繋がれる手 九話
それからニ時間後だった。
父から電話がきて
「今 離陸したよ。
おまえの分まで ママと飛行機が見えなくなるまで
見送ってきたよ。」
それまで我慢していたものがプチッと音を立てた。
「うん…ヒック…ヒック…
無事に…ヒック…出発したのね……ヒック…」
「偉かったな。
カレ褒めていたよ。
恵美は立派な妻ですって……。」
嬉しくて寂しくて
どっちで泣いてるのかわからないけど
なんとか泣かずに
送り出したという清々しい気持ちだった。
「頑張るよ
絶対に元気になって…早く彼のところに行きたいから。」
「頑張りなさい。」父が優しい声で言った。
その夜は 朝まで泣いた。
さっきまであった陽之介の荷物がなくなってしまった
この病室がとってもさびしかった。
次の朝 もう泣かないことを誓った。
それからいつもの毎日に戻った。
進んでリハビリに参加して 戻ってきても自分でできることをやっていた。
薬もきちんと飲んだ。
少しづつだけど悪い数値も正常に戻りつつあった。
毎晩メールがきていた。
その中に真っ青な空の写真があった。
「恵美に見せたい」陽之介の写真をPCの壁紙にかえた。
自分のできることは
早く元気になること
自分の足でしっかり歩けること
体力をつけること・・・・・。
それからしばらくして退院して実家に戻った。
初音さんに家事を習って
料理を教わった。
それなりに楽しい毎日を過ごしていた。
作った料理の写真をメールで送ったり
陽之介からリクエストのあった料理を習ったり
充実していた。
おねえちゃんの遺影にまっすぐむきあえるように
「ありがとう
おねえちゃんが彼と私を再会させてくれたって
思ってるよ……。」
私は遺影のおねえちゃんの年をいつの間にか追いこしていた。
「これからは恵美だよ。
おねえちゃんにそっくりじゃない
誰も知らない恵美になって年を重ねていくわ。」
陽之介に会う日まで
あと何日あるだろう・・・・・・。
今夜もメールで愛を囁きあおう……。
会えない時間は 愛を育ててくれる・・・・。
どんなにお互いが大切なのかを 教えてくれる……。