灰色の空 六話
その日の夜 両親が戻って来ない間に
進が友達の車を借りて迎えにくることになっている。
私は
『自立してみます。』
走り書きしてテーブルにおいた。
自立か・・・・・
これを自立とは言わないよね。
おねえちゃんの好きなアイスバーグの花束を飾った。
しばらくここでおねえちゃんと話すこともなかったけど
「おねえちゃんの今頃は…幸せだったんだろうね。
愛する人との未来を想って 今頃ウキウキしてたんだよね。
お風呂に入ってたんだっけ?
私が読んじゃったんだよね~こんたの手紙
きっとね…親にわざとに聞こえるように…読んだんだと思うわ。
私もきっと…おねえちゃんとこんたの
幸せを願ってはいなかったのかも…知れないね・・・。
あの時 私が黙っておねえちゃんの手紙を
手渡していたら…うちらの人生は全く違うものになってたのかもしれない。
運命を変えてしまった悪魔は
パパやママじゃなくて…私だったんだね……。」
私はおねえちゃんの遺影をしっかりと見つめた。
「もう…おねえちゃんにそっくりな妹も卒業する……。
私は私…今行こうとしてる道が
間違ってても…もう…歩き出したから……。
小山内 恵美はもう…死んじゃうから……
私の哀れな人生を見ててね…。
彼以外に私を救える人はいない……。
彼以外の人に幸せになんかしてもらいたくないから……
パパとママをよろしくね。」
携帯が鳴った。
進がついたとメールをしてきた。
贅沢なこの家とも しばらくサヨナラだ。
簡単な洋服だけを持って
玄関のカギをかけてそして郵便受けに カギを投げ込んだ。
「ばいばい・・・・。」
この豪邸の私はいつも孤独だった。
おねえちゃんがいなくなって…私はいつも一人で留守番をしていた。
家族旅行は 仏壇でおねえちゃんが一人になるからしない
それが小さい頃からのうちの約束事で
大きな家でそれなりにお金があっても
食事だって一人で 寝つく時も一人で…ひどい時は朝も一人だった。
でもそれでも愛されたいって思ってた。
おねえちゃんよりいい子にしてたらきっと
親に愛されるって信じて 頑張ってた。
言いなりになる私をいい子だって褒めてくれても
それでも…私は満足だった……。
いい子でいよう
それが恵美の生き方だったけど
彼に出会って…愛されたいって強く思った。
彼にも親にも一番に愛されたい・・・・
だけど……
私は愛されなかった………。
愛してほしい人に 愛してもらえない人生だった……。
進が助手席のドアを開けた。
「行くぞ。」
車が動きだした・・・・・・。
きっと間違っているだろう人生に向かって・・・・・。
そこで待つ人生がきっと私を誰でもない私に変えてくれると信じて……。