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第4章 変わらぬ断罪 第7節



第4章 変わらぬ断罪 第7節




「――・エリザベート・エルンストラート公爵令嬢。

これ以上、君の振る舞いを見過ごすことが、できない」


……あら。


今、殿下はなんとおっしゃいましたの?


家名以外は、同じですもの


毎回、正直聞き飽きましたわ


何もするつもりもありませんから早く終わってくれないかしら


「よって、ここに宣言する。

君との婚約は――破棄、だ」


よかったわ…


今更、婚約は破棄しませんなどと


言われたほうが、どうしたらいいのかわかりませんわ


「おい、聞いているのか?」


「…うるさいですわね、糞眼鏡」


思わず小声でつぶやいてしまいました…


危ないですわ。聞かれては…いませんわね


聞こえていなかったのか、台詞が無いのかわかりませんが…


ええ、ええ、相変わらず殿下の横にはピンクがべったりと


後ろには眼鏡と筋肉、いつもの護衛ですわね


まわりには先生方や高位そうな貴族の方々


結局あの方々は誰なんでしょう


相変わらず三文芝居でも見るような退屈そうな表情をされていますわね


「エリザベート。君はこれまで、この者に対し数々の嫌がらせを行ってきた」


「学園内での中傷、孤立化、器物破損、階段から突き落とそうとした件……」


中身の無い罪状も何一つ変わりません


せめて偽装ぐらいしたらどうなのかしら…


その時です


凛と響いた声が


わたしの思考を断ち切ったのです 


「何をおっしゃっているのですか殿下っ!」


それは、わたくしの隣で


凛々しく


気丈で


毅然と声を上げたのです


「エリザベート様はそのようなことは一切なされておりませんわ

 それはこのわたくし、

 侯爵令嬢ヴィルヘルミナ・ヴァイスフェルトが

 この名のもとに証明いたしますっ!」


ざわりと会場が揺れたかのようでした


「ヴィー様…」


「何を黙っているのですエリー

 あなた、常にわたくしと一緒にいて、

 そんなつまらない嫌がらせをする暇なんてありましたの?」


「いえ、わたしはなにも…」


どういう事でしょう


ヴィー様がいるのはわかっていました


でも、ヴィー様の役割は


わたくしの去り際に声をかける程度


今のこの場面で声を上げるなんて今までありませんでした


殿下の様子は…変わりなく見えます


しかし、あのピンク


男爵令嬢の顔は前回よりもさらに驚愕の表情を浮かべています


そして


「あ、あなた、何言ってるのよ…そんな、セリフは……ど、どこにも」


はじめて声を聴いたのです


いつもはただ殿下の横に控えているだけだった男爵令嬢が


まるであり得ないものを見たような驚きの表情でぽつりと言います


そうすると


「黙りなさいっ!

 その口を開く許しを、誰から得たつもりですのっ!」


ぴしゃりと音がするような勢いで手にした扇子を男爵令嬢に向けると


ヴィー様がそう言ったのです


「男爵令嬢ごときが、このわたくしに対して口を利くなど

 身の程を知りなさい、この無礼者!」


…思わず、見入ってしまいましたわ


前回覚悟を決めていたわたしでも礼を失わぬよう言葉を選ぶので精一杯でしたのに


突然のこの場面でよくまぁこれほどの啖呵を言いきれるものです


それもわたくしのためにですわよ?


思わず抱き着いても許されるのではなくって?


ええ、今はダメだと言うのはわかってますわ…残念ですが


「殿下、学園生活の中で他の女生徒と親しくする程度なら許されましょう

 しかし、婚約破棄とはどういうことですか、

 殿下とエリーの婚約は陛下が、国が決めたこと

 それがそのような下品…コホンッ

 その令嬢にうつつを抜かして、陛下はご存じなのですか」


ヴィー様がまるでわたしの心情を代理するように殿下に提言します


…でもわたしは知っているのです


この筋書きを陛下はご存じない


この物語を書いたのは誰か別の者なのだろうと。


「…何、か…言い分は…あ、」


しかし、どうしたことでしょうか、


いつものように続くはずの言葉が何やら歯切れ悪く


殿下から発せられます、


「…も、もういい」


少しですが、


苦悶を浮かべるような表情で


続くはずの言葉を何とか絞り出そうとしているように思われます


「っく、殿下」


男爵令嬢が焦ったように殿下に声をかけると


殿下の顔に手を伸ばし、


近くで何かを言っているようでした


…あからさまに不自然な動きですわね


「もうよい、そこまでにしろ」


そうすると、殿下の背後から――誰かの声が響きました


「その者が、罪を犯したことは調べがついておる

 弁明の機会を与えてやるつもりであったが、もうよい連れていけ」


その声が、この茶番劇を無理やり終わらせるように言い切ります


「ちょっと、待ちなさい!まだ話はっ」


少し異様な空気を感じられて黙られていたのでしょう


ヴィー様が慌てて声を荒げられます


「ヴィー様、よいのですわ

 わたくしには身に覚えのない事ですもの

 すぐに身の潔白も証明されるはず、

 この場で、これ以上は…」


ごめんなさいヴィー様…そうならない事はわたしが一番よく知っているのです


「エリーあなた…

 ええ、そうですわね、あなたの言う通り

 あなたに罪が無いのはわたくしも存じるところ

 この名をもってわたくしもあなたの無実を証明して見せますわ」


「ヴィー様っ!」


ええ、我慢できませんでした…わたしはヴィー様を強く抱きしめるのです


「うぎゅ、だからあなた、急に抱き着くのはやめなさいと」


そう言いながらも優しく受け止めてくれるのでした


そうして、ヴィー様の感触を楽し…こほん


いつものように護衛の方が背後に近寄り


わたくしをヴィー様から離そうと手を伸ばされます


…本当に空気が読めない方々ですわね


わたしはとても残念…ええ、非常に残念ですが


ヴィー様から離れ


「結構です、一人で歩けますわ、

 逃げも隠れもするつもりはありませんから」


伸ばされた手を跳ね除け言うのでした。


ええ、そうですわね


今回はヴィー様に少し…少しかな?甘えすぎていたのは自覚しています


今までの様に役割を全うしていたとは言えないのでしょう


でもせめてこの場を退場する時くらいは、と


周囲を見渡しそして一礼してこう言うのです


「皆さま、お騒がせいたしまして申し訳ございませんわ

 公爵令嬢エリザベート・エルンストラートの名においてお詫び申し上げます

 残念ながら、わたくしはお先に退場させていただくことになりましたけれど

 どうか皆さまは、この後も楽しんでくださいまし

 なにせまだ、パーティーは始まったばかりですもの」


突然の事にいまだ動揺している学園の皆に


手本であった…わたくしの様に


落ち着きなさいと、そう言い聞かせるように


「それでは皆様、わたくしはこれで、

 失礼させていただきますわ」


ようやく少し落ち着きだした喧騒を後ろに、


そのまま会場に背を向け歩みだしました


「エリー…」


か細く紡がれるその声にも決してわたしは振り向くことはしなかったのです




###########################




綻びがありました


何をしようとも変わることは無いと


そう思っていたこの三文芝居にも、


それはヴィー様の行動のおかげなのか…


今までの断罪の時におられなかったヴィー様が


今回に限ってその場におられた


そのおかげか今までわたくしと殿下だけの会話


…いえ、眼鏡もでしたか…それは何も関係ありませんわねきっと


ええ、他に誰も会話に口を挟むことなどなかったはず


というよりは、わたしが何を言おうと


一方的に殿下が毎回同じ言葉を発しておられただけ


それがヴィー様が言い返されたことにより


あのピンクの男爵令嬢が焦って何かおっしゃって…


殿下も少し様子がおかしかった


はじめてこのお芝居が脚本とずれた…


その後どなたかわかりませんでしたけれど


強引に幕を引こうと声を上げられて


もしや、あの方が脚本家なのでしょうか…



ぼんやりとした頭であれこれ考えますが


うまくはまとまりません



しかし、根拠はありませんが


この程度の綻びでは結末自体は変わらないのでしょう


それは今わたしがこの部屋に居ることが証明しています



この芝居は


いったい誰が


何のために


わたくしを婚約者の座から追いやることも目的なのでしょうけれども


ただそれだけのため、では無いのでしょう


実際の婚姻は18になってから


まだ時間はあるのです


婚約を解消するだけならば


殿下が陛下に進言し認められればいいのです


…それは困難なのかもしれませんが


このような手段に出なくとも他に方法もあるはずでしょう


例えば他にも何か…例えば公爵家の没落なども


どれだけ考えても、


考えても答えなど分かるはずもありません


それはそうでしょう


わたしはそんな答えなどいらないのですから


わたしが欲しいものは


ただこの先の未来


そこには役割も立場もいらないのです


そうしてまた


思考に溺れるように沈み込むと


世界はまた…時を…




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