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第3章 断罪の前日 第1節



第3章 断罪の前日 第1節


「――・エリザベート・クラウゼンハルト公爵令嬢。

これ以上、君の振る舞いを見過ごすことが、できない」


……あら。


今、殿下はなんとおっしゃいましたの?


視線を向けると、そこには見慣れたはずの婚約者――

この国の第一王子である殿下が、壇上に立っていらっしゃいました


けれど、そのお顔は、


遠い記憶の中にある、あの穏やかな、時折はにかむような笑顔をみせていたあの頃の殿下とは程遠い…


……あれ?…また…ですの?


何度目かもわからないセリフ


なぜ忘れていたのでしょう、日常の忙しさに追われていたとはいえ


忘れてはいけない…はずだったのに。


「よって、ここに宣言する。

君との婚約は――破棄、だ」


……ああ。


しっていますわ、この後に聞こえる言葉も


どうして、忘れてはいけないはずだったのに


「おい、聞いているのか?」


声がする方に意識を向けます、


やはり殿下の護衛の方ですわね、


なぜメガネのサイズを直されないのかしら


相変わらずの眼鏡を直すしぐさでこちらを厳しげに見つめておられます


そうして改めて周囲を眺めてみると


殿下のお隣には、


…ああ、あの方ですわね


半年ほど前に、わたしが今の夢に目覚める少し前に編入されてこられた


ピンクの派手な髪に、それに合わせたドレス、


胸元には…ええ、お似合いですわその碧いペンダントも


今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で、


けれどしっかりと、殿下の腕に縋っています。


…あの方…笑っておられないかしら?


いえ、見間違いでしょう…


それにしても


……親切ですのね殿下


そんな感想まで、

なぜか

自然に、浮かびました。


そのまま周囲に居られる方を見渡すと、


そう、そうですのね、皆さまは、ご存じでしたのね


その、表情を見ればこれが茶番なんだろうとは想像が付きます


…なぜだか…今回は、以前より落ち着いていられますわ


「エリザベート。君はこれまで、この者に対し数々の嫌がらせを行ってきた」


「学園内での中傷、孤立化、器物破損、階段から突き落とそうとした件……」


…わたしには身に覚えのないことのはずです。


でも、わたくしは


そんなこと……いたしましたかしら


しかし

一瞬、

そんな考えが、頭をよぎります。


罪状を聞きながら、

わたくしは、

また、首を傾げそうになっていました。


「何か言い分はあるか」


そうね、あの時のマルタたちの話をもっと理解していれば…


ここで何か言い返すこともできたのかしら


いえ、今更そのようなことを考えても


けれどきっとわたくしは、この場では何もできないのでしょう


「……いえ……覚えは、まったく……」


やはり、そう口にしかけた瞬間。


「もういい。これ以上の弁明は不要だ」


殿下の声が、わたくしの言葉を切り捨てました。


……


ええ、わたしが知っている通りでしたわ


お芝居を、見ている訳ではないのですわね


出来の悪い、


見る度に役者や台詞が変わっていく、


何処かまとまりのない安い芝居。


なんだかふと、そんな考えが浮かびます


ふふ、笑っているのでしょうか。


いえ、きっと皆には、


何事も動じない公爵令嬢と映っているのでしょう。


なんだかそんな気がするのです



########################################



そうしているうちに


殿下の護衛の方々が、


わたくしの背後に立ちます。


その手が、わたくしの腕を取ろうとしますが、


「けっこうです、自分で歩けますから」


毅然とした態度で言い切ります


…この方たち力が強くて痛いんですもの…


以前も腕が赤くなったまま治りませんでしたのよ?


もう行く場所も知っていますから付いてこなくてもいいくらいですわ


あ、そうだわ


少しゆっくりと歩けば…あの方、


ふふ、どのようなお顔で来られるのかしら


そう思っていると


ホールから控室につながる扉が、バンッと開きます


あ、来られましたわね


「ちょっと――!!」


甲高く、

よく通る声が、

会場の奥から響きました。


ふふ、凛々しくて素敵ですわヴィー様


「どういうことですの!?

いくらなんでも、

それは…やりすぎで…は…ありませんこと…?」


なんだか後半は首をかしげておられましたが


おぼえている台詞ですわ


「これは、ヴィオレッタ様、ごきげんよう」


淑女の礼をとりながらも、つい笑みがあふれてしまいますわ


「ちょっとエリー!、どうなってるのよこれ!」


「ええ、ちょっとした行き違いだと思うのですけども…困りましたわねぇ」


「あまり、困っているようには見えないのですけど…大丈夫なのよね?」


「それは、わたくしでは何とも」


ヴィー様とそんな会話をしておりますと


「何をしている!早く連れていけ!」


煩い眼鏡ですわね…


「申し訳ございませんわ、ヴィー様。わたくし行きませんと」


「あなた、ほんっとーに大丈夫なんですわよね?」


「ええ、安心してくださいませ、また会えますわ」


…別の夢かもしれませんが…会えるはずです


「ほら、早くいけ」


護衛の方に押し出される形で、ホールを後にします


心配気に見つめるヴィー様の事は心残りですが


予感はあるのです、


たとえ、たとえ、名は違えども、


ヴィー様となら何度でも




##############################



やはりこの後の事は、


思い返してみてもぼんやりとしか覚えていないのです


薄暗い廊下。

重たい扉。

鍵の音。


何度目かも分からない、質素な部屋。

貴族として最低限の待遇なのでしょう。


その後何日過ぎたのかはわかりませんが


誰も会いに来る者もおらず

誰にも会えず

何も知らされることもなく


わたくしがここにいる間に

何かが起きているのでしょうか


恐怖はあります

けれど以前ほどではありません


今のこのわたくしがこのままどうなるのかはわかりませんが


きっとまた夢から覚めるのではと、思うことで

少しは恐怖も和らぎます


そうなると、少し他の事も考えられるようになり


エミール、結局パーティでは会えませんでしたけど

生徒会長として張り切っていたのに残念です、

特別な企画…楽しみにしていましたのよ?


マルタにリディア、あなた方の忠告をもっと聞いておくべきでした

でも、後悔はないのです

どうしてもわたくしは

この結果になっていたと何故かそう思えるのです


両親、わたくしが投獄されたことで、

ご迷惑が掛からなければいいのですが

きっとあのお二人の事ですから、

最後までわたくしの事を信じて…陛下たちと揉めなければいいのですが


エマ様、あの時あなたが教えてくれたことを

もっとわたくしが真摯に受け止めていることが出来ていれば…


ヴィー様、

ふふ、また夢が覚めたらすぐに会いに行きますね


そうして、わたしが思考の海に深く潜っていくと


そのまま、また世界は…


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