第4章 変わらぬ断罪 第8節
第4章 変わらぬ断罪 第8節
……柔らかい。
最初に感じたのは、そんな感触でした。
……少し、寝過ぎたかしら
あ、いつものですわねこれ…
「またですのっ!」
いい感じで退場して
今回もお芝居でしたら、
拍手喝采で幕が下りる流れではございませんでしたの?
「もうっ!まったくっ!」
何度目かわからない目覚めを迎えると
手元に有った枕を、ぽすんぽすんとベッドに叩き付けるのです
そうしていると
コンコンっと扉が開きます
その瞬間、
「アニーっ!知っていることを全部吐きなさい!!」
そのまま枕を部屋に入ってくる見慣れたメイドに投げつけるのです
「うひゃっ!急に何ですかお嬢様っ!
って、あれ名前?ご存じでしたか?」
「いいからこちらに来て座りなさいっ!」
「は、はひっ!」
そうしてベッドの側の床に座らせると
わたしもアニーの正面に座りじっと見つめます
「あなた…絶対何か知っていますわよね?」
「お嬢様…そんなに見つめられますと…照れます」
呆けたことを申すメイドの肩をしっかりと掴みさらに問います
「いいから、どういう状況なのかすべておしえなさい!」
「ええぇ、そう言われましても…お嬢様と見つめあっているとしか…」
妙にもじもじとして答えるこのメイドをどうしてやろうかと考えますが…
「本当に、心当たり有りませんの?」
「お嬢様が何を仰っているのかさっぱりなんですが…」
嘘では…ないようでわね
「わかりました。信じることにしましょう」
「よかったです、と言うか、何かあったんですか?お嬢様」
うぐ、また言い訳を考えなくてはいけませんのね
「ええ、ちょっと、夢見が悪かったのか…、
おかしな疑いをかけて申し訳ありませんでしたわ」
もう、本当に何度目かしら便利ですわね、夢
「そうですよ、そう何度も通用しませんよ夢」
ええ、そうですわね
何かおかしい気がしますが、まぁいいでしょう
「それより支度をお願いしますわ」
「はい、急ぎますね」
結局、アニーはなぜ変わらないのか謎は解けず、
いえ、気が付かないだけで変わりない人は他にも居るかもしれませんし
そもそも、まだ目覚めたばかりで両親ともお会いしていないのです
結論付けるにはまだ早いでしょう
「さ、出来ましたよ」
考え事をしていてもてきぱきと身支度を終わらせる優秀なメイドではあるのですが…
素直に褒める気にならないのはなぜでしょうか
答えは出ないまま食卓に向かうのです
########################
朝食の場にはやはり知らない二人
とは言え両親であることには違いないでしょう
当たり障りのない挨拶を交わし
そんな短い言葉のやり取りだけでも
二人のわたくしに対する思いは伝わってくるのです、
断罪の後この方たちはどうなっているのか
わたしには知るすべもなく
どうか無事であっていて欲しいとの願いが届いていればと
そう思うのです。
###########################
朝食後、
登校までの時間に少しアニーに聞いてみました
「今朝の夢の話、ではないのですが、
もし、もしですよ
あなたが、同じ時間を繰り返す…なんてことになったら、
どういたしますか?」
アニーはわたくしの身支度をしながら思案するように答えます
「どういうことですか?それ」
「例えば…ですけど。
今から半年後に、何か悪いことをしたのか、何かで
処刑されて…その後気が付いたら、
今日だった…
それを何度も繰り返すのです」
「おかしな夢ですね、それは」
ええ、ほんとに夢でしたら…
「そんな状況にあなたが遭ったとしたらどうしますか?」
「それは、繰り返すのは決まってるんですか?
それで、いつ終わるかもわからないと」
「ええ。今の所はそうですわね…」
「そっかー。でもそれでしたら
私なら楽しみますね!」
少し悩んだ様子でしたが笑顔でそう言い切りました
「楽しむのですか?そのような状況なのに」
「ええ、もったいないじゃないですか
処刑されるのは、ちょっと怖いですけど…
生き返る?のとは違うのかな。
でもやり直せるのですよね?なんども」
「ええ。でもいつ終わるかわからないのですわよ?」
「だからこそですよ、
処刑されるのは決まっているのなら
残りの半年を、せめて普通の人が生きる一生分、
繰り返して楽しまないと損じゃないですか?」
なにかが、わたしの中で静かに崩れたような気がしました。
いいえ、壊れたというよりも、
これまで当然だと思っていた形が、
ひとつ、音もなくずれてしまったような。
…それは、
今までのわたしには、
一度も思い至ったことのない考えで
「そのような…考え方もあるのです…わね」
そう言葉にするのが精一杯でした
「でも、普通ならそこから抜け出す方法とか考えるんじゃないですかね
お嬢様の言う条件で、考えたら、の話ですよ
さ、支度できましたよ、先に馬車の手配してきますね」
そう言うとアニーは部屋を後にするのでした
#######################################
馬車に揺られながらも
今朝のアニーの言葉が頭から離れません
…楽しむの、ですか。
ええ、前回は十分…少し物足りなかったかしら?
十分楽しみはしましたけれど、
それは、また次にヴィー様がいない可能性を考えたからで…
いつ終わるのかは、わかりません
でもそれならば…
結末は同じなのです
変わらないのは、
繰り返しているというこの事実だけ。
いずれ終わりが来るのかもしれませんが…
改めて考えてみれば、
一つの結末にたどり着けばその間の半年は無かったことになるのです
たとえわたしがクラスを間違えて恥ずかしい思いをしようとも
それを覚えているのはわたしだけ
…それはそれで辛いのですが
目が覚めて半年の時間が巻き戻れば誰の記憶からも無くなっているのです
なぜそんな簡単なことに、
今まで目を向けてこなかったのか
いえ、気が付いてはいたのでしょう
毎回、皆の記憶が引き継がれていないことは把握していたのですから
でもそれを意識して行動はしてこなかった
…悔しいですわね。
簡単な事ですのに、
そう考えるとどうにも、落ち着かないのです。
しかもその気付きをもたらしたのがあのメイド…
素直に感謝すべきなのかもしれませんが
どうにも、あのメイドの言葉は
すんなりと胸に収まりませんの。
嘘をついているわけではないのでしょうけど…
まぁ、いいでしょう
ともかく、そろそろ学園に着きますわ
今回もおられるとよいのですけれど…ヴィー様
変わらぬ馬車の歩みに
かすかな期待を乗せ
学園への道を進むのでした




