不安 五話
駐車場に入る寸前で 両親に追いついた。
「あったのか?」
「うん。落ちてたよ。」
わざとに明るくふるまったけど 両親の顔はすぐれない。
車を走らせて
「おねえちゃん~雪なくなったらまた来るね~」と言った。
車の中では沈黙が続いていた。
私はイヤホンで音楽を聞いていたけど どうしても聞きたかった。
「さっき 誰が来てたか知ってるの?
せっかくのキレイなお花とか捨てちゃって もったいなかったな。」
「来てほしくない人だから捨てたの。
千夏も迷惑してるわ。いつまでも気持ち悪いから。」
ママがホントに気持ち悪そうに言った。
「あいつがいなければ…千夏は今頃…しっかりとした人を見つけて
そろそろ結婚したいとか…まだ結婚しないとバリバリと働いてたか
もしかしたら子供をつれているかもしれない……。
なんで…すべてあいつにブチ壊されて……
千夏の最後の姿を忘れられない……。
血だらけで…足は違う方向に曲がって……それだけじゃない……」
「ママ!!!いい加減にしなさい!!!」
パパが大きな声で一喝した。
ママは我に返って…言葉をとめた。
「おねえちゃんを轢いた人なの?」
「千夏を私たちから奪おうとした男よ!!!」
そう言うとママは声を震わせて 泣きだしてしまった。
やっぱこんた のことね……
ポケットに手をいれた。
おねえちゃんへの手紙……。
きっとまだおねえちゃんを忘れていないんだ……。
車の窓から紅葉した街路樹を見てた。
おねえちゃんがうらやましい……
長い年月が過ぎていっても まだ愛し合った人は忘れていない……。
どんな人なんだろう……
愛されることでも やっぱりおねえちゃんには勝てないのかな……
会いたい…彼に 会いたい ……
心が募ってパンパンになっていた。