第3章 断罪の前日 第7節
第3章 断罪の前日 第7節
それからの日々は
そうわたしは、
ヴィー様の様に尊大で凛々しい態度でこの学園の悪役令嬢としてっ…
いえ、さすがにその…急に
「おーほっほっほ」と、高笑いするのは…
少し恥ずかしいと言いますか
いえ、それではヴィー様が恥ずかしい方のような
少しいけない考えがよぎります
ともかく、
わたくしが立ち向かうべき道筋が開けたような思いで日々を過ごすことになります
まずわたしは日記をつけはじめました
わたくしが、この日は誰と何をしていたか
それだけでもはっきりとした記憶として留めておけば
断罪の場でもただ聞くだけの状況が少しは変わるのではないかと
そして
「ルチア、ノエル、それとソフィ様。
皆様にお願いがあるのです…が…」
この後に続く言葉がどうしてもうまく紡げません
皆になら打ち明けても大丈夫だとわたしはそうおもうのです
たとえ信じていただけなくとも
おそらくわたしの言う言葉を真摯に受け止めてはくれることでしょう
そう信じることはできるのです
ただ、
あの時殿下の事を尋ねようとした時と同じく
考えてはいけない事だと思考を止めようとする何かが…
ヴィー様…
あなたのその気丈さをわたしに…
「わたしに…皆のお力をお貸しいただきたいのです」
爪が深く手のひらに食い込むほど強く手を握ります
「信じられないかもしれませんが…
わたくしは殿下の婚約者を解消される…のです」
少し場の空気が冷めたものに変わっていきます
「ご存じなのかも…しれませんが
殿下は今、お名前は…存じ上げないのですが、
先日編入してこられました男爵令嬢の方と…」
「お嬢、顔色がわるいぞ、また意識が無くなる寸前みたいだ」
「エリ様大丈夫?」
「エ、エリザベート様、一度暖かい紅茶でも、い、いかがですか?」
ソフィ様が慌てて茶器の置いてあるワゴンに向かおうとして、
躓きかけておられます。
その様子で少しですが気持ちが落ち着きました
皆それぞれに、わたしを心配してくれているのでしょう
それでも、言わなければ、前に進めないと思うのです
「卒業パーティーの時に、わたくしは断罪されその後…
どうなるのかは、わかりませんが…」
「まじかよ、そこまでか?」
ルチアの疑問もわからないではありません、
でも事実なのです、わたしがこの身をもって体験してきたことなのですから
でもそれは言えない事です
「ええ、それをなぜ知っているかは答えられませんが…
断罪の場で覚えのない罪状を挙げられ、
何も言い返せないまま…わたくしは、」
身体の震えが止まりません
両腕で体を包むように押さえつけても震えが激しくなるばかりです
「お嬢っ、しっかりしろ、冷たっ!なんだこれお嬢の体冷え切ってるぞ」
ルチアが傍に来てわたしが気を失わないように支えてくれます
「エリ様、手冷たいです…」
その反対でノエルがわたしの手を握り温めようとしているのでしょうか
「あわわわわ」
ソフィ様は紅茶をいれようとした手を止めあわあわ困惑しながら震えておられます
「わ、わたしは…怖い…怖いのです」
こんな気持ちを言葉にしてしまうほどわたしは混乱していたのでしょう
「わたくしは、公爵令嬢として
どのような事にも動じない様に生きてきたつもりです
たとえ…殿下の婚約者の立場を追われるとしても
それを受け止めるだけの覚悟はあるはずなのです
今まで貴族令嬢の矜持としてそう生きてきたではありませんか」
一つの言葉が流れると、続く言葉が流れるようにあふれてきます
「わたくしは。公爵令嬢・エリザベート・リヒテンフェルト
殿下の婚約者であり、この国の将来の王妃になる存在なのです
そう導かれ、学び、生きてきたはずなのです」
自覚していたのかもしれません、わたくしに求められているのは
役割だと、
「それを、その役割を、わたくしから奪わないで…」
自然と、涙があふれていきます
「お嬢…お嬢はさ、立派にやってたよ
それはすぐそばで見てきたうちらが保証してやるよ」
ルチアの言葉が耳に届きます
「昔のお嬢は、自由でさ、うちらを散々振り回してさ
お相手するのも大変だったもん」
「うん、エリ様すぐ走るから…ついてくの大変だった」
ノエルの言葉も続けて耳に届き始めます
「え、エリザベート様ってそんなに昔はやんちゃだったんですか?」
ソフィ様そういう聞き方は無いと思うのです…
「最近のお嬢の、ソフィ嬢に対する態度は昔のお嬢みたいだけどな」
少し笑いながらルチアが言います
「…えぇ誰にでもこうだったですか?」
…ソフィ様も言うようになりましたわね…
「そりゃそうだろ、
うちらと年の近い公爵令嬢っていえばお嬢だけだったんだから
立場的に殿下以外のだれも、
お嬢に何か言える相手なんていなかったさ」
そうでしたかしら…わたくし淑女としてずっと…
「それが殿下の婚約者候補になって、
それから正式に婚約者になると
だんだんと、今のお嬢に成っていった、って感じだな」
「そうなんですね、
私は学園でのエリザベート様しか知りませんでしたけど…
最近のちょっとなんだか…以前と違うかなーって
すこしっ!少ししですよ!
でも今の親しみやすいエリザベート様もいいですよねっ!」
ソフィ様のそれはフォローなんでしょうか…
でも、そのおかげでしょうか
冷え切っていた体に少しずつ熱が戻り始め
閉ざされていた視界が開けていく気がします
「…あの?わたくし、そんなに…その」
「お、少し体が温まってきたみたいだな」
「エリ様冷たくてびっくりした」
そう言う二人はまだわたくしの体を温めるかのように
それぞれ手を握り続けてくれていました
「エリザベート様、温かい飲み物ですよ、よかったらどうぞ」
「ありがとうございますわ、ソフィ様」
安心したような笑顔で、ソフィ様が温かい紅茶を差し出してくれます
「っつ」
口をつけると思ったより熱かったのか、わたしの体の方が冷えすぎていたのか
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、
熱すぎましたかっ今すぐ冷ましますっ!ふーっふーっ!」
なんでしょう、このかわいい生き物は…
「いえ、だいじょうぶですわ、ご心配おかけしました」
「それでお嬢、話を戻すけどさ。
ああ、言いにくかったら返事だけでいいぞ、
うちらも何も知らないわけじゃないからさ」
ルチアの言葉に少し緊張が戻ってきますが
「お嬢も、気が付いていたってことだよな?最近の殿下たちのこと」
「え、ええ、少し…ですが」
「うちらとしては、お嬢が何も言わないかぎり
何かするつもりもなかったけどさ」
「学園内でも少し…噂にはなっていたんですが
エリザベート様が何もおっしゃいませんし、
わかっていて、見過ごしていらっしゃるんだろう、
という声が大半で…」
ルチアに続いてソフィ様が続けます
「殿下…がどう考えてるかは知らないけどさ
所詮は男爵令嬢だからな、あのピンク頭、
どうなるものでもないって思ってたんだけどさ立場的に」
「でも中央の侯爵の隠し子の噂ある」
「まじかよ、どこで聞いて来たんだノエル?」
「ないしょ」
ノエルが驚くような情報を口にしますが、
男爵、公爵かが問題ではないのです
「殿下がその方を選ばれるならわたしはそれでいいのです
その先に…」
…わたしはその先に進む未来が欲しいと
でも、何といえばいいのでしょうか…
今のわたしが置かれている状況を説明したとして
理解していただけるのでしょうか。
まだ、おかしな夢でも見てい居るとでも思われるのでしょうか
そう言葉を探していると
「ならさ、お嬢は、
殿下の婚約者じゃなくなってもいいってことなのか?」
「え、ええ。
そうですわね、なんだか今は、
その役割から外れるならそれはそれでいいのかも、と。
思い始めていますわ」
不思議ですね、先ほどまでは
その役割に囚われていた気がしますのに
こうして皆と話をしていると
どこか解放されていくような気もします
「それで、お願いしたいことなんですが
今わたしは日記をつけていまして、
罪状を挙げられても、
その日に別の事をしていたと言えるようにしているのです」
「ああ、それはいいかもな」
ルチアも同意してくれます
「ただ、わたしだけですと証拠としてはよわいもので、
できれば協力してほしいのです
日記とまでは言いませんが、
いついつわたくしと一緒にいたという証明が出来るように
何かメモでも残していってもらえればと」
「ああ、いいぞ、日記はうちには無理だけど、
公爵様に出す報告書には書いてることだから…これ言っていい事だったか?」
…それは初耳なんですが
のちほど問い詰めることにいたしましょう
「ルチア迂闊、わたしは日記書く」
ノエルはいい子ですね、
こちらも後で聞くことがありそうですが
「あ、あの、それは私も…何でしょうか?」
ソフィ様が恐れながら聞いてこられます
「ええ、ソフィ様には申し訳ないのですが
貴族のやり取りに証拠としては弱いとも思いますが
ルチアとノエルの二人だけですとわたくしの側近ですから…
他の方の情報は出来るだけ多い方がいいかと思いまして
いかがでしょう?ご協力いただけますでしょうか」
「はいっ!もちろんですっ!」
ふふ、元気のいいお返事ですこと
「それならさ、クラスのやつらにも
どこかでお嬢見なかったかとか、
わざと聞くようにするよ」
「どういうことですの?」
「普段から、お嬢どこ行ったーって言ってれば
他の奴らも、お嬢がどこにいるか気にするようになるだろ?」
「そう…ですの?」
「おう、直接日記を書いてくれとかは頼めないけど
普段お嬢がどこにいるかを、みんなが気にしてくれるようになれば
その断罪の時に、言い返してくれる奴らも出てくるかもしれないだろ?」
「そういうものでしょうか?」
「まぁその辺はまかせとけって、最近のお嬢の奇行のせいで
学園で見つけやすい空気にはなってるからさ」
なんだか聞き捨てられない言葉が聞こえましたけど…
「まぁ、いいでしょう、
そのあたりはルチアにお任せします、
ご足労おかけいたしますが、おねがいしますわね」
「ああ、任せとけって、
ノエルとソフィ嬢はなるべくお嬢と一緒にいるようにしてくれな」
「うん了解」
「あ、はい。おませくださいっ」
「ルチアにノエル、ソフィ様もよろしくお願いいたしますわ」
こうして、
少し前向きに断罪に向けて
わたしの心も時を進めることが出来るようになったのです




