彼の存在 ニ話
「退院いつできるの?」 あれから一週間たってすっかり
体調が戻った私は 母に聞いた。
「血液検査の数値がまだよくないんだって……
もうしばらく我慢しなさい。」
「だって…もう具合悪くないのに?」
「肝臓は大事なとこなんだし
いいから…だまって寝てなさい。」母は私に布団をかけた。
「携帯…使いたいんだけど…」
おそるおそる母に言った。
「病院で携帯は使えないでしょう。」
「つかっていいとこあるじゃん……友達にもメールしたいし
きっとみんな心配してるよ。」
「担任の先生から話してもらったから 大丈夫よ。」
母は全く取りあわない
予想通りだけど・・・・・・・。
彼と連絡を取り合ったりすることをきっと恐れている。
携帯にロックかけておいてよかった。
母が出て言って 初音さんがやってきた。
「おじょうさま 元気そうですね。」
「今日は一日 何して過ごせばいい?
もう…あきちゃったよ……
寝てばっかいて イヤな夢も見るし もう苦痛の何物でもないよ。」
「元気になった証拠ですね~~。
完全に治さないと 肝臓は一度悪くすると治りづらいんです。
しっかり治さないといけません。」
「あ~学校に行きたい・・・・。
先生に・・・会いたいな~~」
ついつい初音さんの前で彼のことを口走った。
初音さんは彼を入れてくれたから 味方だと思った。
「先生?」林檎をむいてくれた。
「うん…大好きな先生なの……。素敵な先生…。」
初音さんが笑った。
きっと彼と結びつけてくれた。
「おじょうさま・・もしかして恋してるのですか?」
「え…?」私は頬がポッと熱くなった。
「恋…って…でも…そうなのかな……」言葉を濁した。
「おじょうさまが彼以外の人を私に教えてくれたの
初めてですね~。小学校も中学校も男の子には見向きもしなかったから…
こんたさんの次に初めてです~」
そう言うとニッコリ笑った。
「そ…そうだった?」
「千夏さまが亡くなってから…最後に彼のことを口にした日から
初めてですよ。」
「私はなんて言ったの?
全然覚えてないの・・・・・。」
「おませさんで……またきっとおにいちゃんに会えるわって…
私がどうしてですか?って聞いたら
『呪いをかけたの』って可愛い顔でそう言いましたよ。
本気でちょっと怖かったけど……」
そう言うと私の口にまた 林檎を入れた。