不安 八話
モヤモヤした気分だった。
揺り起こして 「なっちって誰?」そう問い正したかった。
他の女の名前……
なんてデリカシーない人なんだろう
憎たらしくて…意地悪で…
だけど彼しか見えない私は それを知らない振りするか
「なっちって誰?」そう聞けたら どんなに楽なんだろう……。
「ん~~~」彼がとうとう目を覚ました。
「おはよ~酔っ払いさん~」
「久々だな~おはよう~」
ああ…やっぱり…この人が…好き…
「会いたかった?」 私は彼に聞いた。
「会いたかったよ…」
「うそつき」
「どうして?」
「だって…全然連絡くれないじゃん……
どうして会いたいって言ってくれないの?
いっつも私からだけだもん……」
この間の冷たい顔が嘘のように今日の彼は 優しいまなざしで
わがままなことたくさん言いたくなっちゃう……
彼は私の髪の毛を かきあげて
額を丸出しにした。
「なんで~おでこ…でこっぱっちなんだから…」
私は手で額を隠した。
彼は声をあげて笑った。
笑顔の彼に 私まで嬉しくなる……。
なっち…
気になるけれど……彼が優しいから今日はやめておく……
浮気してる?
でもこの家には女の人の気配は感じられない……。
いいや…忘れよう……
額にキス……
「この間ね……どうして抱いてくれなかったの?」
「それは…まずいだろ…ということで……。」
「私…女らしくない?魅力ない?」
質問して ヒヤヒヤしてる……。
「魅力的じゃなかったら…キスしないよ……。」
甘いキスが不安をかき消す。
私は 彼の言葉や 表情一つで 簡単に幸せにも 不幸にもなれる。
「じゃあ…いいよ…キスで…我慢するから……」
「我慢?俺のキスはめっちゃ上手いって評判なんだぞ…
ほんとは金をとってもいいくらい職人芸なんだから…」
「評判?他の人にもこんなことしてるの?」
なっちにもしてるの?
声に出そうになって慌てた。
「ここでは恵美一人だけど 外に出るとどうだかわかんないな~」
「意地悪…」
泣きそうになった。
彼はそんな私を見て また笑う……。
大好きだよ……今 世界が滅亡しちゃえばいいのに……
そしたら私たちは永遠に一緒にいられるでしょ?