恋の試練 七話
千夏の推薦合格が決まった。
俺は居間でテレビを見ていた親父に緊張しながら声をかけた。
「ちょっといいか…話があるんだけど…」
そばでタバコを吸っていた女が立ち上がって
台所に行った。
俺は親父の前に座って正座した。
「何だ?」親父はギロッと俺を見た。
まだこの目で睨まれると 俺は手が飛んでくるんじゃないかと
かまえてしまう。
「あ…あのさ…俺 一人暮らししたいんだけど…
高校卒業まであと一年あるけど…来年早々に…
仕事場の近くに引っ越したいんだ。」
「学校はどうすんだ?」
「…やめてもいいと思ってる。」
「おまえ成績いいって先生から電話もらったぞ。
国立目指せるって だからおとうさんの意見聞かせてくれって…
俺はおまえにしてやれることは あとは大学を出してやることくらいしかない…
おまえには…つらい思い…させてきたから…よ…」
は???今…なんて言った?
「悪かったな…親父として何もしてやらんのに
おまえにあたりちらしてごまかしてきた……。
愛情のかけ方がわからんかった。
言うこと聞かないと 躾ないとと思った。」
親父は今 俺に謝罪してるのか・・・?
「俺には 親がいなかったからな……。
捨て子だったんだ。 寺の前に捨てられてたって・・・・
もう少し遅かったら死んでいたらしい…。
死んでもよかったんだけどな 生きてしまったばかりに
親を恨み 社会を憎み……そんな俺が親になったのをまた憎んだ。
おまえには関係ないのにな……
やめなきゃ…優しくしなきゃって思えば思うだけ…
おまえに辛くあたってしまった……すまなかったな……。
もうおまえも一人立ちするなら…俺はなんも言わないから…
おまえの思うとおりにしろ。」
思いがけない親父の言葉に俺は動揺していた。
「あ…あの…」俺は言葉を探す。
「保証人か?いいぞ。金がいるなら出世払いでも…いいぞ。」親父はあっさりと言った。
親父の様子にペースが狂ってしまった。
「あのさ…俺さ……あ……」
「なんだ?早く言えよ。」
「結婚したい人がいるんだ。」
親父の顔が止まった。
「ごめん…驚かせて…子供が生まれるんだ……。」
親父はもっていたコップを落とした。
せっかく親父とわかりあえる瞬間だったのに…
俺もついていないなと 第三者的に見てる俺がいる………。