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序章

はじまります


序章



「――エリザベート・アルンハイム公爵令嬢。

これ以上、君の振る舞いを見過ごすことが、できない」


……あら。


今、殿下はなんとおっしゃいましたの?


視線を向けると、そこには見慣れたはずの婚約者


この国の第一王子である殿下が、壇上に立っていらっしゃいました。


けれど、そのお顔は


以前のような穏やかな微笑みではなく、どこか硬く、そして……妙に、感情が薄いように見えます。


「よって、ここに宣言する。

君との婚約は――破棄、だ」


その言葉を聞いてわたしの頭の中はまっしろになりました。


どこか現実味の無い、まるでお芝居の中に紛れ込んでしまったかのような。


わたくしに向けられた言葉が、わたしではない誰かに向けられているような、そんな感覚でした。


「おい、聞いているのか?」


誰かわからない方の声で意識が戻ります。


いえ、それでもまだなんだかふわふわとした気分で現実味はありません。


それでも、わたくしは王妃となるべくして育てられてきた公爵令嬢


…変な顔してなかったかしら?


そう、いつものように毅然として前を向きますの


そうして改めて見ると


殿下の隣には、見知らぬ令嬢が立っていました。


淡い色のドレスに身を包み、今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で、けれどしっかりと殿下の腕に縋っています。


…親切、ですのね、殿下


そう思ったのは、


わたしだけだったのかもしれません


少なくとも、この場にいる貴族の皆さまは、すでに筋書きを知っているかのような顔をしていらっしゃいましたから。


「エリザベート。君はこれまで、この者に対し数々の嫌がらせを行ってきた」

「学園内での中傷、孤立化、器物破損、階段から突き落とそうとした件……」


……いったい…なにをおっしゃって?


一つひとつ挙げられていく罪状に、わたしは首を傾げそうになりました。


(そんなこと……いたしましたかしら)


いえ、断言できるほど記憶が明瞭というわけではありません。


ですが、少なくとも――誰かを階段から突き落とすような真似をした覚えは、


ありませんでした。


「何か言い分はあるか」


そう問われ、わたくしは一瞬、言葉に詰まります。


……あら?


完全に身に覚えがない、


と言い切れないのが、いけなかったのでしょう。


学園生活は忙しく、日々は慌ただしく過ぎていきます。


知らぬ間に、何か誤解を招くことをしていたのかもしれない…


と、思ってしまったのです。


「……いえ……覚えは、まったく……」


そう口にしかけた瞬間、


「もういい。これ以上の弁明は不要だ」


殿下の声が、わたくしの言葉を切り捨てました。


……ええ。


そうですわね。


これ以上わたしに聞かれてもお答えできませんし


それにまだお芝居の中にいるような感覚が抜け切れていないためなのか


ここはそういう場なのですもの。


そう…思わなければ、


立っている事も出来なかったかもしれません



その後は何も言いませんでした。


声を荒げることも、涙を見せることもなく、


ただ静かにその場に立っていました。


それが公爵令嬢としてこの場にいるわたしの矜持


…納得は、していませんでしたけれど。


いえ、でもそうですわね、


考えてみればわたしには身に覚えのないことですもの、


あちらに先生も、


生徒会のみな…弟だっているはずですものね


きっと何かの間違いだって…思って


…くれますわよね?


殿下の護衛の騎士の方たちに後ろ手を拘束され


パーティー会場を後にします


そう言えば学園の卒業パーティーの途中でしたわね、


あぁせっかく今日のために用意していただいたドレスも


ろくに披露もできないまま…


そのようなことを考えていると、


扉のしまった後ろの方で誰かが叫ぶような声が聞こえてきます


あれは…ふふっ相変わらず騒々しい方ですわね


でもおかげで少し気持ちも…



その後は、淡々と処分が進みました。


誰も、家族とでさえも会うことは出来ずに


幽閉され何も弁解一つできないまま…


身分の剥奪、幽閉、


そして――最終的な裁定。


…不思議ね


…不思議ですわね


最後まで、わたしは自分が何をしたのか、


はっきりとは分からないままでしたの。


ただただ恐怖よりも、困惑の方が強かったのですから。




――そして。


わたしの意識は、ふっと途切れたのです。




##############################




……柔らかい。


最初に感じたのは、そんな感触でした。


……少し、寝過ぎたかしら


目を開けると、視界いっぱいに広がるのは、白い天蓋。


見慣れたようで、けれどどこか違う装飾。


……あら?


起き上がろうとして、わたしは違和感に気づきました。


ベッドの感触、部屋の広さ、空気の匂い――すべてが、微妙に違うのです。


「お目覚めでございますか、エリザベート様」


扉が開き、使用人が入ってきました。


……どなたですの?メイドの格好はしてますけれど、


知らない顔、


ですわね。


「あの…あなたは…」


そう問いかけると


まるでそれはいつもの日常以外の何物でもないような、


何気ない表情で


「エリザベート様?どうかなされましたか?」


彼女はそう言います


…胸が、どくん、


と嫌な音を立てます。


「そろそろ起きてくださいね、学園に間に合わなくなりますよ」

「旦那様たちも朝食の席で…」


わたしの困惑にも気が付かず、カーテンを開けながら見覚えのないメイドが話しかけてきます


「あの…あなた…」

「ここは……どこですの?」


声が、震えているのが自分でも分かりました。


わたくしの様子がおかしいことに気が付いたのでしょうか


「……」

「……」


メイドはいろいろと話しかけてきますが


言葉が頭に入ってきません


…どういうこと?どうなってますの?


わ…わたくし…あの時…


そうしているうちにメイドが呼びに行ったのでしょうか


次々と人が集まりだし


まるで、王妃としての教育を受け始める前の子供の時のように取り乱すわたしを


母と名乗る女性がわたしを抱きしめ、


父と呼ばれる方が心配そうに手を握り


皆、わたしのことを本気で心配しているようでした。


暫くして落ち着きを取り戻したわたくしは、深く息をつきます。


夢……でしたのでしょうか


わたくしはエリザベート、


間違いないですわ


確かに皆そう呼んでますもの


きっと長い夢を見て少し混乱しているだけ、


見覚えが無い、家族と言われる方々にも


ちゃんと懐かしい温かみを感じますもの


そうねきっとあれは夢


きっと…そう、そうですわ。


処刑…なんて、物騒な夢を見ただけ。


そう思おうとしました。


けれど…けれどそう


あの時、


眠りに落ちる前


確かに聞いた


「――違う。

まだ、――」


あの声だけが…残って…



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