欠けた心 八話
「ん…ん……」
パソコンを持ち出して来て仕事をしていると
恵美が起き出した。
俺は静かにそばに行って
目覚めを待った。
額にかかる髪の毛を整えてやると体をくねらせた。
そして眠れる森の美女は静かに目を覚ました。
「せ…せん…せ?」
「おはよう…今日の夢はどうだった?」
「どうして…ここにいるの?」
「どうしてだと思う?」
「わかんないから…聞いてんのよ……」
生きている・・・・
さっきまでの死んだような眠りに
何度も不安に陥っていた俺は
恵美の目覚めが待ち遠しかった。
「今日からここに泊めてもらうんだ、
ホテル代もバカにならないし…かまわないだろ?」
「何を考えてるんですか…
私を混乱させて楽しいですか?」
「そばに…いたいんだ……。」
「ほら…同情してる……」
恵美は背中を向けた。
「同情…?それでも一緒にいたいさ…」
もう無理強いはしないでおこう
「やめてよ…先生の前にいたら惨めだもん
どうしてわかってくれないの……」
恵美は泣き出した。
「こんなボロボロな体で…
先生に見られたくない……」
「俺はその心の方が悲しい……」
恵美の額に手をおいた。
「心を早く…元気にしたい…
体はそれからでもいいだろう…
恵美のそばにいさせてくれ……。」
大きな瞳からは次から次へと涙がこぼれる。
「私には資格がないの……
もう先生に愛される資格も
それ以上に愛することさえ…もうできない……
だからこれ以上惨めで情けない思いさせないで…
愛する人がこんなにそばにいるのに
もう愛せない私を混乱させないでよ……」
「俺もあの時…資格がないって思ったよ…
だから…逃げ出したんだ。
恵美に何も言わないで……
あの時の俺と同じだな……」
「違うよ…。
私は悪魔なんだから……。
先生が好きで好きで おねえちゃんにとられたくなくて
あんなに小さかったのに
先生から預かった手紙を親に聞こえるように
読んだんだよ…きっと…
時間さえ告げてあげてれば……
こんなにこじれなかった。
先生はおねえちゃんと子供と……
私は先生に似た人を探しているはず……
私が先生の人生をめちゃくちゃにしたんだよ」
涙で目がおぼれている。
俺はその涙に口づけをした。
恵美の心の味が染みわたった。