愛の形 十話
「恵美……」先生が窓を見ていた私に声をかけた。
「はい?」
「ありがとう……。これ俺もらっていっていい?」
「どうぞ。そのつもりだったから……
ノートは先生が持っていた方がいいかなって
このノートは多分 親も知らないはずだし……」
「ありがと……。
めっちゃうれしい……。」
彼が子供のようにうれしそうにノートを抱きしめたから
こらえていた嫉妬心がメラメラと燃え上がってしまった。
「いつまで…いつまで…そうやって
おねえちゃんの亡霊にしがみついてんの?
いい年してバカじゃない……。
悲劇のヒーローはもう十年たったんだよ……。
自分のために生きたっておねえちゃんは悲しまないよ…。
どうするつもりなの?
それでいいの?
それが先生の一番幸せなの?」
思わず怒鳴りまくっていた。
興奮したから息が荒くなって
ハァハァ…と息を整えた。
「私には…そんな資格ない…かもしれないけど…
でも……うちの親も先生も……
よくやるさって思うわ バカじゃないかって……
ママは毎日飽きもせず主のいないこの部屋を片付けて…
パパは仏壇の周りを今だに
おねえちゃんの好物で飾らないと怒るし……
いつまでそんなことやってんだろ。
こんな近くにあなたたちを求めてる人がいるのに
その存在を見ないようにしてるのよ……
バカみたい…・・・」
「そう・・ほんとそうなんだよな~
俺はいつになったらまともな恋ができるようになるのかな。
思い出がきれいすぎて
いやなとこ一つも見なくてさ…俺は
なっちに救われたんだ……。
あいつに出会わなかったら それこそどんな人生送ってたか……
先生になんてなれなかったろーし
ある意味学校になんか無縁で育ってきた俺が
こうしてじぶんの家を持って まっとうに教師になって…
全部全部…あいつのおかげなんだよ……。」
「それは・・・・そうかもしれないけど…」
「俺は救われたけど
なっちにとっては…俺と出会ったことは…
ずっとずっと…間違えだったのかとか……考えてばかりいた。
だけど…これには…
俺と出会ってよかったって一杯書いてあって…
なんか長い間ずっとつかえてた
胸のつかえが急にとれた気分だよ。」
「そうだよ…ここにはおねえちゃんの心が一杯…
どんなにあなたを愛してたか
あなたと出会えて幸せだったかとか
そればっか書いてある・・・・・・。
私だっておねえちゃんと同じくらい好きなのかもしれないのに
おねえちゃんの影に隠れてこうして……
嫉妬だけして……いつになったら忘れる?
私と一緒にいたら思いだすから辛い?
私じゃ…ダメですか…あなたと一緒にいたいの……。」
彼は静かに微笑んで私を静かに抱きしめた。
「サンキュー。」
そして彼の口から語りだした………。
おねえちゃんとのこと・・・・・・。