彼の存在 四話
頭が真っ白になっていた。
退職? 退職って…何?
私はいてもたってもいれなくて
病院を抜け出してタクシーに飛び乗った。
彼の家はいつものとおりに
私を迎えてくれてるように思えた。
シャッターのカギがかかっている
インターフォンを鳴らしても音が鳴らない。
「先生!!先生いますか!?」私は郵便受けから声をあげた。
裏がわのリビングの窓から
背伸びをしてのぞいた。
真っ暗な部屋の中 そこに彼がいないことを物語る。
まさか…
私が必死に背伸びをしていると
後側から一瞬車のライトが差し込んできた。
見慣れた家具たちはここにいた。
「よかった…帰ってくる・・・・」
安堵感で座りこんだ。
玄関に戻ってポーチの中で膝を抱えた。
美しい星空を眺めていた。
流れ星を絶対見つけてやる
そして願うんだ
ずっと彼と一緒にいられますようにって・・・・
。。。。。。。。。。。。。。。。
「おじょうさん…おじょうさん」
声がして私は目を覚ました。
「あ…」外は明るくなっていた。
「こんなところで風邪ひくよ。」
「あ…ここの人待ってたから……」結局流れ星も彼にも会えなかった。
「ここの人なら一週間前くらいに引っ越したよ。
新聞やめるって言われたから・・・・」
頭を殴られた気持ちになった。
「え・・・?」
「集金に行ったらもう越すからって言われたよ。」
「だって…家具とかあるし…」
「家具つきで家を売るんだって。
世間話してたから……。」
「そ…そんな……」
おばさんはそう言うと去っていった。
嘘よ・・・・・・。
学校に行った。
見慣れた制服がたくさん歩いていた。
いつから私はここの風景から除外されたんだろう。
「めぐ?」ふり向くと友人達に囲まれた学がいた。
「悪い先行ってて。」そう言うと 友人たちはニヤニヤしながら
歩いて行った。
「入院してるって聞いたけど?」
「ね…溝端先生って……。」
「先週かな…いきなりやめたんだよ。
ねえちゃんの担任だったから 大騒ぎだったよ。
なんか外国に行くって言ってたけど…なんか問題起こしたとか
噂になってたけど いい先生だったからショックだったみたいだよ。」
「外国って・・・・・」
地面に涙のしずくが落ちた。
「陽之介ぇぇ~~~~」私は顔を覆って地面に
座りこんだ。
私の命と同じくらい大事な存在だった。
心が片方 えぐりとられたまま捨てられた気がした。




