二話
おねえちゃんの笑顔は優しかった。
私が強烈に覚えている記憶が
二つあった。
大きな一本の樹木によしかかり 男の人が立っていた。
私はその人に向かって走っていく。
その人は私を高く抱き上げて
何かを言っている。
振り向くと 優しい笑顔のおねえちゃん
とっても幸せな気持ちになった。
それからもうひとつ
外のベンチに雪をかぶった男の人がいた。
私はその人に抱きしめられた。
その人は泣いている……。
冷たい体に抱きしめられて
言葉は覚えてないのに…ひとつだけ……覚えてる。
「大丈夫だよ…。めぐがいるから…」
それが本当の記憶なのか 夢なのかは私の中ではわからないけど
きっと私を抱き上げてくれた人と
ベンチで私を抱きしめた人は
同じ人なんじゃないかと思う……。
根拠はない・・・・。
だってそれが 夢なのか現実なのかわからないから……
おねえちゃんが死んでしまった年頃が
私に近くなると
毎日手を合わすおねえちゃんの笑顔に
「幸せだったの?」と問いかけることが増えた。
おねえちゃんを知るにはあまりにも 記憶が幼すぎて
私はほとんど覚えてない……。
おねえちゃんの部屋はそのまま
毎日ママが片づけているから
多分両親の中でも 時が止まっているような気がする。
だから・・・
たまに・・・たまにだけど
私を見てる? そう聞きたくなる時があるんだ。
私を見ながら まだおねえちゃんを見てる
そんな気がすると 無性に寂しくなる……。
そっくりという言葉は 本当は大嫌いで・・・・・
私は 恵美 だから!!
そう叫びたくなる。
おねえちゃんが悪いわけじゃないけど・・・・
いい子にしていないと
両親は私のことなんて 愛してないのかな って
心の底で問いかけている。
ここの高校に行きたいと思ったのも
正直 小さい頃からの両親の暗示も大きかった。
でも両親を喜ばせたい
両親に一番に愛されたい
私はいつも屈折している心を 隠してきた。
いい子でいたらきっと 愛してもらえるんだ……
おねえちゃんの遺影を見つめた。
きっとね…おねえちゃんの死んだ歳を超えたら
私はやっと両親の愛情を
一人占めできるんじゃないかなって思ってる……。
千夏にそっくりな 恵美じゃない。
私は 恵美 誰がなんて言っても 私は私なんだよ……。
両親が私をかえして おねえちゃんを思い出すのが一番切なかった……。
後もう少し 我慢したら……
おねえちゃんの歳を追い越したら・・・・・
それまでの我慢だよね…私はそう言い聞かせていた。