第3章 断罪の前日 第8節
第3章 断罪の前日 第8節
ルチアたちの協力も得られたことで、
過ぎゆく時に、より意識を向けて過ごすこととなりました
今回は気が付けば日々が過ぎていたと言う事もなく
日記のおかげでしょうか
過ごした日々を文字として刻む、
この行為で、同時にわたしの胸に記憶として刻まれていくのです。
過去に過ごしてきた日常と変わらないはずなのに
一日一日がまるで違ったものにも思えます
ただ、足りないものも余計に意識してしまうこともあります
ヴィー様…
わたしにこの繰り返す世界から抜け出すお力をお貸しくださいまし
…いえ、いくらヴィー様でもそのようなお力をお持ちではないわね
それはわたしに課せられたもの、ヴィー様を頼ることではありませんわ
見えていなかったのか、見ようとしていなかったのか
それは決して殿下の事だけではなく
この学園そのものの事でもありました
わたしが今までの繰り返しの中で
知らずにいたこと
知ろうとしなかったこと
何気ない日常を構成する人々の営みでさえ
ただそこにあって当然なものと
目にしていたはずなのに
わたくしの目には何も映していなかったのでしょう
書き上げられた脚本に疑問も持たず
ただ、決められた台本をなぞり役割を演じるそんな三流役者
それがわたくしだったのではと、
そう思うのです
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「ああ、姉上、ここに居られましたか」
「あら、テオどうかしたのかしら?」
この世界での弟のテオが話しかけてきます
「いえ、最近姉上が学園の中で、
よく迷子になっていると聞いたもので…」
…迷子?ですの?
「ええと、見てわかるようにノエルと、ソフィ様もご一緒しておりますし
迷子と言うのは…何か間違いでは?」
「テオ、ひさしぶり」
「お、弟様ですか、わ、私はソフィっですっ」
ノエルはまぁ子供のころから存じていますし、かわりないですが
ソフィはもう少し緊張癖を直した方がよいのではなくて?
「ええ、いくら姉上でも、
学園で迷子になるとは思いませんが」
なぜか含みを感じますわね…
「要するに、探しに来てくれたということですの?」
「ええ、まぁそうです…ね」
ふふ、最近ははツンツンとしていましたが姉離れが出来ませんのね
「それは、お手数をおかけいたしました
でも、先ほども説明した通り、
二人も一緒ですし心配するようなことはございませんのよ?」
「うん任せてテオ」
ノエルがポンっと自分の胸をたたきます
そこであわあわしているソフィ様は置いておくとして
まぁその噂の出所には、心当たりがありますし
「それならばいいのですが…姉上、」
「まだ何かありまして?」
「あ、いえ…そうっ!
もうすぐ卒業パーティーですから、
私も生徒会長としていろいろ企画を考えておりますので
楽しみにしておいてください」
なんだか他に何か言いたげな気もしますが
わたくし早急にルチアに会わなければいけないのです
「では、テオ、今日は早く帰れるのですか?
時間が合えばまた食事の席で」
「ええ、姉上、また後程」
生徒会長になってから忙しいのかあまり家でも顔を合わせないのですが
今日くらいは早く戻ってきてくれる事でしょう
「それで、ノエル?ルチアは何処にいるのかしら?」
「ん…あっちこっちで噂流してる」
「ソフィ様もご存じでしたの?」
「ひゃい!いえ、私は噂の内容までは…」
「そう、共犯でなければいいのです。
さあ、捕まえに行きますよ、付いてらっしゃいな」
足早にルチアの居場所を探します
任せておけと言いながら何のうわさを流しているのです!
まったく!、ほんとにまったく!
「ルチアいた」
「どこですのっ!」
「あ、ちょうど奥の廊下の角を曲がられました」
あ、あれですわね
「ルーチーアーっ!まちなさーいっ!」
「げっ、お嬢」
わたしの叫ぶ声に気が付いたのか止まればいいのに
驚いた顔をして逃げていきます
あれは…確信犯ですわね
わたしは何時ぶりかわからないほど全力で
そう全力で廊下を駆け出したのでした
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「学園生徒の見本たる公爵令嬢がなんたることですかっ!」
雷と言うものは室内でも落ちるものなのですね、新たな学びです
ええ、やってしまいました…
逃げるルチアを捕まえようとつい、全速力で廊下を駆け抜けてしまいました…
「反省しております」
「反省してまーす」
この場にはわたくしとルチアの二人
ノエルとソフィ様は付いてこれなかったようで、
雷の被害は免れたようですね
「あなたは国母となられるお方なのですから皆の手本となり…」
あぁこんなところでもわたくしに役割を求めるのですね
「先生、今回はうちが悪かっただけだからさー、
エリザベート様は許してやってよ~」
わたくしやノエル、最近はソフィ様もですね、それ以外では
令嬢としての一線は守っているはずのルチアが
教員に対してらしくない口調で言います
「何ですかその態度はっ!、まったくあなた方はいずれは国の…」
ルチアはちらりとわたくしの方を見ると
教員にはわからないように小さく舌を出します
ああ、わたくしばかりが責められないようにわざとでしたのね
でも、余計にお小言が増えたような気もしますが…
話を聞いていても、何処か他人に対しての言葉に聞こえて
ただ言葉が過ぎるのを待つのでした
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「で、釈明していただきましょうか、ルチア?」
教員に開放された後、改めて問います
「ええ、さっきので許してくれる流れじゃないの~?」
「よけいに話が長くなっただけではないですかっ!」
「いや~久しぶりにお嬢と追い掛けっこした気がするなっ」
何をさっぱりした顔で嬉しそうに言ってるのですか…
怒る気もなくしますわ
「まあ、注意を受けた件はいいのです、
それより迷子とはなんですか迷子とは」
「ああ、だってよ、前に教室間違えただろ?」
うっ恥ずかしい記憶がよみがえってきます
「そ、それが何の関係が?」
「だからさ、ちょうどなんでお嬢がクラス間違えたのかずっと噂になってたからさ」
そうなのです、知ってはいたのですが、知らないふりをしていたのです
「それで?」
「お嬢が学校内でよく迷子になってるって噂にしておけば
クラス間違えたのも、迷子になってたのかって…なるんじゃ?」
「なんで、最後が疑問形なんですのっ!」
「いや~、実際こううまくいくとは思わないじゃん?」
分からないのに行動に移さないでほしいですわ
「先程なんて、テオにまで迷子と言われましたのよ?」
「はっはー。相変わらずお姉ちゃん大好きだなテオは」
「笑い事ではありませんわよ、
でも何か他の事を伝えたそうではありましたの」
ルチアの事が無ければ聞いていましたのに失敗しましたわ…
「それは殿下の事じゃないの?お姉ちゃん大好きテオ君としては
やっぱり気になるでしょ、会長の引継ぎで殿下とも一緒になることも多いし」
「テオにも話しておいた方がいいのでしょうか」
「ん~どうなんだろ、パーティーの準備で忙しいだろうし
それに
お嬢の事を疑うわけじゃないんだけど
誰かを階段から突き落としたとかそれらしいことって
何もないからなぁ、何も起きない可能性もあるんじゃない?」
何も起きないと言う事は…無いと思うのですが
いえ、無いに越したことは無いのです
ただそうなったとき
今のわたしが殿下の婚約者という立場を受け入れられるのかと…
「おーい、お嬢ー」
「え、あ、そうですわね…何もなければそれでいいのです
でもわたしは、何かあるという考えで動きたいと思いますわ」
「うん、じゃあうちらもそうするわ、
でもテオには確信できるまでは黙ってな」
「そうですわね、あまり心配させるのも悪いですから」
「そうそう」
軽くそう返すルチアに少し呆れはするものの
これも彼女なりの優しだと言う事はわたしにはわかります
その後家路へ向かう馬車の中で
先ほどの会話を思い返すのです
一度求められる役割を外れてしまうと
もうその役割には戻れないのではないかそんな考えが浮かびます
今までの繰り返しから断罪は起きるものとそう思っていましたが
仮に断罪が無く、
本来の役割、殿下の婚約者と言う役割から外れていないとしたら
それこそわたくしは
三流芝居を続ける役者になるのではないのかとそんな気がしたのでした




