春の雪 ニ話
葬儀の日も雪はやまなかった。
俺は厳重にチェックされた受付でまたもや
入場を拒否された。
「一目だけでも……」何度もそう言って頭を下げたら
警備員が来て俺は会場の外に出されてしまった。
社長という肩書を持つ千夏の両親は たくさんの
従業員を使い入り口を固め
俺を千夏にはあわせてはくれなかった。
会場の外で 雪をかぶって俺は手を合わせた。
凍える体と流れ落ちる涙が
俺の心に憎しみの火をともす・・・・・。
葬儀が終わり 参列者が泣きながら会場を出てきた。
俺はそれを影から見ていた。
次の日も受け付けはたくさんの人数で 固められていた。
その日は 千夏と葵の肉体が滅びてしまう日だった。
俺は黄色のひよこに頬ずりをした。
「ごめんな…お別れもできずに…
許してくれ……一目でいいから会いたかった……。
会いに行けない俺を許してくれるか…?」
たくさんの泣き声に見送られて
千夏の棺が出てきた。
会えなかった絶望感はやがて 雪が俺に降り積もるかのように
憎しみへと変わっていく。
「ごめんな…なっち……。」
俺は棺の中の 愛する人に手を合わせた。
絶望の淵にいる俺にさらなる悲劇が襲いかかった。
千夏の顔が…思いだせない……。
必死に携帯電話のデーターを何度も開いて確認しても
頭の中で 千夏を想いうかべると
どうしてなのか…千夏の笑顔は もう俺の頭の中には
鮮明には浮かんでこなかった。
最後に会ってやれなかったからだ……
千夏が怒ってるのかな……
会いに行ってやれなくて……怒ったのかな
それとも神様に罰を与えられたのかな……。
俺の心は決まっていた。
千夏を追って……死のう…って
もうきっとこれからの人生
千夏を忘れさせてくれる女にはめぐりあうことはないだろう……。
札幌は記録的な春の大雪にみまわれていた。
「おにーちゃん……」
後ろから声がして俺は 驚いた。
慌てて後を見ると 恵美が立っていた。
「おにーちゃん 大丈夫?」 恵美は毛のフワフワした帽子をかぶって
まるで愛らしいウサギのように俺の顔を覗き込んだ。