彼の存在 三話
『呪い…』
彼が来てくれた時 見た夢が忘れられなかった。
あの時彼を抱きしめた私は 可愛い私ではなくて
妖怪のような恐ろしい生き物だった。
やだな…なんか結びつくじゃん
あの日 ねざめがすごく悪かった。
夢の内容を覚えてるのも めずらしかったから……
でもきっと多分きっと
あれは私の本音だったんだと思う。
二人の愛が深い分
私は傷ついていたに違いない……。
幼かったと言っても 私が彼に恋していたことに
間違いはないから・・・・
私の目を盗んで・・・
私の存在が邪魔だったろう空気にきっと私は気づいていた。
あの時があまりに辛くて
きっと私の記憶が封印されている気がした。
私にとって 邪魔者だったおねえちゃんがいなくなることを
絶対に 望んでいたに違いない
二人の愛が深い分きっと私の嫉妬は深くなった。
彼に渡されたメモをおねえちゃんにあげないで
読みあげたのも…きっと意地悪だったのかもしれない。
おねえちゃんが彼とどこかに行こうとしてるのを私は知っていた。
だからきっと…両親に聞こえる大きな声で
私は彼からの大事な伝言を読みあげたに違いない
彼が言っていた。
「ちゃんと渡してくれれば・・・・」
そこには彼の私に対しての憎しみがあったろう
私が幼かったゆえに追及できない 恨みがかくされてるんだろう。
幼くて愛らしい姿の白いうさぎは
心がドロドロで自分勝手な
悪魔な私・・・・おかしくて笑った。
邪魔者がいないのに
今だにその邪魔者が私に嫉妬をさせている。
いつになったらおねえちゃんを越せるんだろう
私は一生 おねえちゃんの存在の影に隠されて
生きていくことになるのかな
私は 彼の
『オンリーワン』になりたいのに………。
会いたい……
会いたい……
会いたくて胸が押しつぶされそうで……
彼が私のどす黒い呪いをといてくれるのを待っている。
彼しかとけない呪いを……
その時きっと私は
彼の『オンリーワン』になれるだろう。
公衆電話を見つけて 彼に電話をかけることにした。
ちょっとでいいの……
彼の声が聞きたい……。
いろんな企みを考えて演技をした。
「あの…白雪銀行の中澤と申しますが…溝端 陽之介様
いらっしゃいますでしょうか?」
北海道では一番大きな銀行だった。
これできっと彼に怪しまれなくつないでもらえる。
「少しお待ちください。」
保留音が流れる。
彼が出たら 恵美ですって言おう。
きっとビックリするだろうな……。
「もしもし…お待たせしました。」
次に出たのは男性だった。
私は驚いて動揺した。
ばれた????
「白雪銀行さんですね。溝端は退職いたしましたが・・・・。」
「え?」思わず聞き返した。
「溝端は退職いたしました。」
私の時間が そこでとまってしまった。
退職って・・・・・・・
受話器を・・・・置いた・・・・・・・・。