欠けた心 七話
階段を降りていく間に恵美は寝息を立ててしまった。
それだけ体力がないんだろう……。
恵美は子供のようにスヤスヤと眠ってしまった。
「恵美~~~」恵美の母親が駆け寄ってきた。
「死のうとしてました……。」俺が言うと恵美の母親は
床に座り込んだ。
「どうしたら…あの子を救えるんだろう……。
あなたに会ったら考え直したの?」
「いいえ……。
俺への不信感で一杯です。
仕方ないです…俺は一度逃げたんだから……
時間がかかっても…わかってもらえるように…
話して行きます。」
そうさ
逃げた罰だ・・・・。
俺はこれから恵美の心を取り戻すために
頑張っていこう……。
特別病棟の個室に入院している恵美に
付きそうことした。
付添い用のベットを入れてもらった。
点滴で眠らされてる恵美の顔は死人のように白かった。
時折 息をしているのか心配になって
恵美の口元に耳をあてて呼吸を確認した。
このまま死んでしまったら……
そんな想像をしてしまうくらい恵美は無表情だった。
「やだ…絶対…死なせないからな……。」
細い指に指をからませてみた。
入学式の時 すぐに絡まった視線は最初は千夏によく似た恵美だった。
そのうち恵美の存在が少しづつ大きくなってはきたけれど
それを認めるのが怖くて
恵美のことを必死に千夏と思いこませた。
傷ついた恵美が泣くたび 胸がざわついた。
「誰を見てるの?」
恵美の気持ちは痛いほどわかっていた。
「恵美を見てるよ。」
わざとに冷たく冷静に答える。
「うそつき・・・・」
恵美は悲しそうに目を伏せる。
俺の心の中は罪悪感でいっぱいで
そんな恵美を抱き寄せる。
「おねえちゃんの変わりなんでしょう・・・」
「そうだよ・・・」
俺は俺を愛してくれる恵美に対して
ひどいことをたくさんしてきたように思った。
「おまえにわかってもらえるためには
どうしたらいい?」
目を開けない恵美に声をかけた。
「今度は俺がおまえのために…できること…
なんでもしてやるからな……。
おまえが愛してくれたことを・…それ以上にして返してやるからな。」
ひさしぶりに触れた恵美の唇は 乾いてカサカサになっていた。