恋の試練 五話
「に・・・・に・・・」
さすがの俺も動揺していた。
千夏は俺を見上げて 今にも泣き出しそうになっていた。
「ごめん…こんなこと言っていいのか…わかんないけど・・・」
俺の言葉に 今にも涙がこぼれそうな千夏の大きな目がキレイでじっと見つめていた。
「俺…喜んでいい?めっちゃ…嬉しいんだけど……」
千夏の目からポロポロと大粒の真珠が落ちた。
「ホント?喜んでくれるの?」
「あたりまえだろ~俺となっちが愛し合ってここにできた
命だろう?喜ぶに決まってんだろう?
なっちはどうだった?」俺は急に心配になって聞き返した。
「うれしいに決まってる~~」
人目をはばからず俺たちは抱き合った。
俺は千夏を高く抱き上げて そして抱きしめた。
「あ・・・子供が苦しがったら困るから…」少し力を緩めたら
千夏が笑った。
「うれしい~~」
その日 俺はまだぺったんこの 千夏のお腹にキスをして
「パパですよ~」と声をかけた。
俺は絶対に自分の子供を愛して愛して 大事にするんだ。
そして愛する人といつまでも一緒に生きていく……。
夢からさめて現実に戻ると急に 怖くなった。
「千夏の親に…なんて言おうか……」
「きっと今言ったら おろしなさいって言われるもん……。
だからギリギリまで絶対に言わない……。
大学生になって結婚してる人だってたくさんいるし
絶対ばれないようにする。」
俺は急に申し訳ない気持ちになった。
「ごめん…一人で辛い思いさせて……
俺も一生懸命働くよ。」
「病院はまだ行ってないけど 検査薬では陽性だったから
来年の6月には生れるわ。」
「6月か~~なんかすぐだな~~。
それまで三人で暮らせるように頑張らないと・・・・。
とりあえず千夏は大学に行く準備をして…なんとか
見つからないように……やっぱり俺じゃ反対されるよな…」
千夏だけに辛い思いをさせる気がして
申し訳ない気持ちで一杯になった。
「大丈夫。うち…ママだもん…。
絶対 ぎりぎりまでばれないように頑張る!!
うちの親 忙しい人たちだから…多分そんなに私のこと気にしてないと思うの。
成績くらいかな~あの人たちが喜ぶのは
子供の幸せより テストの点数や通信簿の5の数 何人中何位だとか
そんなことくらいしかないよ。
後は大学のことかな~~~。」
「そっか~~
でも俺の親父はまったく興味なしだから…とりあえず
教育費払って寝かせてくれる部屋があるだけいいかな~って…
殴られなくなったら感謝もできるようになったよ。
俺はどんな父親になれるだろう……。」
「こんたはね…一杯愛してくれるわ~
だって今こんなに うちを愛してくれるでしょ?」
「なんかちょっと不安だったから
今のなっちの言葉に救われた気がする……」
「最高の親になれるわ。」
千夏を愛する時 繊細なものを扱うようで手が震えた。
「大丈夫か?」
「うん…大丈夫だよ……」
千夏は…少女で女でそして…母になるんだ……。
女の千夏はいつものように
俺の腕の中で 甘く切なく 喘ぐ……。
そんな中で
俺はこれから…千夏と子供を守る強さをどうやって身につけようかと考えていた。