扉 三話
両親の帰りが遅いことに 今日くらい感謝した日はなかった。
仏壇の前に立って おねえちゃんを睨みつけた。
「笑ってる?おかしくて笑ってたんでしょ?」
おねえちゃんに言ったところで言いがかりなのは 自分でもわかってるけど
ぶつけるところは ここしかなかった。
彼が私に近づいたのは
愛した人によく似てる私を抱きしめて……
そして私じゃなくておねえちゃんを重ねていたから…・…
抱いてくれなかったのは それでも少しはある罪悪感?
髪の毛の長さまで似ている自分
「あはは…あははは……まるっきり…身代わりじゃんね……」
写メをおねえちゃんに見せた。
憧れてつけた おねえちゃんの彼氏の名前
『こんた』
そう呼ばれて 彼は一瞬戸惑った顔をした。
私が吐いた 愛の言葉は 彼にとっては死んだ人が再び
自分の前に現れて言ってくれる
愛の言葉に彼はどんな気持ちだったんだろ……。
そうとも知らずに バカみたいに好き好き 愛してるって……
私の気持ちは一つも彼に届いてないのに……
まるでピエロだ……。
私だけを愛してくれたんじゃなかったのね……
「ひどいよね…二人で私をバカにして……
私…ほんとに一人でバカじゃん……」
次の日から 私は学校を休んだ。
彼の顔を見たら 真実を叫んでしまいそうだったから
たとえ愛されてなくても………
彼を失いたくないんだもん……
いつかきっと私だけを愛してくれる。
だって生きてる人間が勝ちでしょ?
家を抜けだして 背中まであった髪の毛を 耳の下くらいのショートにした。
鏡の中にいる私は さっきまでの私ではなくなっていた。
小山内 恵美 は 小山内 千夏 じゃない
そう彼や両親に伝えていこう 私はそう思った。