トントンとピコとキノコの妖精
ある朝、トントンとピコは森へ出かけました。
木の葉の下で雨あがりのしずくがきらきら光り、
あたりにはふわっと、土と草のにおいが広がっています。
「ねぇピコ、きょうはベリーじゃなくて、キノコをさがそう!」
「えぇ〜、キノコって食べられるやつとダメなやつがあるんでしょ?」
「だいじょうぶ!図かんも持ってきたから!」
ふたりはバスケットをかかえて、森の奥へ進みました。
木の根もとには小さな白いキノコ、
倒れた丸太のうえには赤いキノコ、
そして木かげの奥には、まるでかさを重ねたような大きな群れ。
「うわぁ……きれい!」
トントンが目をこらすと、そのキノコのかさが、
かすかに光っていました。
「ねぇピコ、光ってるよ……」
「へ? まさか……キノコって光るの?」
そっと近づいたトントンが指で触れようとしたそのとき、
「ひゃっ!」と小さな声が聞こえました。
ふたりがびっくりして見ると、
光るキノコのかさの下から、ちいさな顔がのぞいていました。
「いたた……もう、さわらないでよ〜」
それは、キノコのような帽子をかぶった小さな森の子。
背中には、苔みたいなマント。
「きみ、だれ?」とピコが聞くと、
「ぼく? ぼくは “ヒカリタケの妖精” 。森を照らすお仕事してるんだ」
「へぇ〜!夜も明るくしてるの?」
「うん。でもきょうは困ったことがあって……」
ヒカリタケは小さくうつむきました。
「ぼくの光、森の北のほうにいる “カゲモリの妖精” に、ぜんぶ吸い取られちゃったんだ」
「カゲモリ?」
「影だけの大きなキノコ。光がきらいで、夜になると森じゅうを暗くするんだ」
トントンとピコは顔を見合わせました。
「放っておけないね!」
「うん、助けよう!」
三人はいっしょに森の北へ向かいました。
木々のすきまはだんだん暗くなり、風が止まりました。
やがて見えてきたのは、黒い霧のような大きなキノコ。
その足もとには、眠るカゲモリの妖精。
体は木の影みたいにゆらゆら揺れていて、
まわりの光をぜんぶ吸いこんでしまいます。
かさの下からは黒いもやが立ちのぼり、
風もないのに、森がざわめくようでした。
「どうしよう……近づいたら吸い込まれちゃう」
ピコが羽をすぼめたそのとき、
トントンはカゲモリの顔を見つめながら、小さくつぶやきました。
「……なんだか、さみしそうだ」
ピコが首をかしげます。
「そういや光がきらいなのに光を集めるなんて、へんなやつだね」
トントンはゆっくり立ち上がりました。
「もしかして、光がまぶしすぎて怖いだけなのかも」
ふと、ヒカリタケのかすかな光が目に入りました。
「ねぇピコ、あの光……あたたかいでしょ?」
「うん、やさしい光だね」
「そうだ、光は怖くないって伝えてあげよう」
ピコは良いアイデアだと思いましたが、同時に疑問も浮かびました。
「オイラたちの言葉、聞いてくれるかな?」
「じゃぁ、ふたりで歌ってみようよ」
「歌うの?」
「そう、歌は誰にでも伝わるんだよ」
トントンとピコは胸をふくらませ、
やさしい声と笑顔で仲良く歌いはじめました。
おひさま わらう そらのした ♪
にこにこ えがお ひかりのうた ♫
たのしい こころ ひらくとき ♪
まぶしい ひかり かえっておいで ♫
その声が森をゆらし、カゲモリの黒い体がふるえました。
かさの下で、小さな光がひとつ、ゆっくりと明るくなります。
「……あたたかい……」
カゲモリの声が低く震え、
黒いもやがやわらかく溶けていきました。
ヒカリタケたちの光がふたたび森に広がります。
「ありがとう、トントン、ピコ!」
「もう夜がこわくないよ!」
帰り道、森は金色の光に包まれていました。
「ねぇトントン、キノコって、食べるより守る方がむずかしいね」
「うん、でもおいしいキノコもちゃんとあるから、明日は食べよう!」
ふたりの笑い声が、光る森にやさしくひびきました。




