欠けた心 五話
恵美の父親の車で俺たちは病院に駆け付けた。
医師が
「いつものように静かに横になっていたようなんですが…
まさか歩いて出ていったとは……」
歩く気力もなかったから
まさか抜け出すなんて思ってもいなかったと
看護師も動揺していた。
「今 病院中を探しています。」
「あの子…まさか…まさか……」母親がそう言うと倒れかけた。
俺はとにかくどこかを探そうと病室を飛び出した。
どこだ・・・・・
どこだ・・・・・
とにかく階段を駆け上がった。
降りてくる職員とすれ違った。
「いなかったんですか?」
「はい。」職員はそのまま駆け降りていった。
俺も降りようとしたけど・・・
今日の空の青さを見たいと思った。
そこで少し考えよう・・・・・・。
頭を冷やして・・・・・
屋上に出ると真っ青な空が広がっていた。
俺にいる国の空はもっともっと青い
ふと遠くを見ると柵によじ登ろうとしている恵美が
視界に入った。
俺は力なく柵にぶら下がっては落ちる恵美の細い手に
安心して静かに近寄っていった。
「恵美・・・・・。」
恵美は飛びあがって俺を振りかえった。
「あ・・・・・・・。」
「何してるんだ?」
「…空を見に来たの……。
夢で最近見るんだよね……。
青い空の下で楽しそうにしてる私……。
空に近いところから見ようと思って……。
だけど疲れちゃって………。
お願い…手を貸して・・・・・。」
手を差し伸べる恵美を抱き上げて
柵に掴ませた。
「ありがとう・・・・・」
「みんなが探してるんだぞ。」
「さっき来た人も大声で私の名前呼んでたわ。
ベンチのとこで ひっくりかえったから
死角になったのかもね・・・・。」
恵美が俺のシャツにすがった。
「会わなかったことにして……。
見なかったことにして…ここから私を飛ばせてほしいの…。」
「何言ってんだよ……どうかしてるぞ。」
「やっとここまでたどり着けたの…
ベットの中で舌を噛み切ろうとするんだけど……
どうしても怖くて……お願い…一生のお願い……
手伝って……ここから空に向けて押し出してくれるだけでいいから…
お願い……もう…楽になりたいの……
あなたが押してくれたらきっと天国に行けるよ……
そこにたどり着いたらもう…そこを離れないから……
先生……お願い……お願いします……。」
恵美が俺にすがった。
「青い空の下で笑ってたんだ。
めっちゃ楽しそうだった私・・・・・」
髪の毛が太陽の日を浴びて金髪に光っている。
「わかった・・・飛んだ先にずっといるんだな。
そこに行けばおまえは幸せになって
笑って暮らすんだな……」
俺は必死で訴える恵美にそう言った。
「先生……手伝ってくれるの?
先生が手伝ってくれるなんて…サイコーに幸せ……」
大きな黒い瞳から
ダイヤモンドが零れ落ちた。
「行くぞ・・・・。」
俺は軽々と持ち上げられるようになってしまった
恵美の体をふわっと宙に持ち上げた。
青い空と恵美が一瞬一体化してとけてしまいそうだった。