八話
あいつ・・・
ママが言った あいつって
おねえちゃんの本に書いてあった
結婚しよう
って言ってた人のこと……?
「おねえちゃん…おねえちゃんの恋って
めちゃめちゃ悲しい恋だったの?」
微笑むおねえちゃんには
そんな悲しい顔なんて想像できないけど……。
私はまだほんとの恋を知らないから……。
おねえちゃんのアルバムを探しだした。
だけど恋人のこの字も写ってない。
たくさんの友達に囲まれて中心で笑うおねえちゃんが
自慢の娘だったのは わかる気がした。
ママが許せないという あいつ に会ってみたい。
きっと優等生だったおねえちゃんに恋人ができて
パパとママは猛反対をした。
そしておねえちゃんの事故は
あいつが関わっている………。
結婚しようってプロポーズした次の日
おねえちゃんは死んだ。
私は幼すぎて 事情が全くわからない。
だけどいつも忘れられない自慢の娘が
両親をどういう風に
悩ませたのか…それも知りたい……。
おねえちゃんだって反抗したなら
私だっていい子でいる必要はないじゃない……。
ママが隣のおばさんと立ち話してた。
「めぐちゃんの制服姿見た時
ちーちゃんが戻って来たような錯覚したわ。」
「なんだかね・・・。
親でもドキッとするくらい千夏と恵美はよく似てるわ。
性格はあんなに違うのに・・・・」
「ちーちゃんが生きてたら今頃28歳くらいで…
きっと美しい娘さんだったんだろうね……」
隣のおばさんの言葉に
ママが涙ぐんでいる。
いつまでおねえちゃんの存在に縛られて
ママは生きていくんだろう……。
私は絶対 大学は地方に行こうと誓った。