「私の愛はもう枯れてしまいました」と言ってた元婚約者が新しい男相手に「愛してます」と嘘を言ってたので真実を皆に教えてあげる事にした。
「俺馬鹿だから難しい事は分からないけどよ、クラスメイトをいじめる奴とは結婚出来ねえよ」
三年前の卒業パーティの日、俺はそう言って婚約破棄を告げた。そしたら、いじめなんて無くて男爵令嬢の自作自演だと明かされた。
「俺馬鹿だから難しい事は分からないけどよ、王子と宰相の息子は分かってて冤罪に乗っかったから共犯扱い。でも、俺は知らずに乗っかったから被害者なんじゃねえの?疑った事は謝るからやり直そうぜ」
俺は冷静沈着に無実と反省を訴えたが、婚約は白紙になっただけでなく、家を追い出され平民にされた。王子は離宮送り、宰相の息子は再教育、男爵令嬢は実家へ帰らされた。一番罪が少ないはずの俺が一番罰が重かった。当然納得行かなかった俺は裁判所へ訴えに行ったが、貴族同時で解決した事だからと取り合って貰えず追い返された。
「俺馬鹿だから難しい事は分からないけどよ、事件の真実暴く気がないなら裁判官辞めたほうがいいぞ」
「はい、侮辱罪と公務執行妨害ね。連れてけ」
俺は留置所に入れられ、その日の晩に元婚約者が保釈金を持って俺に会いに来た。
「こんな所で、何をやってるんですか。本当に愚かな人ですね」
「俺馬鹿だから難しい事は分からないけどよ、助けに来てくれたのか?なら、また一緒に」
「いえ、貴方と関わるのはこれで最後です」
「俺馬鹿だから難しい事は分からないけどよ、最後って?」
「愛とは無限に与えられる物ではありません。貴方に与えすぎて私の愛は枯れました。それに、私には既に新しくお付き合いしている男性がいるのです」
婚約者、いや元婚約者は凄く怒っていた。いや、あれは呆れていたのかも知れない。それの答え合わせは出来なかった。牢屋から出た後、どんなつもりか何度も話しかけたが、彼女は一言も俺に話さず衛兵を呼んだからだ。
平民が貴族になれなれしく話しかけると、それだけで捕まると牢屋で説明を受けた時、俺は泣いた。
俺が俺自身とついでに彼女の人生を壊してしまったのだ。
「俺馬鹿だから難しい事は分からないけどよ、彼女は俺にとって大事なトロフィーだったんだ…、しかもただのトロフィーじゃなくて持ってるだけで色々便利なトロフィーだった。それを俺は手放してしまったんだ…」
「お前、本当に終わってるな」
俺を尋問する人の目は冷たかった。きっと、俺の事を馬鹿なだけでなく薄情な裏切り者だとレッテルを貼ってるのだろうと思った。尋問係の印象が悪くなると刑期が延びると思った俺は、必死で言い訳を努力した。
「俺馬鹿だから難しい事は分からないけどよ、あの時婚約破棄したのは不可抗力だったんだ。だってよ、相手は王子だぜ?王子に歯向かうか婚約者を裏切るかの二択を迫られて仕方なく婚約破棄したんだ。親父からもよく喧嘩を売る相手を選べって言われてたし、あの時の判断は間違って無かったと今でも思ってるんだ」
「だが、お前が与した王子達は取るに足らん馬鹿として裁かれた。お前は善悪だけでなく、損得すら間違えたんだよ」
「俺馬鹿だから難しい事は分からないけどよ、それは違うぞ。あの時、王子からの婚約破棄しろという命令を断ってたら、俺が屋上から突き落とされてたと思う。俺以外の貴族なら王子の頼みを断れただろうけど、俺は大人しくて優しいから断れなかったんだ」
「なんだお前、王子に虐められてたのか?はっ、情けない奴だな。それでも騎士団長の息子か?」
「俺馬鹿だから難しい事は分からないけどよ、俺は虐められてない。王子は俺を蹴る時、これはイジりだって言ってた。それに、俺が虐められてた」
「はいはい。無駄にプライドが高いでちゅね〜」
俺は下唇を噛み締めてそれ以上何も言えなくなった。俺は無駄にプライドが高いの言われると身体が強張って動けなくなる。
昔から何度も元婚約者に、
『貴方は無駄なプライドが高い所を直した方がいい』
と言われ続けていたからだ。俺は叱られるのが嫌で、誰に対しても言う事を聞いて逆らわない様にしていた。それなのに、元婚約者は俺と会話する度に無駄にプライドが高いと言ってきた。俺は大人しくて優しいを突き詰めていたのに、まだ無駄にプライドが高いと言われて意味が分からなかった。だから、俺は無駄にプライドが高いと言われると黙ってしまうのだった。
結局俺はそれ以上尋問係に何も言い返せず、平民が貴族にしつこく近付いた罪とやらの上限一杯の罰金を支払う事になり、鉱山で働かされた。大人しくて優しい俺は、鉱山で臭いとか鈍臭いとか笑い方が気持ち悪いとか魔物が出た時に一人だけ逃げたとか軽口を良く言われたけど、俺は大人しくて優しいから爪や唇を噛んで地団駄踏んだり年寄りの労働者の弁当を隠したりして心を落ち着かせて我慢出来た。
そして、完済日。鉱山を出た俺は真っ直ぐ元婚約者の所へ向かった。真面目に働いて出所した事を告げて彼女を安心させる為だ、あわよくばまた仲良くしたいけど、駄目ならそれでも良い。とにかく、彼女の家の方へ歩いていくと、途中の広場で彼女が夫を連れて演説している所へ出くわした。
「皆さん、王国を救った聖女と彼女を支えた英雄に大きな拍手をお願いします!」
何をやったのかは分からないが、俺が鉱山に居た間に元婚約者は凄く凄い事をやったみたいだった。婚約破棄しなければ、俺もあの場所で称賛を浴びていたのかと思うと悔しくて吐き気が止まらない。
だが、これも俺が背負うべき罪の一つ。俺は演説を台無しにしてはならないと思い、下唇を思いっきり噛み締めながらその場に留まり話を聞いていた。すると、彼女の偉業を説明する司会がおかしな事を言い出した。
「聖女様は誇り高い勇者様との真実の愛に目覚めー」
いや、それは違う。彼女は人を愛する事はもうない。出来ないんだ。俺が彼女の愛を枯らしてしまったから。それに、彼女はプライドの高い男は大嫌いなんだ。俺が捨てられた原因もそれだったから。この間違いは正さねばならない。きっと、彼女は司会の間違いを訂正するだろうと思った。だが、マイクを司会から受け取った彼女は信じられない事に、先程の言葉を肯定した。
「私、彼に愛されてとても幸せです」
違 う だ ろ!!
俺の歯が下唇を貫通した瞬間、頭の中で色んなものが音を立てて切れ、足が勝手に広場のステージへと走り出していた。
(俺馬鹿だから難しい事は分からねえけどよぉぉぉぉ!)
俺は女子供老人が多い列に体当たりをして道を開き、ステージへ上がった。きっと、俺はあっと言う間に逮捕され、彼女には二度と会えないだろう。だから、それまでに全部言う。俺は今まで大人しくて優しかったから言わなかったけど言う。
(俺馬鹿だから難しい事は分からねえけどよ、この女は嘘をついてるぞ!こいつは夫を愛してなんかいねえんだ!俺馬鹿だから難しい事は分からねえけどよ、俺は彼女の元婚約者でよぉ、貴方に愛を与え続けてもう愛は枯れたとか無駄にプライド高いのが嫌とか言われたんだよ。だから、このプライド高い男を好きだってのはダブルで嘘なんだよ。だから…だから、彼女はお前らの為に嘘を付いてるんだ。本当は愛してない男を愛してるって言うのは、社会の為。力のある存在が弱者を不安にさせない為に嘘を付き通してたんだよ。彼女が本当に愛してたのは俺だけ、生涯で俺だけが彼女のありったけの愛を受け止めたんだ。そんな俺だから分かる。俺の元婚約者は立派だ!偉い!愛が枯れてるのに政略結婚を持続する為に自分の人生を犠牲にして偽りの笑顔を作り続けている!だけど、きっとそれは本当に辛い事だろう。だから、俺に代わって皆が彼女を支えてやって欲しいんだ。俺、馬鹿だから難しい事は分からねえけどよ、俺自身婚約破棄してから沢山辛い目にあってきた。臭いとか姿勢悪いとか病気持ってそうとかギリギリ聞こえる声で言われて下唇を噛んで我慢していた。でも、それも全部許すよ。俺が婚約破棄した後に受けた仕打ちは全部自業自得だから。自業自得って事は、自分が与えた相手への苦しみが自分に返ってきたんだから、つまり、俺が言われた事は全部お前らも同じ苦しみを味わったんだろ?分かる、辛いよなこういうの?だから、俺は復讐とかはもう考えてないから。俺大人しくて優しいから、安心して。それじゃ元婚約者、いや、俺とは無関係の聖女様。どうか幸せに。俺はお前をトロフィーに出来なかったけど、それでも幸せになって欲しいと祈っているから。死ぬまで毎日祈るし、死んでからも天国で祈ってるから。だから、これから沢山辛い事あるかもだけど頑張れ。頑張れっ!ガーンーバーレー!フレーフレー聖女!)
元婚約者の名前を尻文字で描きながらのフレーフレー聖女で締め全て言いきった俺は、後頭部に激痛を感じ急速に意識が遠のいていった。きっと衛兵か元婚約者の旦那に殴られたのだろう。だけど後悔は無い。この後、前回よりもきつい尋問されたり死刑になるかも知れないけど、俺は大満足。
(本当無理するなよ聖女様、困った事があったら周りを頼るんだぞ)
真顔で俺を見続ける元婚約者に俺はウインクして意識を手放した。
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本日行われた、勇者様と聖女様の記念講演会の会場の近くで、聖女様の元婚約者だった無職の男が死体として発見されました。男の死因は脳出血。医師によると
、自分の婚約者が他の男と幸せになってるのを見たストレスで憤死したと推察されています。
また、講演会に参加していた人々の中で霊感の強い数人が男の霊が聖女様に迫り何かを訴えるのを見ましたが、内容は不明。悪霊は聖女様の手で払われ犠牲者はありませんでした。




