愛するという事 一話
「山岸先生が好き?」嗚咽しながら聞いた。
「好き……ん……ただ一緒にいたら楽しいかな。
共通な話題も多いし 彼女の考え方は勉強になるし……
それに…あまり…うるさいことも言わないしね……。
あきらめてくれたんじゃないかな……。
俺は誰のものにもならないよ……。」
その言葉が私の頭を殴りつけた。
ガンガンガン 頭が鳴っている。
「恵美……俺…おまえを抱いちゃいけなかったんだ。」
今さら…そんなこと言わないで…
「なんで…?おねえちゃんじゃなくて私を抱いたんでしょ?」
ドライヤーを止めて彼は私の頭を整えた。
「後悔しても…遅いよな……。
俺が恵美を汚してはいけなかった。」
「汚した?そんなこと言わないでよ!!」
私はふり向いて彼に抱きついた。
「私はめっちゃ…幸せだったんだもん……。
好きな人に大事なものをあげられて…幸せだったのに…
そんなこと言うのやめてよ……」
「恵美を幸せにしてやれるのは俺じゃないよ……。」
「そんなことわかんないでしょ
私が愛してんのは 陽之介だけなのに!!
私がいいって言ってんだからいいんだよ!!!」
「恵美のことだけ…愛してくれる男にこれから
何度も巡り合えるから……」
私は涙でにじむ彼を見つめた。
「こんなに泣かさないで もっともっと楽しい気分にさせてくれる恋に
きっと巡り合える……。あんなことした後で
自分勝手なこと言ってんのわかってんだ……。
でも…俺といたら恵美はいつも泣いている気がする。」
私は激しく首を振った。
「違う…違う…私は幸せだって…
私が言ってんだから間違いないでしょ!?」
「恵美・・・・。
俺はやっぱり…千夏を忘れられない。
恵美だと思ってても千夏が…おまえの中に俺を惑わす
千夏がいる限り…俺は千夏を探してしまう。
恵美を見つけて恵美を抱きしめたら
千夏が泣いてる気がして……
あの日 恵美を抱いて…後悔した。
いや……おまえのせいにしてゴメン……。
俺が…俺が辛いんだ……。
千夏を…裏切って…罪悪感で一杯だった。
他の女をいくら抱いても こんな気持ちになることはなかった。
ゴメン……。俺が…俺が無理……
これ以上 千夏を裏切れない……
混乱させて…恵美を泣かせたくないんだ……。」
頭がガンガン鳴っている。
彼の目に涙が……涙を見つけて私はさらに混乱する。
「やだ…なんで泣いてんの?泣かないでよ……。
男なのに…大人なのに…先生でしょ?
子供の前で…生徒の前で・・・・・泣かないでよ~~~ぉぉ!!!」
「ごめん・・・。
俺を・・・嫌いになって・・・・
サイテーだろ……情けないだろ・・・・・
恵美に近づいてさんざんキスして…好きにして
恵美を弄んだんだ。
…恵美が……恵美が大切なんだ……だから…俺のことで
泣かせたくないんだ……。
俺はダメな男だから……他の女は泣かせても
やっぱり恵美だけは…泣かせたくない……。
復讐なんてくだらないことは…もうやめるから……」
彼が…彼が…声をあげて泣いた。
許してくれ・・・・
解放してくれ・・・・・
いつも大人の彼が…私の前で怯える子供のようになきじゃくった。
私はいつしか自分が泣くことも忘れて
取り乱した彼を茫然と見ていた。
私が彼を追い詰めてるの?
彼はおもむろに立ちあがって フラフラと浴室に向かって歩き出した。
洋服も脱がずに浴室にはいってシャワーの音が響き渡った。
シャワーの音に混じって 彼の泣き声が聞こえた。
「なっち……なっち……ごめん…ごめん……
もう二度と裏切らないから………」
私は床に座り込んで 大声で泣いた。
おねえちゃんには…勝てないの?
もうここに肉体のないおねえちゃんに・・・・
私がどんなに彼に心をつたえても おねえちゃんの亡霊には敵わないの?
私が彼を愛することで 彼を追い詰めるなら・・・
彼が解放してくれって言うなら・・・・
私は彼が壊れてしまわないように・・・
解放してあげるべきなの?
私は子供だから…彼と一緒にいたい…
他の事情なんてどうでもいい
彼がそばにいてくれればそれだけで幸せなのに・・・・・・。
大人ぶった私が言う。
可哀そうだよ・・・・・・。
解放してあげた方がいいよ……。
私は立ちあがって制服に着替えた。
今日は抱いてもらう予定だったのに
別れを告げられちゃった……。
「あはは・・・・・」泣き笑いしながらカバンを持った。
「ばいばい・・・・」
大人ぶった私がテーブルに合鍵を静かに置いた。
大人ぶった私じゃないと子供の私は 死んでしまいそうだった。
彼を残して 玄関のドアを閉めた。
大きく深呼吸して目をゴシゴシ拭いて 私はフラフラと歩き出した。
どこに向かってんの?
私がいるべき場所・・・・・
忘れられんの?
わかんない・・・・・・
でもこれ以上 彼を苦しませたくないもん・・・
愛してるって・・・・こういうことなのかな・・・・。