第3章 断罪の前日 第9節
第3章 断罪の前日 第9節
かわらぬと思っていたことにも
変化があることもわかりました
ただそれは、取り巻く世界が変わったというよりも
受け止めるわたしの方が変わったのかもしれません。
何度も繰り返してきたことですもの
学園の行事や取り巻く皆の行動も
わたくしが関ろうとすることで少しの変化を見せますが
結局は同じ流れに収束していくように思われます
ルチアにノエル、ソフィ様…
今回わたくしの協力をしていただいておりますけど
そのことで何か大きな流れが変わるような動きはありません。
ただ、少し不思議に思うところもあります
目覚めると最初に出会う、アニー
彼女自身は繰り返している事には気が付いてはいないようですけど
名前に、容姿、性格まで、
…少し以前より奔放な気もしますが、些細な違いでしょう
彼女は見た目も中身も同じ人物に思えます
それに学園、
建物の大きさや教室の数は同じで、
これまでは装飾が違う程度でしたのに…
何故今回だけ教室の並びが変わっているんでしょうか、まったく
中央ににある時計塔を中心として左右対称の建物ですが
その塔の中央にある階段を中心として左右だけが入れ替わっている
教室を間違えた理由を後に調べてみると
そのような事が分かったのです
それに、殿下とあの男爵令嬢も
殿下は顔のつくりは少し違いますけれど
金髪で碧眼、まとう空気は同じで
少し離れたところでお見かけしても殿下だとすぐわかります
男爵令嬢の方も、あのピンクの髪は忘れられませんわ
お名前までは存じ上げませんでしたけど
でも、あの方、なんとなしですけど、
以前と同じ方のような感じはいたします
そして、ヴィー様
あの劇場で観た、悪役令嬢
まるでヴィー様をそのまま演目にしたようなお芝居で
この世界にもヴィー様の存在は感じられました
でも、ヴィー様
わたしはあなたとお会いしたかったのです
それがこの世界で一番必要なものなのに…
同じように見えても、
今までのわたくしが気が付かなかっただけで
これまでにも、変わったものと
変わっていなかったものもあったのかもしれません
それを確認する手段をわたしは持たないのです。
この繰り返しが終わってくれればいい
もちろんそれが一番の望みです
その結末がたとえ…待つものが…死…だとしても…
わたしは前に進みたいのです
いえ、進むために準備をしてきたのです
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めぐる思考がひと段落したころ
コンコンと、ドアを叩く音が聞こえます
「お嬢様、そろそろお仕度しないと間に合わなくなりますよ」
メイドのアニーがドレスを抱えて入ってきます
「あら、もうそんな時間ですの
では、早速お願いいたしますわ」
読み返していた日記を閉じ、
全身を映す鏡の目に移動します
「お嬢様、ドレスは本当に、これでいいのですか?」
「ええ、何かおかしいかしら?」
「いえ、お嬢様には少し派手な色かと…
いつものような、もう少し淡い色の方でなくていいのかなって」
「ああ、よろしいのですわ
高等部に上がる皆と違って、
わたくしはこれが学園の最後でしょう?
多少派手な方が、思い出に残っていいかと思いまして」
「お嬢様がそうおっしゃるのならそれでいいのですが
衣装担当の者が少し嘆いていましたので」
「まぁ、それは悪いことをしましたわね
アニーの方から、あとでお詫びを伝えておいていただけますか」
「はい、わかりました
まぁ私としましては、このドレスもお嬢様にお似合いだと思いますけどね」
最近はすっかりころころ変わる笑顔を見せるようになってきましたが
メイド長は割と厳しいお方だったと記憶していますけど、いいのかしらこれで…
「それと、少しお願いがあるのですが」
わたしは束ねていた少しウェーブがかった髪をほどくと
アニーにこう言うのでした
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少し緊張しますわね
幾度となく、くぐった扉を前に息をのみます
この先で起こることはもう何度も経験して知っていること
それはおそらく今回も変わりないのでしょう
それでも…
ただ流れに流されていたころとは違います
今回は、協力してくれるものも居ます
そのために対策、日記もつけ、日々を記憶に留めておける様にしてきました
ルチアの暴走…いえ、提案で
学園でのわたくしを気にとどめていてくれるものも多いと聞いています
…他に何かできることは無かったのか
最善ではなかったのかもしれません
わたくし自身、
未だに置かれている状況を理解しているわけではないのです
ただこの決められた脚本から抜け出したい
…本当にあるのかわかりませんが
この先に、脚本の先の未来に進みたいのです
ヴィー様…
控えにある鏡に目をやります
そこに映るのは
…あなたの凛々しさを
金色の髪を縦に巻き
…あなたの気丈さを
扇子で口元を隠し
…あなたの尊大さを
深紅のドレスに身を包んだ
…どうかわたしに
「エリザベート様、入場お願いします」
扉に控えた下級生に声を掛けられ前に進みます
正直言えば怖いです
何度経験してもこの先に待ち受けているものが
待ち受ける結果が
抗えない結末が
いえ、だからと言って
立ち止まるわけにはいかないのです
なぜなら
わたくしは
いえ―
「わたしが、
わたしこそが
悪役令嬢エリザベート・リヒテンフェルト
なのですから」




