灰色の空 五話
卒業式中ずっと山岸先生の言ったことを考えてた。
彼の葛藤の中にいたのは私?
葛藤って……何?
私がもっと彼を守っていれば
この風景の中に彼はいた…。
もし彼がいたら 私はどんな気持ちでこの日を迎えたんだろう。
明日から……
私は 夜の世界にと身をゆだねる。
これからの人生に何も希望はないけれど
もし今彼がいたら私の人生には少しは希望が持てたんじゃないか
彼がみている緊張感で
おねえちゃんに負けたくないプライドで
いつか…彼が私を抱きしめてくれるという期待感で
もっとマシな毎日で希望を持っていたのかもしれない……。
みんなが涙していたけど 私には涙はなかった。
「めぐ・・・」
帰ろうとしていた私を 学が呼びとめた。
学は本州の大学に決まったようだった。
「ありがとな・・・・。」
「ん?何が?」
「俺はおまえに恥ずかしくない男でいたいって…頑張ってた。
この三年間 おまえのおかげで自分が成長したかもしれない。
だけど…俺はおまえに何もしてあげられなかった。」
「そんなことないよ。
私こそ…ごめんなさい。
学の気持ちに答えられなくて……。」
「幸せに・・・なれよ。
心配なんだ…。めぐは人生投げてしまってるようで……。」
「ありがとう・・・・。
学も…いい恋を見つけて…幸せになってね。」
「めぐ…こんなこと頼んで軽蔑されるかもしれないけど
最後に…一度だけキスしてほしい……。
俺の恋の終わりの日だから……。」
学の顔が真っ赤になっていた。
かわいい……
私にとってキスなんて簡単なことだった。
なんなら体だって・・・・・。
だけど学は 私を愛してくれてるから
怖くてそこまではできない。
学にとってキスも大切な思い出になる行為だろうから
空き教室に学を引っ張って
私は久しぶりに重いキスをした。
心がガンガンとぶつかってくる愛のあるキス
感動する……
おどおどしたキスだった。
学はきっとまだキスには慣れていないんだろう
私はお礼のつもりで
学のキスのリードを始めた。
重いキスは・・・・やっぱりいい・・・
心のあるキスは私を幸せにしてくれる・・・・・。
きっと今頃 学の頭は真っ白だろう・・・・。
しばらくその感触を楽しんで 私は学から顔を離した。
「ありがと学……何か一瞬でめっちゃ心が
温かくなったよ……。」
学はボーッとした顔をしていた。
「心のあるキスって幸せな気分にしてくれるね。」
私は学の頬にもう一度キスをして
「じゃあね~」と言った。
「あ…うん…ありがと……。」
学の頬は真っ赤になっていた。
私は学校を振りかえった。
「一番幸せで…一番切なくて 一番苦しかった三年間だった……
さよなら…私……
少しの期間でも輝いてた私……
ここにきたらきっと思い出させてね……。」
彼がいたこの風景を・・・・・
辛い時にはまた見に来よう・・・・
卒業・・・・・
いろんな意味で私は 今日卒業した。