届け!この想い!
バレンタインデーをテーマにした高校生の恋愛小説です。
ぜひ、最後まで読んでください。
1年生最後の種目であるクラス対抗リレーを蒼井ソラは応援席から見ていた。
彼女は県立S高等学校に通う1年1組の女子生徒である。
今日はこの高校の運動会の日だった。
1年1組は出だしから調子がよく、2位を大きく引き離して先頭を走っている。
1組の生徒は大盛り上がりで大声で声援している。
アンカーにバトンが渡った。
1組の全員が勝利を確信していた。
そのはるか後ろに2位3組、3位2組と続き、両クラスともアンカーにバトンが渡った。
すると全校生徒から「おーーー」と大歓声が上がり始めた。
3位でバトンを受け取った2組のアンカーが、すぐさま3組を追い抜き、すごいスピードで1位を走る1組のアンカーを追い上げていた。
ソラは陸上競技には詳しくないが、それでも、その走る姿の美しさにみとれた。
そして、ついに、全校生徒がまさかと思ったことが起きた。あれだけの差を追い上げて、ゴールテープの直前で1組のアンカーを追い抜き、1位でゴールテープを切ったのだ。
全校生徒の歓声は鳴りやまない。1年1組の生徒のみ、「あーーー」とか「マジかーーー」などの落胆の声をあげていた。
ソラの横にいた同じクラスの長谷川恭子も悔しそうに言った。
「あー、もう、何よあれ。アンカーまで1位だったのにー、あんなのありえないわ」
そして恭子はソラに言った。
「ねぇ、ソラ知ってるあいつ?1年2組の安藤カイ、陸上部。1年生ながら、この夏の県大会で2・3年生に混じって3位に入ったんだよ。やっぱりすごいね。」
ソラは、恭子が言った名前を復唱した。
「安藤、カイ、君」
ソラと恭子はS高で美術部に入っていた。
2人は秋の美術展に出展する絵を考えていた。
恭子はソラに聞いた。
「ねぇ、ソラどうする?」
ソラも悩んでいた。
「そうねぇ。何がいいかなぁ?」
ソラは美術室の窓から外を眺めた。
窓からは学校のグラウンドがよく見える。そこでは、いろいろな運動部が練習していた。
そして、ソラは何かをみつけて言った。
「うん、これにしよう」
ソラは、陸上部の男子が走っている姿を描いた。カイだ。
下描きができたところで恭子がのぞき込む。
「ほう、陸上部ですな。これって、ほおー」
恭子はその絵が安藤カイであることがすぐにわかり、ソラに向けてニヤリと笑った。
ソラはあわてて取り繕った。
「いや、そういうのじゃないの。何ていうか、たまたま目に入ったっていうか」
ある日、1年2組が芸術の授業を行った。
カイは美術を選択していた。
授業中に、ふと目に留まったものがあった。美術部の制作中の絵だ。
その中に、陸上部の男子を描いているものがあるのを見つけた。
横にいた、陸上部の友達が言う。
「どうした?お、これ、お前じゃん。すげぇ、お前の走り方上手に描けてるよ」
カイはその絵の作者を見た。
「蒼井ソラ」
ある日、ソラと恭子は学校の廊下を歩いていた。
廊下の曲がり角に差し掛かったところで、ソラは他の生徒とぶつかりそうになった。
「あ、ごめん。大丈夫?」
相手の男子生徒が心配して言った。
「あ、はい」
ソラは少しびっくりして、そういった。
その時、ソラは未だ気付いていなかったが、男子生徒は安藤カイだった。
カイはぶつかりそうになった女子生徒の名札を見て、思わず名前を声に出した。
「あ、蒼井ソラ、さん…」
ソラは名前を呼ばれて上を見上げる。今、目の前にいるのがカイであることに気付いた。
途端にソラは動揺した。
「あ、ごめんなさい。本当にごめんなさい」
動揺しすぎて、とにかくあやまるソラ。
カイは少しそれが微笑ましく思えた。
「そんなにあやまらないで。不注意だったのは僕の方だし。でも、怪我がなくて良かった。びっくりさせてごめんね。」
笑顔でそういうと、カイは去って行った。
ソラは、あまりにも突然な、カイとの大接近と会話に顔が真っ赤になり、気を失いそうだった。
それを見た恭子は言った。
「あんた、ホントわかりやすいわね」
佐倉桃花は陸上部のマネージャーである。中学校の時からカイと同じ陸上部でマネージャーをしている。クラスもカイと同じ1年2組。とても美人で、陸上部の男子の間ではマドンナ的存在である。彼女は中学の時からカイに想いを寄せているのだが、カイは彼女のそんな気持ちには一切関知せずで、それをじれったく思っている。
先日のことがあってから、カイは、廊下ですれ違うたびに「おはよう!」とか「やぁ!」といった感じで、ソラに軽く挨拶をした。
ソラはそのたびに頑張って挨拶を返そうとするのだが、真っ赤な顔で、うつむき、小さな声になってしまう。
むしろ横にいる恭子のほうが「おーっす!」と気軽に挨拶を返していた。
「あんた、さすがにモジモジしすぎよ!何だか私のほうが仲良くなってんじゃん!」
と恭子が笑いながらソラに言う。
ある日、桃花が廊下を歩いていると、向こうから歩いてくるカイをみかけた。
カイに気付いてもらおうと手を挙げる。
すると、自分の前を歩いていたソラにカイが「やぁ!」と笑顔で挨拶した。
その時の、ソラに対するカイの目線に違和感を感じた。
すごく不愉快だった。
ある日の放課後、ソラがいつものように美術室に向かって歩いていると、3人の女子生徒が廊下で話をしていた。その中に桃花がいた。
桃花はソラが通り過ぎるタイミングに合わせて、他の2人に言った。
「この前ね、カイが言ってたんだけど、1組に気持ち悪い子がいるんだって。美術部の女子らしいんだけど、カイの絵をこっそり描いたり、いつもチラチラ見て怖いって言ってた」
それに他の子が反応する。
「えー、マジで、やばいよ。それ、ストーカーじゃん」
ソラは下を向いて歩くスピードを上げた。早くその場から立ち去りたかった。とても惨めな気持ちになった。
ソラはそのまま、美術室へ行った。絵を描くためキャンバスに向かったが、さっき廊下で聞いた言葉が頭から離れず集中できない。涙が出てきた。止まらなくなった。
それに気付いた恭子は
「え、おーい。どうした、いきなり?」
とあわててソラのそばに行く。
ソラはしばらく泣いてとても話が出来なかった。しばらくして少し落ち着いたソラは、さっき廊下で聞いたことを恭子に言った。
「ソラ。誰が言ったか知らないけど、そんなの絶対に真に受けないで!」
とソラの両肩に手を置いて言った。
恭子は、カイもソラに気があると感じていた。だから、そんなことを言う奴は、カイのソラへの気持ちに気付いて、嫉妬している女の意地悪だとすぐにわかった。
恭子の励ましの甲斐もなく、ソラはとても落ち込んだままだった。
しばらく考えた恭子は、良いことを思いついた。
次の日、恭子は、放課後に、ソラ、カイの両方を教室に呼び出した。お互いのことは言わずに。
先に教室に来たソラは窓からグラウンドを眺めていた。陸上部の中にカイの姿は見えなかった。
「カイ君、今日は部活休みなのかな?」
と思っていた。すると、後ろから教室のドアが開いた。
恭子が来たと思い、ソラは振り向いた。そこにはカイが立っていた。
ソラは驚いた。カイも、呼び出した恭子ではなくソラがいることに驚いた。
カイが言う。
「長谷川さんに呼び出されたんだけど、見た?」
ソラが答える
「恭子が?」
さすがにソラもこれは恭子の仕業だとわかった。同じくカイも。
二人の間に、しばらく沈黙が続いた。
少しして、カイが話しかけた。
「あのさ、去年の秋にね、たまたま、蒼井さんの絵を見たんだけど…。」
ソラは展示会の絵のことだとすぐにわかった。
「ご、ごめんなさい。勝手に描いちゃって。気持ち悪いよね。悪気はなかったの」
とっさにあやまった。
するとカイが言った。
「そんなことない。すごく、上手だったよ。そして嬉しかった。」
ソラはびっくりした。まさか、そんなことを言ってもらえるなんて…。真逆の反応を想像していた。
そして、ソラは、少し勇気を出して、先日、廊下で言われたことを確かめてみた。
「あの、誰かが話してたところ聞いたんだけど、私のこと、その、怖いって…。」
ソラは少し下を向いて言った。
ソラとしては力をふり絞って言葉を発したのだが、聞こえるギリギリの声だった。
カイはしっかりと聞き取り、すぐに答えた。
「誰が言ったの、そんなこと?そんなの許せない。絶対そんなことはない。絵が嬉しかったのだってホントだよ!信じて!」
ソラの顔をのぞき込んで、眼を見て言った。真剣な顔だった。
ソラの眼には涙が潤んできた。同時に、こんな顔をカイに見られたくないと思い、とっさに両手で顔を覆った。
もう一度カイは言った。
「ホントだよ」
顔は覆ったままだが、ソラはカイの言葉を信じようと誓った。
ソラは涙で声が出せなかったが、必死で「うん」と言い頭を縦に振った。
カイが、何か次の言葉を言おうとしたとき、陸上部の友達が教室に入ってきた。
「おーい、カイ。何してんだよ。行くぞ、みんな待ってるぜ、回転ずし食いに行こうぜ!」
カイは言いかけた言葉を言い切れず、友達に連れて行かれた。
季節は2月。バレンタインの季節となった。
恭子はソラに言った。
「あんた、バレンタインチョコ作って、カイ君にあげなよ」
ソラは、チョコレートをカイに渡すなんて、考えただけで頭がクラクラした。しかも手作りチョコなんて…。
「私、むりよ~、そんなの~」
そんなソラに恭子は
「大丈夫よ。男なんて、チョコもらえばいちころよ!私がサポートしてあげるから安心しなさい!」
と言って、背中を軽く叩いた。
ソラは恭子にすすめられるまま、手作りのチョコレートを作ることを決めた。
「はぁ、ハードル高いなぁ」
とため息をつくソラだった。
しかし、書店の調理コーナーでお菓子作りの本を買い、その本に書いてある材料を買って手作りチョコを作った。味見用に作ったもう一つのチョコを、恭子と二人で味見した。
恭子は言った。
「うん。ソラ、上出来だよ。カイ君、絶対喜んでくれるって!」
ソラは自信なさげにポツリと言った。
「そうかなぁ…。」
そしてバレンタインデーの日、ソラは思い知った。チョコレートは作るより渡すほうが何万倍も難易度が高い。
ほとんど一日中、カイのそばには誰か友達がいて、渡すチャンスなんて、そう簡単にみつけられない。
いざ一瞬チャンスが来たと思っても、気もちがひるんでしまい、勇気を奮い立たせている間に、カイはまた他の友達と合流してしまう。
チョコレートを渡せないまま放課後まで来てしまった。
「はぁ、もうダメかなぁ…」
と言うソラに恭子は言った。
「あんたホントに、気が小さいわねぇ」
ソラは反論できない。
と、そのとき、恭子が言った。
「チャンス到来!」
学校の中庭でカイが一人でいるところに偶然遭遇したのだ。
恭子がソラの背中を押して言った。
「ソラ、行ってきな!」
背中を押されたソラは、カイのほうへ向かってよろよろと歩き出す。
すると、後ろから走ってきた誰かがソラを追い抜いてカイのところに行った。桃花だった。
追い抜くときに、故意にソラにぶつかり、ソラは転倒した。
その拍子に、ソラは持っていたバッグに乗ってしまった。
いやな予感がした。恐る恐るバッグの中を見ると、やはりチョコレートは無残にも割れていた。
ふとカイの方を見ると、桃花がカイにチョコレートを渡しているところが目に入った。
カイがふとソラに気付き、目が合った。
ソラはとっさに、走ってその場から立ち去ってしまった。
学校を出たソラは、学校からの帰り道にあるショッピングモールにいた。ショッピングモール内のファーストフード店で、しょんぼりとスムージーを飲んでいた。
一緒にいた恭子がぼやいた。
「なんであそこでぶつかってくるかなぁ、あの女!チョーむかつく!」
一方、ソラは深く落ち込んでいた。
「私、やっぱりダメだ~」
少し間をおいてさらに続けた。
「でも、チョコ渡すの怖かったから、ちょっとホッとしたかも」
しばらくそんな会話を繰り返したところで、恭子がトイレ行くため席を離れた。
恭子が席を離れた後、ソラはバッグから割れたチョコレートを出して眺めた。眺めながら深いため息をついた。そして、
「せっかく作ったし、家に帰って自分で食べよかな」
と独り言を言った。
すると、突然上から手が伸びて、その手がそのチョコレートをとりあげた。
ソラは恭子だと思い言った。
「欲しかったらあげるよ」
すると
「やった!もう、もらえないかと思ってた」
恭子の声じゃない。男子の声だ。
ソラが振り向くと、そこには笑顔のカイが立っていた。
「ね。いいかな?」
ソラと目があったカイが言った。
ソラはあわてて言った。
「でも、これ、割れちゃってるよ」
カイはやさしく答えた。
「割れてても大丈夫。蒼井さんからチョコもらいたい。ダメ?」
と言うカイのどストレートな言葉に、さすがのソラもカイの気持ちが伝わった。ソラは嬉しくて涙が出てきた。
泣きながらソラは必死に答えた。
「うん」
カイはそんなソラをそっと胸に抱き寄せた。
学校の中庭でソラたちが立ち去った後、桃花はカイにチョコレートを渡そうとした。
「カイ君、私のチョコレート、受け取って、、、くれるよね?」
と言う桃花にカイは聞いた。
「これって義理チョコ?」
桃花は即答した。
「本命だよ」
少し間をおいてカイは桃花に言った。
「ありがとう。でもごめん。オレ、実は好きな子がいて、これ、もらえないや」
一瞬桃花の顔がこわばった。すごく長く感じられる一瞬の後、桃花は少し意地悪な笑顔にかわって言った。
「うっそ。義理チョコだよ。これ、カイにってわけじゃなく、陸上部男子全員にあげるために作ったんだよ!部室に持っていくわ!」
そして桃花はカイに背を向けて走って行った。
カイには見せなかったが、桃花の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
本作品も、最後まで読んでいただいて、本当にありがとうございました!




