恵美のぷよぷよした手に癒された。
「わかったよ~~。ん~~っと」
そのメモを連絡帳にはさめて
「あんね…もうめぐ漢字も少しよめるんだよ。
すごいでしょ? 偉いでしょ?」
俺は得意げな恵美の頭を優しくなぜた。
「めぐちゃん!!何してるの!!」先生が血相を変えて走ってきた。
「やばい…必ず千夏に渡してね。」
先生は俺をにらみつけた。
「なんですか?変なことするなら警察呼びますよ。」
俺は慌ててその場から立ち去った。
恵美の後ろ姿を見ながら なぜか不安だった……。
先生が恵美を抱き上げてバスに乗り込んだ。
恵美…頼むぞ……
消えて行くバスにそう願った。