恋の試練 九話
「あ…そうだ…」
千夏は ビニール袋を取り出して
「この間 読んでみたいって言ってたでしょ。
貸してあげるよ。」
読書好きの千夏が最近感動したと 興奮して教えてくれた
ちょっと分厚い本を俺に差し出した。
「うわ……すげー字が…ちっこい~」
「面白いから絶対に読んでね。
こんたの感想も聞きたいから」
「ちょっと時間かかるけどいいのか?」
「いいよ~」
「サンキュー」俺はカバンに本をしまった。
「じゃあ…行くね…」
心臓をおさえて二人で笑いあった。
門から入ると 恵美が走ってきた。
慌てて千夏が 恵美を抱き上げ
「あとで遊んであげるから おにいちゃんのこと知らないフリしてね。」
一瞬俺に微笑みかけて 恵美は顔がとまった。
「めぐ~~~!!」雪山の陰から 現れたのは体の大きな目のキツイ男の人で
千夏のおとうさんだ
目元がそっくりだ……キツさは千夏にも恵美にもないけど……
顔が一瞬にして気むずかしそうな表情に変わった。
「あ…パパ…あの…溝端 陽之介くんで……」
「千夏さんとおつきあいさせていただいてます。
溝端といいます。」
体中の震えが止まらない…、
その間も厳しい視線が俺に突き刺さった。
「何の用だ?これから出かけるぞ。
おまえも用意しなさい。」 厳しい口調で千夏に言った。
「え?聞いてないし・・・せっかく来てくれたのに…
ちょっと話をきいてほしいんだけど。」
「事前のアポもなくそんなこと言われたって 挨拶に来たって?
うちは認めないよ。千夏には俺たちがいいと思った男と一緒にさせる。
おまえ…隠れてまだ付き合っていたのか?」
千夏を怒鳴りつけた。
「ちょっと!!何も話聞かないで やめてよ、失礼でしょ。」
「悪いね、付き合ってるんなら手を引いてもらえるかい?
きみは千夏にはふさわしくないよ。わかるかな?
千夏がきみと付き合っているのを知って
いろいろ調べさせてもらったんだ。」
俺はあまりにはっきり拒絶されて言葉を失った。
恵美が大きな目をして心配そうに俺を見つめている。
「私の人生でしょ?どうして私の好きな人と一緒にいたらいけないの?」
「おまえと付き合う男は もしかしたらいずれ
この会社をまかすことになるかもしれない人間になる。
悪いけど…きみでは無理だろう。」
「そんなの知らないわよ、なんならめぐだっていいじゃん。
私は絶対こんたじゃなきゃいやなの!!」
ヒステリックに千夏が叫んだ。