優しい光 五話
それから俺は 二人に会うために公園に行くようになった。
千夏は俺のために必ず弁当を持ってきて
俺はその弁当を食べさせてもらった。
俺の姿を見つけると恵美は飛んできて
いつものように「だっこ だっこ」とせがむから
空に向けて高い高いをしてやると 後の大きな木から必ず
一枚葉っぱをむしった。
公園のベンチに座って 恵美が無邪気に遊ぶのを二人で見ながら
俺はいつしか千夏のさっぱりした性格に惹かれていた。
千夏は社長の娘で家も裕福で…俺とは全然生きる世界が違ったけど
そこがまた俺が千夏を眩しく感じる魅力なのかもしれない。
千夏の話し方で学校での様子も見えてくる。
きっとともだちの間でも中心になっているんだろう…
千夏から聞く 学校の話題は
俺とは全然違うもんだったから・・・・
うらやましい半面 俺には何も話題がなくて恥ずかしかった。
「陽之介って呼びづらいな~」千夏は今まで そっち と俺を呼んでいたけど
突然そう言った。
「俺は自分の名前 あんま好きじゃない」
愛されてない親につけられた名前がかっこよすぎて
敷居が高すぎる。
「なんて呼べばいい?」千夏が言った。
俺は小学校の時 きつねの物語の挿絵に似てると誰かが言いだして
『こんた』
と呼ばれていた。
まだあの頃は 学校でも人と触れ合っていて今よかずっと楽しかった。
いまでも俺はあの頃の流れで
「こんた」と呼ばれている。
「こんたね~~!!ホントだ…あれでしょ?
小学校の三年くらいに習った~~あのキツネの話でしょ~~
めぐが寝る時 何回かお話してあげた~~
うん うん 似てるわ~~あはは~ほんとだ~」
ケラケラ笑う千夏が可愛い。
「じゃあ こんた。うちのこともあんたとか
やめてくれるかな?」
「名前で呼べって事か?」 俺は内心照れている。
「あだ名は?」
「ないよ~みんな千夏って呼ぶから~~」
その時俺は思った。人と違う呼名で俺だけしか呼ばない呼名で呼びたいと思った。
「俺はさ……」咄嗟に思いついた
「千夏を反対にして なっち にするかな~~」
千夏は目を丸くして
「なるほど~~~!!なんかいい~新鮮だもん~」
と目を輝かせた。
それから千夏は俺を 「こんた」と呼び
俺は千夏を 「なっち」と呼んだ。
俺だけしか呼ばない名前が うれしくてちょっぴり甘い気持ちになる。
俺はいつの間にか千夏に 恋していた。