第2章 二度目の断罪 第4節
第2章 二度目の断罪 第4節
翌朝…
次の日ですわよね?
何か嫌な夢を見ていた気がいたしますけれど…
いえ、
夢であったらどれだけよかったことか
部屋を見渡しますが昨日と変わった様子はありませんわね
もしかして、今までも気が付いていないだけで…
思考が深くなろうとしたその時に
トントン、ノックの音が聞こえます
いけませんわ、切替ませんと
「お目覚めでございますか、エリザベート様」
アニーと言ったかしら昨日のメイドが入ってきます
少し…ほんの少しですけれど…表情が柔らかく感じることは、気のせいではないのでしょう
「おはよう、アニー」
「おはようございます、お嬢様」
決して表情は崩さないけれど、
いつもより少しだけ柔らかな空気が流れている気がします
身支度を任せ朝食の場に出ると
「姉上!」
あら、わたくしを姉と呼ぶということはこの方が弟になるのでしょうか
「姉上、昨日は体調がすぐれなかったみたいですが、大丈夫なのですか?」
何処か落ち着きなくわたくしに問いかけてきます
「エミール、まずはおちつきなさい、朝の挨拶がまだでしょう?」
母の席にいる方が弟…エミールと言うのでしょう、をたしなめます
「いえ…はい、…おはようございます、姉上」
「ええ、おはよう、ですわ…エミール…」
自信無さげに名前を呼んだことに気づいたのでしょう
「姉上?少し様子が、やはりまだ体調がっ!」
そう言って席を立とうとします
「…エミール」
「しかし母上!」
「少し落ち着いたらどうですか、まだ家族の朝の挨拶も終わっていませんのよ?」
母がやさしく諭します。
「はい…そうですね」
立ち上がりかけていた彼は、席に座りなおします
「その辺にしておきなさい、エリーも困っているだろう」
家長だけが座ることを許された席で、父…が優し気にエミールをたしなめます
「それで、エリー、身体の方はどうなの?昨日帰ってきたときに比べればよくなったように見えますけど」
母…にそう問われます
「ええ、あのままぐっすり眠ってしまったおかげで、今日はずいぶん気分がよろしいですわ」
嘘ではないですわ…いったいどれだけ寝ていたんだかわからないほどですもの
「昨日の朝、あまり顔色がよくはなかったから、やはり休ませればよかったわ」
母の気遣いが心に響きます
あぁわたしがもっと、この方たちを家族と、そう思えることができれば…
「すこし、最近忙しかったもので…疲れが溜まっていたのだと思いますわ」
「それなら、卒業まであと半年ですもの、少し王妃教育を減らしてもらうようにお願いしておきましょうか?」
…王妃…わたしが…なれるのかしら
「ふん、殿下も婚約者の体調が悪いというのに何をしていたんだか」
「エミール!」
「はい…口が過ぎました…」
「…わかればいいのです」
殿下と何かあったのでしょうか、母に言われておとなしくなりはしましたが
エミールの顔は何処かもの言いたげなものでした
「さあ、朝食が覚めてしまうよ、せっかく用意してくれた料理長に怒られてしまう」
父の言葉で、食事に戻ります
そういえば昨夜は何も食べていませんでしたわね
あれ?お昼から…食べてない?
わたし昨日の朝から何も食べていませんでしたわ…
ショックですわ…
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「姉上、わたしは先に学園に向かいますが…無理はしないでください」
朝食の場とは違い気遣うような表情で、エミール、弟が話しかけてきます
「ええ、大丈夫ですわ、ありがとう、エミール」
「なんだか久しぶりにお話をしたような気がしますが…生徒会は忙しいのですか?」
「いえ、引き継ぎも大体終わってはいますし…あとは学期末の卒業パーティーの準備をそろそろ始めるくらいです」
その言葉に少し心臓がドキッとします
卒業パーティー…また…
「姉上?どうか?」
少し頭を振って嫌な考えを飛ばします
「ええ、もうそんな時期なのかと…わたくしも卒業する側ですから、
ふふ、エミールがどんな企画を立ててくれるか楽しみにしていますわね」
「…ええ。ぜひお任せください」
一瞬…ほんの一瞬ですがエミールの顔に
影が差したように思えましたが…
きっと見間違えでしょう、少し過敏になっていましたわね
「では、お先に、いってまいります」
「ええ、いってらっしゃい」
そうしてエミールを送り出し、自分の身支度に戻ります
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馬車に揺られ、
車窓のカーテンを閉めて、外を見なければ、
もう何度目かもわからないくらい、走りなれた道を行きます
そう、
目に見えるものを気にしなければ…
やがて学園に着き馬車を降りると
「おはようございます、エリザベート様」
「…おはよう」
昨日、ガゼボに迎えに来てくれた二人、マルタとリディア
が馬車寄せまで、
迎えに来てくれています
「ええ、ごきげんよう」
「エリ様…カバン持つ…」
リディアと呼ばれる方が、手を伸ばしわたくしのカバンを運ぼうとしてくれます
やはりこの二人が、お父様から将来の側仕えになるように
わたし付けられたあの二人で間違いないのでしょう
「ありがとうございます、…リディア」
「ん」
言葉は少ないですが、思いやりにあふれた優しい方、
何よりわたくしをエリ様と呼ぶのは一人だけですわ
「じゃあ私はエリザベート様を抱っこして運びましょうか」
笑顔でこう言う彼女は、奔放な性格ですがわたくしの事をよく見ておられて
細かい気遣いもできる方、きっと今のも少し元気の無い様に見えるわたくしを励まそうとして
と考えていると
って。え???
ちょっとまって
突然わたしの体が持ち上げられ
気が付くと…これ…いわゆるお姫様抱っこと言うやつでは
「ちょっちょっと…おろしてくださいまし!マルタ…マルタさん!
おろしてくださいましっ!」
「えぇ~、何も言わなかったから、抱っこしてほしかったのかと思いました」
とてもいい笑顔でこう言うマルタさん…
やはり別人でしたのかしら?
少し驚きはしましたが、落ち着きを取り戻し
「どういうことですかっ!」
いけません、わたくしらしくもない、声をあらげてしまいましたわ
「ふふ、少し元気になられましたね」
「うん、エリ様、元気なかった」
…まったく…ほんとにまったくですわ
この二人の心遣い…
いえ、もっと他にやり方があったはずでは?問い詰めた方が?
「こほんっ、今回は許します、二度とやらないように、いいですわね?」
「は~い、わかりました~」
マルタは聞いているのどうか怪しいですけど、
「…私は無理」
リディア、それはあなたの体格では
わたしを持ち上げるのが無理と言うことでいいのですわね?
…まあいいでしょ
「それより、そろそろ鐘が鳴るころでは?教室にいそぎますわよ」
なんだかいろいろ考えていたことも忘れるような出来事で
少し気が楽にはなりました
「…ありがとうございますね…」
「何か言いましたか?エリザベート様」
「何でもありませんわ」
こうしてあわただしく教室に向かうのでした




