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第2章 二度目の断罪 第2節




第2章 二度目の断罪 第2節


……柔らかい。


最初に感じたのは、そんな感触でした。


……少し、寝過ぎたかしら


……あら?


目を開けると、視界いっぱいに広がるのは、白い天蓋。

見慣れたようで、けれどどこか違う装飾。


…あら?あら?


心臓の音が、だんだんと早く、大きくなるのが分かります


「どういうことですのっ!」


叫びました……


ええ、叫びましたとも


どういうことですの?


これは


本当に……どうなっていますの?


がばっ、とベッドから飛び起き


部屋の中をぐるぐると、それはもうぐるぐると


どういうことですの…どういうことですの


ぶつぶつとつぶやきながら部屋を徘徊するわたしを、

誰かが見たら、さぞや滑稽だったことでしょう


違う部屋。

違う天井。

違う空気。


……落ち着きなさい、わたしは、エリザベート


わたしは、エリザベートですわ……


そう、わたくしに言い聞かせようとして…


その時ふと、ある声が、思い出されます。


「どういうことですの!?

それは、あまりにも――!」


……あぁ。


……そうでしたわ


あの方。


会場で、

声を荒げていらっしゃった、

金髪縦ロールの――

少し騒がしい、あの方。


……あの声が、聞こえましたのよね


……大丈夫ですわ


理由は、分かりません。


けれど、あの声を思い出すとわたしはまだ…


そうして少し落ち着いたところで足を止めるとふと、鏡が目に入りました


そこに映る姿は…


ああ、間違いない、わたくし…エリザベートですわ


その時


コンコンと、扉が控えめにノックされます。


「お目覚めでございますか、エリザベート様」

「何か大きな声が聞こえてまいりましたが…?」


入ってきたのは、

やはり……知らない方。


メイドの服装はしていますけれど、

お顔も、声も、

昨日までの記憶とは、違います。


けれど。


今度は……慌てていませんわね、わたくし


「……おはようございます」


自然と、

そう言葉が出ました。


「少し汗をかかれておられるようですが、体調はいかがでございますか?」


「ええ……少し、

悪い夢を見ていただけですわ」


そう答える自分が、どこか他人のようで。


……いえ


……これが、

いつもの、わたくしですわ


メイドに身支度を整えてもらいながら

鏡の中の自分を、

じっと見つめます。


髪も、

顔立ちも、

変わっていません。


……なのに


部屋の調度品。

空気。

匂い。


…違いますわね


朝食の席には、

父と、母と呼ばれる方がいらっしゃいました。


優しい眼差し。

気遣う言葉。


「おはようエリー、メイドに聞いたけど怖い夢を見たんだって?」

「まぁ。エリー本当に大丈夫なの?身体がすぐれないのならお休みしてもいいのよ?」


「……大丈夫ですわ」


……ありがとうございます


この会話だけで、この方々がわたくしの両親であると分かります


けれど…


そんな、

少しだけ、

失礼な考えが、

頭をよぎります。


ごめんなさい


でも……


……やはり、違うような気が…して…


“両親”であることは、

疑いようがないのに。


……前にも、こんなことを、考えましたかしら


答えは出ません。


けれど今回は


……少しだけ、冷静でいられますわ


「学園へ、行ってまいります」


朝食後、支度を終えると学園へ向かいます




いつものように……馬車に揺られながら


馬車の窓から外の景色も眺めると…教会の場所は…建物は少し違いますが

たしか広場の…同じ場所…ですわね


また、違うようで、どこか似ているこの景色、


…どうなっているのでしょうか


思案しながら、膝の上で、手を重ねました。


……もし


……今回も、同じだとしたら


胸の奥が、

小さく、

ざわめきます。


……でしたら


いえ、それならばこそ


……確かめなければ…なりませんわね



やがて学園の門が、見えてきました。


帝都の中心近くにある、初等部、中等部、高等部の建物をその敷地に収め


国中の貴族たちの子息子女が集う場所、


一部庶民の方もおられるようですが


帝都最大の学園


わたくしが通う中等部もあと半年程で卒業…


卒業になるはずで…


思案にくれるわたしをよそに馬車はその門をくぐるのです




##########################################




いつもと変わらぬ時間に馬車は止まります


…着きましたわね


御者に手を引かれ、馬車を降りると


そこには、知っているはずなのに見知らぬ景色が広がっています


そこにあるものは同じ

でも外観が違う


まるで外側だけ書き換えたかのように


そこにあるものは変わらない

なのに見えているものは違っている


前を向きながら歩きつつ、注意深く周りの様子を伺います


はっきりと覚えているわけではありませんが


やはり


石畳

花壇に活けてある花々

奥に見える校舎


あるものは変わっていない。

変わっているとしたら、それは……


ゆっくりと歩きすぎたのでしょうか


追い抜かれざまに、生徒たちが次々と声をかけてきます。


「おはようございます、エリザベート様」

「ごきげんよう、エリザベート様」

「おはよう、エリザベート様」


「ええ、ごきげんよう」


不審に悟られぬよう、挨拶を交わしていきます


そうしてしばらく歩いていると


「おーほっほっほ!」


聞き覚えのある高らかな笑い声が響きます


扇子で口元を隠しながら、わたくしを視線に定めて。


「おはようございますわ、エリザベート様」


しっている


……間を置かず、彼女は続けます。


「本日も良き晴天に恵まれて…」


しっているわ


……様子を窺うように声色を変え


「エリザベート様?どうかなさいましたの?お加減でも…?」


わたしはこの方を


……困ったように、首を傾げてみせる


「えっと…?エリザベート様~、聞こえていらっしゃいますか~?」


しっていますわっ!


少し戸惑いながらわたくしにあいさつをする彼女を、わたしは――


「ヴィー様!!」


わたしの言葉で周囲がざわめきますが、わたしの耳には入りません


懐かしい金髪縦ロールにその尊大な態度


でも知っていましてよ


あなたがどんなにお優しいのか


あなたがうちの弟に好意を持っていることも


いつも素直になれずに強がってしまうところも


しっています、しっているのです


このときわたしは…らしくないと思います…


でも、何も考えられませんでした


思わず駆け出し、彼女に抱き着いてしまうのでした


「ヴィー様…」


「ちょっと!!どうされましたのっ!!エリー様!いえ、エリザベート様!!」


わたしは彼女の言葉も耳にはいらず、ただそこにいる


わたしが知っている、


この彼女を手放すことなどできなかったのです




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