不安 三話
おねえちゃんのこんたは 近くにいるんだって…
私はおねえちゃんに言った。
「会いたい?会いたいよね?」
こんたが今どうしてるのか…知りたいよね…
おねえちゃんの愛した人が今どうしてるのか……
「恵美 雪が降る前に 千夏のお墓参りに行こうと
思っているんだけど 週末の予定は?」
パパが缶ビールを飲みながら 私に聞いた。
「なんもないよ~」
「そうか。じゃママ あいつものように 花屋で千夏の好きだった
アイスバーグの花束をつくってもらってくれ。」
「はい。今年ももうすぐ雪になるのね…」
ママが憂鬱そうに言った。
おねえちゃんは 白いバラが大好きだったって……
だからいつもお墓に行く時は
真っ白なバラの花束を持って行く。
その日は秋晴れだった。
いつものように花束を抱えていくのは私の役目
おねえちゃんの好きだったスナック菓子を持って
パイナップルジュースを用意した。
「お天気でよかったね~。」私は少し高くなった空を見上げた。
「おねえちゃんはどうしてこの花が好きなの?」
私はママに聞いた。
「お嫁さんの花だって~ウエディングドレスの色って
小さい頃からそう言って花屋に行くたびに買わされたのよね。」
ママは花束を見ながら目を細めた。
いつもはお彼岸に来るのに 今年はパパの出張で早めのお参りになったのだ。
人もあまりいなくて お彼岸に来るよりずっとあずましい……。
よく手入れされた霊園は まるでお散歩してるようで気持ちよかった。
「運動しながら行こう。」人間ドックを控えてるパパが少し遠いところに
車を停めたので 三人でおねえちゃんの待つお墓に向かって散歩しながら歩く。
住んだ空気と 少し紅葉が始まった風景が
心の痛い私を少しだけ元気にしてくれる。
一台のバイクが通り過ぎた。
バイクを見送りながら 彼がどうしてるのか考えた。
明日…勇気を出して彼に会いに行こうかな……。
彼の背中にすがりついて風を切って
街を走るバイクを思い出していた。




