「無能な管理者」の回路図〜勇者パーティを追放したら、世界をインフラから最適化しすぎて神話レベルの文明が完成しました〜
この世界は、あまりにも欠陥が多い。
魔法の詠唱速度は遅く、魔力消費の効率は最悪。
おまけに勇者と魔王という二つのシステムが、資源を浪費しながら無限に泥仕合を繰り返している。
俺は律。
世界の保守管理を任された「管理者」だ。
と言っても、神のような大層な存在ではない。
ただ、現場の配線が気に食わないだけの、職人気質のエンジニアに過ぎない。
辺境の村に身を隠した俺は、まず村の主要インフラである「水車」の改装に着手した。
村人たちは魔法の力を借りて石臼を回していたが、あまりに非効率だ。
村外れの廃坑に転がっていた導力鉱石を拾い集め、魔法回路を図面に従って再構築する。
回路の構成は極めて単純だ。
複雑な詠唱などいらない。
物理的な制御と、導力回路を効率よく繋ぎ、最短距離でエネルギーを伝達させる。
「律さん、また不思議なものを作ってるの?」
村の少女が不思議そうに覗き込む。
手元の魔力制御棒を回し、最後の回路を閉じた。
「ああ。ただの『最適化』だ。これからは、魔法を唱えて石臼を回す必要はない。川の流れが石臼を回し、余剰なエネルギーは蓄電池に変換される。これで製粉作業のスピードは三倍になる」
翌日から、村の生活は激変した。
村人たちは「神の加護」だと涙を流して喜んだが、全然違う。
俺は村のあちこちに、魔法と論理を組み合わせた「自動制御ライン」を組み込んだ。
耕作の自動化、水資源の効率的な分配、そして村を覆う防壁の省電力化。
数ヶ月後。
村は周辺諸国が驚くほどの経済圏を築き上げた。
噂を聞きつけたのは、かつて俺を「無能」と切り捨てた勇者パーティだった。
彼らはボロボロの装備で村に現れ、構築した防壁システムを前に立ち尽くした。
「おい、律! ……どういうことなんだ? なぜ魔王軍の斥候が、村を避けて通るんだ!」
勇者アルヴィンが、忌々しげに、俺の胸ぐらを掴もうとする。
だが、防壁が瞬時に反応し、強烈な電磁パルスで彼らを弾き飛ばした。
「……学習能力がないな、アルヴィン」
俺は冷めた目で、地面に転がるかつての仲間を見下ろした。
「お前たちがダンジョンで無駄な魔力放出をして、俺を『不要』だと笑った瞬間から、世界のシステムは崩壊に向かっていた。頼みの魔法回路は、俺が裏で手入れをしなければ数日で焼き切れるショボいものだ」
手元の管理者端末――村の全インフラを統合した回路図を掲げた。
「俺は世界を直しているだけだ。お前たちが壊し続けた世界の配線をな」
「俺様は勇者だぞ! 絶対的な守護者だ!」
「ああ、ただのお飾りか。勇者スキルは、不採算部門として凍結処理した。もうこの世界から、魔力供給ラインはカットされている」
勇者パーティが青ざめる。
俺が指を鳴らすと、彼らの聖遺物が灰の如く霧散する。
アイテムの回路も、俺が遮断した。
勇者アルヴィンたちは力を持たない、ただの無知な人間へと成り下がった。
俺は一瞥もくれず、管理者端末で次の領地の回路図を開く。
世界のバグは多い。
直すべき箇所は、まだ山ほど残っている。
「帰れ。……村の労働効率を下げる邪魔者には、用がない」
背後で、風車が力強く回転し続けている。
世界が最高傑作になるまで、俺の仕事は終わらない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
「魔法」という曖昧なものを、「回路」や「制御」といった現場の論理で構築したらどうなるか。
疑問から、律という男が生まれました。
彼の作る「最高傑作」のインフラが、どう変化していくのか。
設計図の続きを、またどこかで描けたらと思っています。




