欠けた心 六話
青空に溶け込みそうになった恵美は笑った。
そして静かに目を閉じたから
俺はそのままゆっくりと俺の胸に抱きしめた。
「バカか……。そんなことするわけないだろう…。」
「先生…お願い……。
もう…私一杯一杯なの……。
全てが面倒になって……ここに来るのも
大変だったの……。」
俺の胸から顔をあげようとする恵美をまた
引き寄せて強く抱きしめた。
「同情ならやめて……。」
「愛してる……。」
一瞬恵美は言葉を失ったようだった。
「今…今さら……やめて…!!!」
恵美は俺から離れようともがく。
「ちゃんとメシ食ってないから…力何にもないじゃん……」
俺はバサバサになった髪の毛をかきあげて
真っ赤になった耳にキスをした。
「せんせ・・・!!!」
「もう…絶対に離さない……。
これからずっと俺がおまえを守るから……。
悪い夢を見るなら
楽しい夢を見られるように
おまえを楽しませるから・・・・・
俺のそばにいてほしい……。」
「なんで…私が哀れだから
自分に嘘つくことなんてしないで……。
おねえちゃんが忘れられない…それがあなたでしょ?」
恵美の声は涙ぐんでいた。
「違うよ……。
俺はわかってたんだ・・・・・。
おまえを恵美を愛してしまった自分が
悪いことをしてるようで
逃げたんだ……
勇気がなかったおまえのす全てを引き受ける勇気も…」
「やめて……
私が死のうとしてるから出まかせ言ってるんでしょ。
その場限りの嘘ならもういいよ……。
先生は胸を張って歩いてほしいの……。
私のために…何かを犠牲するならイヤ……
後で絶対後悔するから……
あなたもきっとこうかいするとき
その時が辛いの……。
好きな人の重荷や足手まといになるのだけは
絶対にイヤだから……」
か細いけどハッキリと俺の前で言い放つ。
「俺だって
後悔はしたくないんだ・・・・。
あの時俺にもっと勇気があったら……
恵美にこんな辛い思いさせなくてよかったのに…」
「うそつき・・・・。
優しい嘘なんて悲しいだけだよ・・・・。
先生が…忘れるわけないじゃん…おねえちゃんを…」
恵美の声がかすれた。
「やっぱり嫌なの……。
おねえちゃんの変わりでいいなんて言ったのは
強がりだから……。
先生には無理だよ……。
私のために嘘つかないで……。」
恵美はもううんざりという顔をした。
「先生…私疲れちゃった……。
寝たい…病室に連れて行って……。」
恵美はそう言うと俺の胸に倒れ込んだ。