六話
階段から降りてきた彼は スーツを脱ぐと
とても若く感じた。
「お待たせ…ジュース飲めばいいのに…」
そう言って冷蔵庫から オレンジジュースを出してくれた。
氷が透明でキレイだった。
「決まりました。」
彼が笑顔で私にグラスを渡した。
「…で何?」彼がまたキッチンに戻っていった。
「こんた…こんたでどうですか?」
しばらく言葉が帰って来なかった。
「あれ?先生?」私は心配になって立ち上がった。
「なんで・・・こんた…なの?」
彼の声が遠くから聞こえた気がした。
「先生の顔がキツネに似てるから……」
またしばらく声が帰って来なかった。
「先生?聞いてますか?」
彼がキッチンから戻ってきた。
「きつねはコンコン…みたいな?」
まさかおねえちゃんの恋人と同じとは言えないから……。
「きつね……か……」
彼が笑った。
「呼んでみて……」
私は深呼吸をして
「こんた……」って呼んだ。
「何?」彼が笑った。
「それから敬語はここでは使わなくていいよ。」
夢みたい……
「こんた……」
「恵美………」
名前を呼び合って 微笑みあった。
「こんた…か………そっか…キツネね……。
なるほどね……。」
こんたが言い聞かせるように つぶやいた。
「気に入らない?」私は恐る恐る聞いてみた。。
「いや・・気にいったよ。」
こんたは私をまた優しく抱きしめた。
そして
「もう一回呼んでみて……」と言った。
「こんた…大好き……」 思い切ってそう言ってみた。
「もっと…もっと…言って……」 こんたが私の髪の毛にキスをした。
「大好きよ…離さないでね…こんた……。」
しばらく何も話さず私たちは抱き合っていた。
「運命を信じるよ……。」 こんたがそう言った。
私は思ったよりガッチリとした胸に顔を埋めて
こんなに最初から幸せでいいの?
急に不安が押し寄せて…だけどその不安を必死にけちらした。
おねえちゃんがきっと 応援してくれてるんだよ…
大丈夫…私も運命を信じるよ……。
こんたの冷たい唇が私の耳に触れた………。