彼の存在 五話
学校から連絡を受けた両親が職員室に迎えに来た。
「恵美・・・もう心配させないで。」
母の声がしらじらしく聞こえる。
「先生…やめさせたのね……。」母の顔を見ずに自分の足元を見ていた。
「やめさせたって…自分から辞職したらしいわよ。
校長先生~~~」
「はい・・・・」
「溝端先生は前からそう言ってたんですわよね?」
「小山内…溝端先生は前からそう言ってたんだよ。
私たちがお願いしてこの三年生を卒業させるまで待ってほしいと
それで本当はもう少しいてほしかったんだけど
後任に優秀な先生が来てくれて
バトンタッチしていったんだよ。」
校長が言う事を信じるわけがない。
「先生まで嘘つかないでください。」
「今年の卒業式が終わった時に一度辞表を受け取ったんだけど
三年にあがる先生が急きょ妊娠で担任もてなくなって
なんとか頼みこんだんだよ。」
校長がさし出した手紙には
彼の名前と三月の日付が書いてあった。
「どこに行ったんですか?」
「本人の話によると 海外協力隊にはいったので
そこで貧しい子供たちに勉強を教えてやりたいと
話してくれただけだが……はっきりとはわからない。」
海外って・・・・
「どっちにしても…ママたちが
先生を追い詰めて早くやめさせたんでしょ。」
私は誰かを憎まなければ生きて行けそうなかった。
「いいじゃない
別にあなたに関係ないんだし……」
「うるさい……うるさい……」
私はそこらにあったプリントをまき散らした。
「彼がいないと生きていけないって言ったら?」
私は母をじーっと見つめた。
「ちょ…何言ってんの……まさかあなたまで……」
「私は彼を愛してる。
私は彼がいないと生きていけないって言ったの。
わかる?おねえちゃんじゃない私よ!!!」
「気でも狂ったの?」
「よくも……私から彼を奪ったわね。
絶対に許さないから……。」
不思議にもう涙は出なかった。
私は半分魂が抜けだしたようにぼーっとなった。
「もう…どーなったってかまわない……。
この世界に彼がいないなら……もうどーだっていいから・・・」
私はその日から 魂が半分抜け出て
その半分が彼を探す旅に出かけてしまった。
彼を連れてきて・・・・・
彼を見つけてきて
そしてこんなに愛してるって伝えてきて……
小山内 恵美 は この日を境に 死んだ・・・・・・・。
彼が抱きしめてくれるまで・・・
白雪姫やシンデレラや眠れる森の美女や
彼が私を見つけて抱きしめてくれるまで・・・・・・
もう誰も愛さない・・・・・・。